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Ⅴ.いつか

「いただきます。」

「召し上がれ!」

「賢くんも一緒なんて、亜紀幸せね。」

「うん。」

「今日は泊まっていけるのか?」

「いや、明日の朝忙しいので今日は帰ります。」

「明後日からツアー始まるんだよ。」


そう、明後日からついにツアーが始まる。


「でもまあ、初回は横浜だからこっちに帰ってくるんですけど。」

「地方に行くと行きっぱなしだもんね。」



毎回東京に帰ってくることはない。


合間にCDショップでのインストアイベントが入る。


地方に住んでるファンに会える機会。




「じゃ、ツアー頑張って!」

「うん。ありがとう。」

「ちゃんと食べるんだよ?」

「はい!」

「戻ってきたら、オムライス作って待ってるから。」

「楽しみにしてる。」





車に乗り込もうとすると、亜紀が背中からぎゅっと抱きしめてきた。


亜紀の腕を一度ほどき、亜紀に体を向けて抱きしめる。


「寂しい。」

「うん。俺も。」


あの事件から、こんなに会えない日が続くのは初めてだった。





「帰ってきたら、たくさんご褒美ちょうだいね。」

「ご褒美?」

「うん。」

「何にしようかな?」

「たくさんハグして欲しい。」

「俺も。」



2人で笑い合って

キスをして



「じゃあ、いってらしゃい。」

と、可愛らしく亜紀が言った。



離れられない俺を亜紀は心を鬼にして送り出してくれる。


「うん。いってきます。」




車が見えなくなるまで見送ってくれる亜紀。


明後日からのツアー頑張らないと。













「おはようございまーす!」

「魅波。柳は?」

「今彼女と電話してる。」

「柳が?珍しいな。」

「いいよな、彼女がいる2人は。」

「本当に羨ましいよ〜。剣斗は昨日亜紀ちゃんと会ったんだろ?」

「うん。亜紀と亜紀の両親と食事を一緒にして、帰ってきた。」

「僕も亜紀ちゃんのお家遊びに行きたいっ!」

「可愛く言ってもダメだぞ、魅波。」



3人でそんなことを話していると、柳が部屋に入ってきた。


「おはよ。」

「おはよ。何かあったのか?」

「来週、戻ってきたら両家顔合わせになった。」

「え?いきなり?」

「まあ、アイツの都合だよ。」


柳の彼女は、5つ年上の会社経営者。

出会いは下積み時代のバイト先の居酒屋の客と従業員だった。


喋らなくてもモテる柳が、珍しく自分から声をかけた相手だった。


五つ年の離れた千夏さんと付き合ったのは4年くらい前だった。

若いのに会社経営をしている姿は柳にはきらきらしてみえたのかもしれない。




「柳がついに既婚者か〜。」

「千夏さんは25歳だっけ。」

「そうだね。」

「来年、入籍する感じ?」

「そうなるだろうね。」



なんだか他人事のような返しをする柳。


「なんか嬉しい話なのに浮かない顔してない?」

「うん、まあ。」

「何かあったのか?」

「千夏の会社、付き合い始めた頃より大きくなって、株式会社になったんだけどさ…」

「すごいな!代表取締役社長!」

「それで?」

「俺にも役員をやれって。」

「すごいじゃん!」

「いや、でも…俺はやっぱりバンドを続けていきたいし。」

「なるほどな、それで浮かない顔をしてたのか。」


玲架の言葉に柳が頷いた。



打ち合わせが始まる時間になり、話は途切れたが、「芸能活動」と「結婚」は難しい課題であることはみんなわかっている。




俺も、いつか亜紀とそんな時が来るのだろうか。












「剣斗さん、初めまして!」

「初めまして。今日初めてきてくれたの?ありがとう。」

CDを握りしめた女の子が、緊張した様子で声をかけてきてくれた。


柳、玲架、魅波のサインがすでに書いてある歌詞カードを差し出してきた。


「剣斗さん、明日のライブ楽しみにしてます!」

「明日も来てくれるんだね!」

「少し心配してたんですけど、剣斗さんに会えてよかったです。」

「会いに来てくれてありがとうね。また待ってるよ。」


サインを書いた歌詞カードを返すと笑顔で受け取る彼女。





「ゆい、よかったね!剣斗さんとたくさん喋れた?」

「うん、でも緊張しちゃったあ!」


友達と2人で話しながら後にした彼女。




そう言えば、亜紀との出会いもインストアイベントだった。


数ヶ月前のことなのに、もう何年か経ったような気がするのは俺たち2人の間に乗り越える試練が多かったからかもしれない。




「剣斗、次!」

魅波が声をかけてくれてやっと気づいた。

「あ、はい!ごめん!」




俺たちはいつまで一緒にいられるんだろう。

おじいちゃんおばあちゃんになるまで一緒に居られるのが一番だけど…。












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