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森村 沙織(もりむら さおり)

森村財閥。

日本を代表する財閥の一つ。

現在、わたくしのお父様が代表を務めていらっしゃいます。


わたくしには、お兄様が一人おりますので、後を継ぐのはお兄様になるのでしょう。

現在、お兄様はお父様に付いて仕事を覚え、大財閥を率いて人の上に立つ者としての資質を高めておられます。


 わたくしは、跡を継がなくてもよい気楽な立場ですが、有力な家系との結婚に期待されていることは常々感じております。そのために幼いころから様々な習い事を嗜んでまいりました。


 茶道、華道、書道、乗馬、スイミング、ピアノ、バイオリン、日本舞踊。

わたくしは、このような習い事については、先生方から強く勧められましても、コンテストや大会を、ご辞退させていただくことに致しております。

もし、わたくしが出場致してしまいますと、庶民の皆様との実力差があまりに開きすぎておりますので、健気に努力を重ねて来られた庶民の方々が、お気を落とされてしまうことを避けるためでもあります。


 わたくしのお父様とお母様は、日本生まれの日本育ちで日本国籍をお持ちですが、わたくしの生まれはモナコのモンテカルロという所です。

そこにはお父様の別荘がありますの。他に別荘は、世界中に五つほどしかございませんが。


お母様が、わたくしを授かった事が分かった時点で、モンテカルロの別荘に滞在することを決めたそうです。

そこは地中海に面しているとても景観の素晴らしい場所です。

と、申しましても皆様のことですから、一度は訪れたことがおありかと思いますが。

ですので、わたくしの国籍はモナコ公国です。


 語学に致しましても、英語、フランス語、スペイン語、中国語の読み書きはもちろん、日常会話程度でしたら、通訳など必要ございません。

これくらいの語学を学んでいれば世界中の大半の方とコミュニケーションを取ることができます。


 ですから、世界との繋がりが多いお父様と、海外セレブ達とのパーティーの場に出席した時でも不自由をせずに交流を持つことができます。



わたくしの住んでいるこのアパートの名前、


『メゾン・ド・コント・ド・フェ』


とは、フランス語で、


『おとぎ話の家』


と、いう意味です。

博識な皆様は、この程度の簡単な単語はご存知でしょうけれど。


このアパートは、外観はそれなりにおしゃれを意識したような造りをしているのですが、部屋の広さは使用人の支度部屋という趣で、非常に窮屈に感じております。


 なぜ、わたくしがこのような使用人の支度部屋風情のアパートに住まなければいけないのかと申しますと、お父様からの申しつけで、


「社会勉強の為、庶民の生活を体験しなさい」


と、いうことのようです。


 ですから、三か月という期間限定ではございますが、庶民の住むこのような小さなアパートというもので生活をし、森村財閥の系列会社の一つで受付嬢というお仕事をさせていただくことになりました。


 受付嬢というお仕事は何とも退屈なお仕事です。

朝から夕方まで会社の入り口で座っているだけ。時折、何やら話しかけてくる男の方がおられますが、受付嬢というお仕事を普段から行っているという先輩の方が受け答えをしてくださいますので、わたくしはただ、じっと座っているだけでよろしかったようです。


 一度、わたくしの目の前で、


「駅への道順を教えてほしい」


と、おっしゃられた男の方がございました。


 駅というのは、小さな箱に庶民を沢山閉じ込めて移動する電車という乗り物に乗るための場所、ということは存じて上げておりました。

しかし、わたくしがそのような野蛮な乗り物に乗るようなことはございませんので、駅という場所がどこにあるのか、存じ上げておりませんでした。


わたくしの場合でしたら、使用人の小野寺に、


「駅という場所に行きたいのだけれど、行けて?」


と言えば、わたくしはリムジンの後部座席に座っているだけでよく、後は小野寺に運転をさせておけば、目の前まで送り届けてもらえます。


 この質問をなさった男の方には使用人がいらっしゃらないのかしら。

仕方がありませんので、タクシーという運転専門の使用人がいる場所を教えて差し上げました。


 あら、もうこんなお時間。

お紅茶でも淹れましょうね。


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