Ⅲ.とまどいの日々
事件から一週間。
「亜紀、大丈夫か?」
「うん、だって家にいるの退屈なんだもん!ま、バイトはもう少し休むけど、教員採用試験まであと半年くらいしかないし。大学で試験対策受けないといけないからね。」
「賢くん、送り迎えありがとうね。」
「いえ、僕の役目なので大丈夫です。それに、東京にいるときは出来るだけ一緒にいたいので。ツアー中は亜紀のお母さんやお父さんにもご迷惑をおかけしますが…。」
「いいのよ。大丈夫。さ、遅れるわよ。」
「お母さん、お父さん行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
「賢くん、よろしくな〜!」
車に乗り込むと、亜紀はちょこんと座った。
「亜紀?本当に大丈夫?」
「うん。平気!大丈夫だよ!」
無理して言ってる姿に胸を締め付けられる。
「ごめんな…」
「なんで賢が謝るの?」
「だって…」
「わたしは、どんなことがあっても賢と一緒にいられて嬉しいよ。だから、もう謝らないで?」
亜紀はそういうと、俺の頬に手を当てた。
「うん、わかった。」
「あ、亜紀。」
「ん?」
「一緒にいてくれてありがとな。」
改めていうと気恥ずかしくなって、亜紀から目を逸らしてしまう。
そんな俺を見て、亜紀は微笑んで頷いてくれた。
「じゃあ、16時に迎えに来るよ。」
「うん。ありがとう。行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
大学の門の前で相沢くんが亜紀のことを待っていてくれた。
亜紀は、本当に仲間に恵まれているなと思う。
亜紀を見送って、事務所に向かうと玄関に記者が数人待っていた。
ここ数日、煌のことが報道され、色々嗅ぎ回ってる様子だ。
「週刊新生の山岸です。剣斗さん、谷沢亜紀さんとはいつからお付き合いされてるんですか?」
「………。」
「四谷大の教育学部3年。ミスコンでは毎年上位の常連。」
「申し訳ないですが、取材は事務所を通してください。」
振り切って事務所に入ると、メンバー3人と久山、充さんが話し合っていた。
「剣斗、大丈夫だったか?」
「ああ。でも、亜紀のことよく調べてるな…大学まで付けてるのかもしれない。」
「まじかよ。」
「亜紀ちゃん、大丈夫かなあ。」
「今日から大学の授業に戻ったけど、何かあったら連絡するし、迎えにも行くよ。」
「俺らにもできることがあったら言えよ。」
「ああ、ありがとう。」
「剣斗、ちょっといいか?」
「はい。」
充さんに社長室に呼ばれた。
「亜紀さんのことなんだが…。」
「心配かけてしまってごめんなさい。」
「一般人だから、普通の生活をできなくなってしまったら困るよな。」
「ええ。来年の夏には教員採用試験を受験する予定なので…。」
「そっか…教師志望なのか…。」
「はい、その夢は俺は邪魔したくないです。」
「別れろとは言いたくないが、少し落ち着くまで距離を置くのはダメか?」
「え…」
「DIM-TAMも大事な時期だしな…。」
「はい…そうですね。」
「亜紀や、亜紀の家族と話し合います。少し、時間をください。」
「事件のことがあったばかりだしな…。亜紀さんには負担をかけて申し訳ないけども…。」
「いえ、色々心配かけてしまってすみません。」
「大切な人を守るためにどうすればいいのか、一緒に考えていこう。」
「はい、ありがとうございます。」
部屋から出ると、次の新曲の打ち合わせが始まった。
「柳が作った曲をメインにしていきたい。メロディアスで頭に残りやすい。」
「作詞は魅波、頼むな。」
「おう。」
「B面は、デビュー前の曲がCMタイアップに採用された。」
「え!?すげーじゃん!」
「ヘアカラーのCMだっけ。」
「それで、そのCMに魅波が出演することになった。」
「え!?俺?」
「バンドの顔だしなー。これでもっとファン増えるかもよ?」
「よっ!バンドの顔!」
売り出し中のDIM-TAMにはかなりお金がかかってる。
大人がたくさん動いている。
もし、俺らが活動を辞めたとしたら
仕事を失うスタッフも出てしまうだろう。
「おい、剣斗。聞いてるか?」
「ああ、うん。」
「ま、今は無理するな。」
「でも、そんなこと言ってられないだろ…
俺たちが立ち止まったら、誰かに迷惑かけるだろ。」
「剣斗…」
どうしたらいいのだろう…
一週間経っても答えは出なかった。
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更新が久々になってしまい申し訳ありません。
あっという間に今年も下半期を2ヶ月半すぎたところですね。
いつのまにか「小説家になろう」のサイトもリニューアルしていて、投稿しやすくなりました!
少しお仕事が落ち着いてきたので、これから更新機会が増えるよう頑張ります!
樋山蓮




