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加藤 正義(かとう まさよし)

 俺は、俗にいう引きこもりっていうやつだ。

別に引きこもりが悪いとは思わないし、そういう生き方があっても良いと思う。あとは、やり方次第だと思う。


俺は、高校もろくに行かなくて、ずっと自分の部屋に閉じこもっていた。それでも、親は何も言わなかったから、俺は好き勝手やっていた。夜中はゲームやネットをやって、外が明るくなってきた頃、布団に入って、昼過ぎに起きた。


両親は共働きで、三つ離れた弟がいるけど学校に行っていたから、昼間は家の中に俺だけだった。


食事は母親が台所に用意しておいてくれたから、それを食べていた。俺以外誰もいない家の中で、食事や風呂を済ませて、みんなが帰ってくる夕方過ぎから、また自分の部屋に引きこもる。


土日は両親とも昼間、家にいるから部屋から出ない。土日の食事は部屋の前に置いてくれるから、部屋の中で食べる。食べ終わったら部屋の前に置いておけば、片づけてくれる。

 そんな生活をしばらく続けていたから、両親は俺の事を腫れ物にでも触るような扱いをしていた。


 その反動からか、弟の事を溺愛していた。弟は俺とは違い、良く出来る奴だった。

弟の名前は、ひでお。英雄と書いて、ひでおと読む。

俺は正義なんて名前で、ちっとも正義らしいことはしていないから名前負けしているが、弟は英雄という名前の通りで、勉強もスポーツも学年のトップクラスで、スラッとした体形で見た目も良かった。


引きこもりの生活をして、べたついた髪の毛も伸び放題で、運動不足で太っている俺とは正反対だった。俺はパソコンやゲームをやり過ぎたからか、視力も悪くて眼鏡が無いと近くの物も見えない。


 弟は有名進学校を順調に卒業して、有名大学を一発合格。一昨年、大学を卒業して、有名企業に就職した。今は一人暮らしをしている。


 俺はというと、高校には行かなかったが、知りたいことはネットの世界にいる奴に聞けば、詳しい人間が教えてくれる。所謂、オタクと呼ばれているような奴らだが、自分の興味のある事には、とことん詳しい。


ネットの掲示板やチャットに入っていけば、俺の知りたい事をピンポイントで教えてもらえる。


ネットの世界では基本、匿名だから、初対面の奴とも臆することなくコミュニケーションをとれる。たとえ、気の合わない奴だとしても、その場限りだと思うと何も苦にならない。下手な質問をして、馬鹿にされるような奴らの集まりがあったとしても、二度とその集まりに参加しなければ良いだけの話だ。


現実の世界で、現実の人間相手には、こうはいかない。


俺はパソコンに興味があったから、ネットの世界で、ひたすら教わった。参考書を買ったり、カルチャースクールに通うよりも、よっぽど効率が良い。解らない事が出てきたら、二十四時間いつでも自分の好きな時に質問出来るし、こちらの疑問に対して的確な答えが返ってくる。そんなことを繰り返しているうちに、みるみる上達していき、いつしか俺自身が人に教えられるくらいにまでなっていた。


 結果、高校は中退したが、今はシステムエンジニアの職に就いている。在宅勤務が出来る仕事だ。そういう仕事が出来るということも、ネットの世界で教わった。

今の就職先に入社するために高卒認定も取った。試験勉強の仕方、試験合格のための秘訣。それも、ネットの世界で教わった。独学でやっていたら、今でも合格出来ているかわからない。


就職先が決まった事もあり、親に迷惑をかけてきたし、長男が引きこもりのままでは、世間体も悪いだろうと思い、このアパートで独り暮らしをすることにした。

相変わらず、引きこもって生活しているが、この生活が俺には合っている。


在宅勤務が出来る仕事だから、どこでも良かったのだが、この土地が良いというのもネットで教わった。


 そのおかげか、このアパートは良い。


『メゾン・ド・コント・ド・フェ』


名前もおしゃれだ。

このアパートに、俺みたいな不細工が住んでいると知られたら、入居しようとする奴はいなくなるだろうな。


週に一回行くゴミ捨ての時に、たまたま隣に住んでいる女と鉢合わせしたんだが、物凄くいい女だった。ただ、現実世界の女と普通に話せるわけもなく、会釈しただけで、その後、会っていない。どうにか知り合いになれる方法がないか、ネットの世界の奴に聞いてみよう。


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