Ⅵ.王子様のお迎え
「じゃ、行ってきます!」
「受験票持ったか?」
「うん!」
7月中旬。
この時期に全国各地で教員採用試験が始まる。
賢たちDIM-TAMは、東北地方をツアーで行脚している最中。
“こんな時に近くに居てあげられなくてごめん”
と、昨晩賢に言われたが、その気持ちだけで十分だった。
私のカバンの中には、賢から貰った手紙とお守りが入っていた。
福岡の公演休みに、わざわざ太宰府天満宮にお守りをもらいに行ったらしい。
“学問の神様のお守りだからね。”
と、授けてくれたお守りだ。
“手紙は試験に行く時に読んで。”
と、託された。
『中野〜、中野〜。次は三鷹に止まります。』
試験会場まで歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
「亜紀。」
「そうちゃん。」
「同じ会場だったか。」
「うん。よかった。安心した。」
「お互い頑張ろうな!」
「うん!頑張ろう!」
「じゃ。またな。」
自分の受験番号と部屋を確認し、教室に入るとたくさんの受験生がいた。
みんな、参考書やノートを持って最後の確認をしているようだった。
自分の席に着き、賢からの手紙の封を開けた。
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亜紀へ
今日まで、色々なことがあったな。
でも、亜紀が居たから乗り越えられた。
亜紀の夢を叶える第一歩。
叶えてこい。夢を。
亜紀なら、叶えられる。
一番の応援団長より。
賢
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目頭が熱くなった。
緊張していた自分が嘘のように平常心に戻った。
「よし、やるか。」
手紙をカバンの中にしまい、試験が始まるのを待った。
「時間です。受験生は手を止め、筆記用具を置いてください。」
教職教養、専門科目の二科目と小論文が終わり、一次試験が終了した。
「おーい!亜紀ー!」
「和哉。どうだった?」
「バッチリよ。俺が体育主任で、亜紀が道徳主任の未来が見えた気がする。」
「まだ合格してないのに。未来すぎ。」
「ま、まずは一次お疲れ様!」
「お疲れ様!」
和哉と駅の方向に歩いていると、
「お疲れ!」と、そうちゃんも合流した。
「これからみんなで答え合わせしない?」
「お、いいね。」
「わたし、スタバ行きたい!」
「じゃ、新宿まで行こっか。」
3人で座れる席はなかなか見つからず、ちょっと駅から離れたカフェに入った。
「そうちゃんと朝に会って、教員になるって決めてくれて心強いなっておもったよ。」
「ま、教員一家だしな。俺は中学の英語の予定だけど、みんな合格したら同期だもんな。」
「俺が体育主任で、亜紀が道徳主任の未来。」
「何年後になるんだろうね。」
「まあ、すぐっしょ。」
3人でこんな受験生がいたとか試験官の話をしていると、大雨が降ってきた。
「雨、降って来た。」
「ま、すぐ止むよ。」
丸つけをし終わり、和哉が真っ青な顔をしていた。
「やべえ、俺いきなり心配になって来た。」
「え?どうしたの?」
「マークシート間違ってマークしてないかな?ちゃんと、受験番号合ってるかな?」
「それ、大学受験の時も言ってたじゃん!」
「亜紀ーーー!」
「ま、大学は受かったんだし、大丈夫でしょ。」
「亜紀、スマホ鳴ってる。」
「あ、賢からだ。」
「ちょっと、電話してくるね。」
席を外して、通話ボタンを押した。
「もしもし?賢?」
「試験、お疲れ様。どうだった?」
「うん。手紙とお守りありがとう。」
「お守りきいたかな。」
「手紙の方がきいた。試験の直前に読んだら緊張がほぐれたよ。ありがとう。」
「そっな。よかった。」
「今日は青森だっけ?」
「うん。終わったら船で函館に向かうよ。」
「気をつけて行ってきてね。」
「帰ったら、亜紀が観に行きたいって言ってた映画観に行こう。」
「うん。約束。」
「じゃ、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
電話を切った後、写真が送られてきた。
魅波くんと賢からのメッセージ動画だった。
「亜紀!おつかれさまー!」
「亜紀ちゃん、おつかれ!」
「東京戻ったら、美味しいもの食べに行こう。」
「俺も行きたい。」
「魅波はだーめ。」
「ずる〜い。」
二人の映った動画にクスッと笑っていると、宗太郎と和哉に突っ込まれた。
「亜紀はいいよな〜。」
「え〜?どうして?」
「俺も彼女欲しいな〜。」
「宗太郎ならすぐできるでしょ〜。」
「先生って、結構大学の同級生か研修の同期で結婚する人多いらしいよ?」
「そうなんだ。同期ね〜。」
「俺ら、同期になれるといいね。」
「まずは一次合格しないとな!」
「結果は来月か。」
「そうだね。面接練習頑張ろうね!」
地元の駅につき、宗太郎と二人で歩いていると。
「亜紀。宗太郎。」と声をかけられた。
後ろを振り向くと…
そこにいたのは、橋詰家の長男
「海くん!」
わたしが海くんの元へ駆け寄っていった。
「亜紀、元気だったか?」
「うん!」
「一年ぶりか。今日はリクルートスーツ(スーツ)だけど、就活か?」
「教員採用試験だったの。」
「そっか、教師になるんだっけ。」
「うん。海ちゃんは帰省?」
「言ったろ、亜紀を迎えに来たんだよ。」
私を迎えに来た?
海ちゃん…?
一年ぶりの海の帰省は、波乱の幕開けだった。