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14 準備中

ジョージアナ

「ジョージアナ……本当にこれでいいのかい?」


ジュリアンが言った。


屋敷はクラリッサを迎える準備で大わらわで、ジョージアナはその手伝いをしていた。クラリッサの好みになるべく合わせるよう、部屋の内装に手を加えるためだ。


彼女は美しいものが好きだが、本は好きではないので、部屋に置くのは、装丁が美しい本を飾りとして置けばいい。あとは、手の込んだ細工の陶器やタぺストリーを飾れば、彼女は喜ぶだろう。美術品は自分と同じくらい好きだから。


「何が? 私は自分の仕事をしているだけよ。邪魔しないでくれる?」

「随分と刺々しいね」

「そんなことないわ」

「何もできない僕に怒っているんだろう」

「まさか」


ジョージアナは振り向いた。


「まさか……私たちに、一体何ができるというの?」

「僕は何もできないけどね。そもそも、君が何かをされないようにと守りに来ただけで、こういうことは考えていなかったから」

「こういうことって?」

「侯爵が良い方で、君が彼に惹かれ、クラリッサがこちらに来るという事態だよ」

「まぁ……」


ジョージアナは言葉を失った。とてつもなく恥ずかしい。


「惹かれてなんて……」

「僕としてはね、ジョージアナ。君もクラリッサも、僕の大事な従姉妹だよ。クラリッサのためにも、侯爵がどんな方か確かめたかったから、ここについて来た。もちろん、君が不当な目に遭わないようにと、そちらが第一優先だったけど」

「ええ、わかってるわ」

「クリストファー様は、評判よりずっといい人だとわかった。むしろ、彼の評判は、彼が不器用なことと、嫉妬ややっかみだろうなと思うね。君もそう思うだろう?」

「ええ」

「今では、僕はクリストファー様には好意的だ。僕の大事な従姉妹を託しても、充分安心できると思ってる」


わかってる。クラリッサが一番なのだから。


ジョージアナは辛い気持ちを押し殺してジュリアンの言葉を待った。


「でもね、ジョージアナ。僕はクラリッサより、君の方がクリストファー様と合うと思ってるんだ」


驚いて、ジョージアナはジュリアンを見た。ジョージアナを喜ばせる嘘を言うような人ではない。ジュリアンは本気だ。


「まさか。私なんて、とても無理よ」

「どうして?」

「釣り合わないわ」

「肩書きとして言うならば、クラリッサも同じだよ」

「違うわ。クラリッサみたいに、素敵な子はなかなかいないもの」


ジュリアンは肩をすくめた。


「そりゃ君はそう言うだろうさ。クラリッサは明るくて可愛くて華やかだ、でも、クリストファー様がそれだけを求めていると?」

「何を当たり前のことを?」

「僕はそうは思わないよ、ジョージアナ。クリストファー様は聡明で地に足のついた方だ。彼が求めているのは、お飾りじゃなく、共に歩んでくれる人だ。それを証拠に、彼は領地についての君の意見も聞いたらしいじゃないか?」

「それは……ただの戯れの会話だもの、話くらい、聞くでしょう?」

「それだけじゃないよ。使用人というのは、主人の求めているものを察知し、先に用意しておく必要がある。君はエレインと仲良くし、執事に倉庫に案内され、君好みの食卓ができつつある。そう、君が居心地がいいように、彼らは準備しているんだ。クリストファー様のために」

「そんなはず……」


そんなはずはない。だが、ジョージアナは動揺を隠しきれなかった。同僚として求められているだけなのでは? クリストファーのためなんかじゃなく。


「君はどう思うんだ、本当は侯爵を好きなんだろう」

「……いいえ」

「きっと君が愛しているといえば、侯爵だって考え直してくださるだろう。ご自分が勘違いしていたと気づくはずだ」

「やめてちょうだい」


そんな惨めなこと。


「同情されて結婚するくらいなら、あなたと結婚する方がマシよ」

「ジョージアナ!」


ジュリアンが驚いた顔でジョージアナを見た。思いもよらなかったといった顔をしている。


ジョージアナだって考えたことがなかった。今までだって、今だって……ううん、今は、別に構わない。むしろ、自分のことをこれだけわかってくれるなら、ジュリアンがいいのかもしれない。


笑って一蹴されるだろうと思ったが、ジュリアンは不機嫌そうにこう述べた。


「それじゃ、僕と結婚するかい? 最終爵位は子爵夫人にしかなれないけど」

「充分よ。父だって子爵なんだし、それ以上の肩書きが私にふさわしいとは思わないわ。もともと、結婚するつもりだってなかったのよ。父も母も、無理だろうって」


すると、ジュリアンはため息をついた。


「君は一体いつまで、ご両親の言いなりなんだ。そろそろ自分で先を決めてごらんよ。君はどうしたい? 何を望んでる?」


ジョージアナの頭には、ジュリアンの言葉が拷問のように響いた。


『君はどうしたい? 何を望んでる?』


生まれてからこれまで、望みなど一度も叶ったことがなく、クラリッサの望みを叶えてきたのだ。


自分の望みを持つことすら、許されなかった。だから、そんなこと、考えるのを忘れていた。


そんなこと、私にできるの?


望んでも、叶わないことはわかってる。いつだって、一番の望みは叶えられなかった。


でも、二番目なら、三番目なら、……


「もちろん、あなたと結婚したいわ、ジュリアン」

「それは本当かい?」

「嘘をついてどうするの」


言いながら、ジョージアナの頬はこわばり、ジュリアンはうんざりした顔をし、ウィルとエレインは泣きそうな顔になっていた。


これほどまで、甘くも優しくもないプロポーズがあっただろうか。ロマンスのかけらもない。


二人はにらみ合い、ついに、ジュリアンが深くため息をついた。


「強情っぱりだな。それなら、もし、万が一、クリストファー様とクラリッサが結婚したら、式に出席したその足で、君のご両親にご挨拶に行こうじゃないか」

「ジュリアンはそれでいいの?」

「もう少し時間は欲しかったけど、いつかは誰かと結婚するんだ、君でも構わないよ」

「そんな風に、投げやりに決めてしまってはダメよ。もっと考えて……」

「その言葉、僕が君に言いたいよ。本当に僕と結婚したいと思ってるの?」


カチンときた。ジョージアナはいきり立って立ち上がると、居間を飛び出した。


「本当よ! あなたと結婚したいって思うんだから!」


と、およそセリフの内容とは噛み合わない様子で、捨て台詞のように言いながら。ドアを開いた拍子にぶつかりそうになった人影に気づかないまま。


そして、その後も、ドアの外で立ち尽くす人影に、誰一人気がつかなかったのだった。




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