犯人
死体は寝かせたまま。
いつまでも、このままにしてはいられない。
しかし、移動しようにもワンルームのこの部屋では、選択肢が限られてしまう。
チャイムが鳴ってから、少し時間が経ってしまった。
ゆっくりと玄関扉を開けると、そこには二人の女性がいた。
初めて見る顔だったが、二人ともにこやかな笑顔を浮かべている。
「不安を抱えてはいませんか?」
年配の方の女性が、微笑みながら問いかけてきた。
何か知っていて訪ねてきたのか?
―――死体の処分に困っている。
なんて、思っていても言えない。
こちらが答える前に
「神の存在を信じますか?」
年配の方の女性が、続けて問いかけてきた。微笑みは絶やさぬままに。
ちっ、宗教の勧誘か。
こういうのは、ちょっとでも話を聞いてしまうと、長々と時間を取られてしまう。
死体をどうにかしなければいけないのに、無駄な時間は使いたくない。
「そういうの、興味ないから」
と、きっぱりと断り、扉を閉めた。
扉の向こうから人の気配が遠ざかる。
ふーっと息を吐き、死体を見下ろす。
このままではまずい。早いうちに処分した方が良さそうだ。
いっそのこと、バラバラに切り刻んで、少しずつ小出しにゴミ袋に入れて、収集日に出してしまえたら、楽だろう。
そうはいっても、人間の解体なんてしたことはない。
解体した事がある人間の方が少ないだろう。
自分がその少数派に入るのか。
こうなってしまった以上、覚悟はできている。
まあ、今後、人を殺すことは無いだろうから今回をやり過ごせれば、それで良い。
この一回を失敗しなければ良い。
しかし、失敗したら?
不安がよぎる。
失敗とは?
犯行がバレて捕まる事。
どこからバレる?
死体が見つかる。
どこから見つかる?
腐敗臭からの通報。
または死体の関係者の捜索願から、警察の捜査で見つかる。
どちらにしても、死体の処分は急いだ方が良さそうだ。
しかし、警察はどこから被害者の居場所を知る?
!
死体の携帯電話の位置情報!
あの死体、携帯電話持ったままか?
やばい、早く携帯電話を処分しなければ。