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12 惹かれ合う日々

ジョージアナ

「クリストファー様」


はやる気持ちで声をかけると、書斎でくつろいでいたクリストファーが顔を上げた。


「どうしたんだい? やけに楽しそうだね」

「先日、教えていただいた本が読み終わりましたの。とても興味深かったですわ」

「そうかい。随分と早かったね、ジョージアナ」

「ええ、いつも素敵な本をお貸しいただいて、ありがとうございます。誰にも見咎められないばかりか、エレインも執事も、それにあなたも、本を読む私にこうして付き合っていただけるなんて……まるで天国のようですわ」

「大袈裟だな」


まんざらでもない顔で、クリストファーが微笑んだ。ジョージアナは嬉しくなり、思わず話を続けた。ここ数日で、かなり打ち解けて話せるようになってきた。それもこれも、本のおかげだ。読めば読むほど、共有できる知識が増えて、会話もつながるようになる。ジョージアナには幸せな出来事だった。


「それにね、今日は執事さんに領地についてのお話をしていただきましたの」

「ほう?」

「この領地の特産品は、ワインではなくて、タペストリーですのね」

「そうなんだ。昔はもっと盛んだったそうなんだが、何しろ、複雑なものだから、なり手もいなくてね。でも、私はとても好きなんだ。小さな日常の絵から、壮大な歴史絵巻まで、たくさん描ける技術もあるし、繊細でとても美しいんだよ」


「このお屋敷にもたくさんありますのね。私、執事さんに案内してもらって、全て見せていただきましたの」

「全て? 倉庫にあるものも? 僕のことだって、貴重なものがあるからと、倉庫にはなかなか行かせたがらないのに」

「私がねだりましたのよ。こんなに素敵なものがあるなら、もっと見せて欲しいって」

「それはなかなか……おねだり上手だね」

「みなさん、とてもよくしてくださるの。クリストファー様がお優しいおかげですわ」


ジョージアナがそう言うと、クリストファーは頬を赤らめた。


「冗談はよしてくれないかな。私が世間でどう呼ばれているか、知っているだろう?」

「ええ、聞いたことはありますわ。でも、以前言ったように、噂の真偽は自分で確かめることにしておりますの。もちろん、初めは、冷たくて意地悪で、女性に気まぐれで、恐ろしい方なのかと思っておりましたけど……」

「けど?」

「今はわかります。クリストファー様はお言葉が足りないだけで、とてもお優しい方だと。クラリッサも、安心してくることができると思いますわ」


言うと、クリストファーは困ったように表情を変えた。


「そのことなんだが……」

「タペストリーですけど」


ジョージアナはとっさに話を変えた。


クラリッサはいつくるのだと怒られたことはないが、時折見せる苛立ちの表情から、ジョージアナにはわかってた。クラリッサの方がもっと上手にできるのに、楽しくできるのに、きっとクリストファーは、そう思っているに違いないと。


今のことだって、わかっているならそれをクラリッサに早く伝え、安心してこちらに嫁いでくるようにと、言って欲しいと言われるだけなのだ。


「タペストリー?」

「ええ。作り方を周知して、希少性を高めて、こんなに素晴らしいものだと宣伝をすれば、もっと高く売れるかもしれませんわ……加えて、特注品に、もっと特別感を持たせればいいんですわ。あんなに素敵な織物ですもの、作り手にも何かいいことがないとなりませんわね。制作現場にクリストファー様が直々に足を運ぶとか、ねぎらうとか、褒めるとか。きっと、はかどるでしょうね……」

「私が前面に出て大丈夫だと思うかい?」

「ええ、もちろんですわ。とても素敵ですもの。お会いできるだけでも、みなさん、きっと嬉しいと思いますわ」

「そうかな……やってみよう」


クリストファーが思案気に頷いた。ジョージアナはハッとして恥じ入るように俯いた。


「こんな話、無粋でしたわね」

「いや。とても助かったよ、ありがとう。こんな話をすることは、最近、ほとんどなかったからね」

「そうですの?」

「信頼して手伝ってくれる執事や家令がいるけれどね。私は子供扱いで、いつも蚊帳の外なんだ」

「まぁ。ご当主を差し置いて話を進めるなんて、ひどい使用人ですこと」


ジョージアナがクスクスと笑うと、クリストファーは穏やかに目を細め、じっとジョージアナを見つめて来た。視線の優しさに戸惑い、ジョージアナはドキドキと行き場のない胸の高鳴りを感じた。


「ジョージアナ……」


躊躇いがちに重ねられた手を、ジョージアナは恐怖に駆られてそっと押しとどめた。


「きっとクラリッサの方が、私よりずっと上手くできますわ。何しろ、あの子はとても素直で、優しい子なのですから」

「……そうかい。それは楽しみだな」

「ええ、それまでお待ちくださいませ」


もう少し。


もうちょっとだけ。


誰にも邪魔されず、本を読んで語り合う時間が続きますように。


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