15 すれ違い
ジュリアン、クリストファー
「ああ……やってしまった……」
ジュリアンは頭を抱え、深くため息をついた。
「君たちもそう思うだろう。無礼講だ、なんとでも罵っておくれ」
ジュリアンの言葉に、ウィルとエレインが顔を見合わせるのがわかった。
「そうは言いましても……」
「売り言葉に買い言葉になるのも、仕方ないかと……」
「そうだろう、そうだろう? ああいうところが、ご両親とも理解し合えない根本原因な気がするんだよなぁ。まぁ、叔父上には問題がありすぎだけど、それを差し引いてもさ……」
我が意を得たりと一瞬喜びはしたが、さほど長続きはしなかった。
「まいったな」
「そんなに困ることでしょうか? ジュリアン様とジョージアナ様は、仲がよろしいですし、ご結婚なさっても、いいご家庭を築けそうな気がします。もちろん私は、ジョージアナ様にはクリストファー様と結婚していただきたいですが」
「ま、ね。仲はいいけど、お互いにそういう対象ではないから。やっぱり兄妹みたいなものだと思うよ。僕は妹がいないから、感覚でしかないけど」
「恋してはおられないと?」
エレインの言葉に、ジュリアンは少し考えた。でも、やはり、そうそう感覚は変えられない。
「広い意味の、家族としては愛しているよ、もちろん。でも、それまでだ。だからと言って、結婚できないわけじゃない。そういうものだと言われれば、なるほどなと結婚するだろうね」
「お好きでもないのに?」
「条件は満たしてるから。人として好ましく思っていて、頭が良くて、親切で、しっかりしている。信頼できるから、家を任せても安心だろう」
エレインが困ったようにジュリアンを見た。
「……そこまでよくご存知で、本当に愛しておられないのですか?」
「あいにく、そんな目で見たことがないんだ。ジョージアナはどちらかというと、同志に近いかな。強いて言えば、僕は君のような人のほうがいいね」
ジュリアンが笑いながら言うと、ガシャンと茶器がぶつかる音がした。
「どうしたんだい? 大丈夫?」
「あ、いえ、ジュリアン様がおかしなことをおっしゃるから……」
「おかしなことって?」
「私のような者がいいなどと、お戯れをおっしゃって」
「嘘でも冗談でもないけど……君がそう思うなら、そうなんだろう」
澄ましたジュリアンの言葉に、ウィルがクスリと笑った。
「エレイン、今まで君、誰にどう口説かれても動揺一つしなかったのに……君も人間なんだね」
「何を言うの、ウィル。私はいつだって困ってるし、第一、誰もどうも口説かれていません」
「え、でも、こないだ」
「何もありません。私はジョージアナ様の侍女としてまだまだ働くんですから」
「別に結婚したって仕事はできるよ、エレイン」
「ウィルぅぅぅぅ」
☆☆☆
エレインがウィルを半泣きで呼んだ。
それまで、彼らがどんな会話をしていたのか、クリストファーには、わからなかった。ドアに隠れて耳を澄ませていたにもかかわらず、彼らの声がさほど大きくなかったのと、衝撃が大きすぎたためだ。
たまたま通りかかった部屋からジョージアナが出てきたのは驚いたが、さらに、彼女があんな大声で決意を言い出すとは、思ってもみなかった。
わかっていたはずなのだが、やはり、言葉にされると辛いものがあった。ジョージアナは確かに、ジュリアンと結婚したいと言っていた。怒り声だったが、おそらく、ここの滞在が長く、うまく話が進んでいないからだろう。もしかしたら、ジュリアンに、自分との仲を疑われてしまったのかもしれない。ようやくクラリッサがきて、ホッとできるのだろう。
クリストファーは自分が傷ついているのがわかった。それも、思ったよりも深く。
ジョージアナの態度が可愛かったから。優しく、自分を気遣ってくれたから。自惚れていた。
クラリッサを呼んで、話し合い、手順を踏んでこの話を白紙に戻せば、クラリッサの経歴には傷がつかないはずだ。その上で、ジョージアナに申し込もうと思っていた。すでに相手がいるのに、別の女性に手を出そうとすれば、それは愛人であり、不名誉なことだ。ジョージアナにそんなことはさせられない。そう思って、一抹の不安を感じないようにしていた。
でもそれは間違っていなかった。
彼女はあくまで、自分のことはクラリッサのお相手としか見ておらず、自分だけが愛していたのだ。
クリストファーは足元がぐにゃりとするように感じた。
そうだ。自分は彼女を愛してしまったのだ。迷惑にしかならないのに。




