Mission 02: Intruder
西暦2546年5月30日,ロイシュ軍ゴーレム30機は月面コロニー75防衛基地の襲撃を敢行した.同基地の月面軍ゴーレム16機が迎撃に当たった.ゴーレムたちの中には,模擬戦で使用したペンキが付いたままという,いささか滑稽な格好で出撃するものもいた.
ロイシュ軍ゴーレムは空中から飛んでくる.月面軍ゴーレムは先ほどの模擬戦で使用したグラウンドから,全員そろって空に銃口を向けていた.
「撃て!」
隊長が号令した直後,地上のゴーレムから一斉に無数の銃弾が放たれた.銃弾の雨は空中のゴーレムに下から降り注ぎ,数機が撃墜された.ロイシュ軍も上空から応戦し,銃弾の雨を降らせる.月面軍ゴーレムの何機かが,地上で爆発する.しかし彼らはあきらめない.グラウンドにある岩や廃屋などの遮蔽物や地面の起伏に身を伏せて,敵の攻撃をやり過ごす.そして敵からの銃弾の雨が止んだ後,反撃に出る.
ロイシュ軍のゴーレムが地上に降り,今度は地上戦になった.
結果的に,月面軍は4割くらいの犠牲を出しながらも,ロイシュ軍を撃退することに成功した.しかし,これはさらなる悪夢の前座にすぎなかった.
今度は空から,見たことのない外見のゴーレムが飛来してきた.先ほどのロイシュの量産機に比べて細く引き締まった全身は漆黒のカラーリングに覆われ,その中で両腕だけが銀色に光っている.今までと明らかに雰囲気が違う.
その黒いゴーレムは月面軍の銃弾を軽々とかわし,地上に降りるなり,すぐさま月面軍の2機の頭部を銀色の両腕でつかんだ.すると,信じられない光景が起きた.黒いゴーレムにつかまれた月面軍ゴーレムが,体中からブクブクと膨れあがり,やがて爆発したのである.その光景を見たディアナの精神に,衝撃が走った.しばらく彼女は無意識に,ゴーレムを動かすのをやめていた.
「ディアナ,危ない!逃げろ!」
仲間から無線が飛んだ時,ディアナのゴーレムは,漆黒のゴーレムから伸びた銀色の右手に頭をつかまれた.視界が見えない.ディアナはコックピットについていた小さい透明なプラスチックのふたを指で開け,中にあった赤いボタンを押した.すると,画面に「脱出シート作動」の文字が出て,その瞬間,彼女の乗っていたコクピットは,ゴーレムの後ろから飛び出した.
この戦いの顛末を,この時のディアナは見届けることができなかった.