犯人
『メゾン・ド・コント・ド・フェ』
二階建て、各階五部屋のアパートの名前。
205号室の中。
時刻は夜の八時過ぎ。
部屋の電気は点いているが辺りは薄暗い。
ダイニングキッチンに立つ一人の後ろ姿が見える。
床には仰向けに横たわる人影。
倒れているのは、三十代から四十代くらいの女性。
玄関側に足を向け、頭は見下ろしている人物の足元にある。
髪は肩にかかる位の長さで、白髪がちらほらと窺える。
服装は至ってシンプルな、白のブラウスにひざ丈くらいの黒いスカート。
胸には包丁が深く突き刺さっている。
出血はしていないが、包丁は心臓にまで達しているだろう。
目はカッと見開かれている。
死んでいるのは明らかだ。
状況的に考えて、そばに佇むこの人物が殺したのだろう。
立ち尽くしている様子から、計画的ではなく突発的な犯行のようだ。
この二人の関係はわからない。
部屋の中を見渡すと、一人暮らしとしか思えない程度の家具や身の回りの品しかない。
故に、一緒に住んでいたというわけではないようだ。
被害者は、この部屋を訪ねてきたところを殺された、と考えて良さそうだ。
犯人は助けを呼ぼうとする様子は無い。
そして、警察を呼ぼうとする様子もない。
ふと、玄関扉の向こうに人の気配がした瞬間、
「ピンポーン」
チャイムが鳴った。