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異世界に来たので逃げます。  作者: 焼き餃子
第一章 人生が終わり、人生が始まる。
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第十二話『生憎、諦めるなんて逃げるよりかっこ悪いことをする趣味は無いんでねッ!』

「『終わらせましょう』」

 今までとは比べ物にならない数の長椅子が隼人とフェリルに殺到する。

「フェリル!俺とは反対方向に『逃げろ』!絶対に捕まるな!」

 フェリルはこくりと頷くだけして、すぐさま走り出した。

 それを確認した隼人は反対方向に向かって走り出す。

 二人は部屋の壁に沿って、教会の中央にいる神居の元へ近づいていく。

 長椅子はそれに追従するように二手に分かれて二人を追いかけ始めた。


「は、速い...!」

「怯えるなッ!どうやれば『逃げられる』か、考え続けろッ!」

 すぐに追いつかれそうになり、弱気になるフェリルだったが、その様子を見かねたのか、隼人の叱責が飛ぶ。

 フェリルはその言葉の通り考えた。

 しかし―――


「(お、思いつかない...!)」

 自分にはどうしても無理だ、と考えた結果分かった。

 そんなことを考えている間にもどんどん長椅子は迫ってくる。

 その時、フェリルはある前提を思いついた。

「(ハヤトさんは...既に切り抜ける策を考えてるのかな...)」

 そう思ったフェリルは見た。走りながらギリギリまで隼人の動きを見続けた。

 隼人は横移動を駆使している。逃げられないと感じたらすぐさま横に飛ぶ。それを繰り返している、また客観的に見れば分かる。長椅子の動きはひどく単調だ。それに大きさで数の有利を活かせていない。

 その姿を見れば、別々の方向に逃げさせたのも理解できる。どれだけ操れるものが多くてもそれを操る人は一人。更に自分らが離れれば離れるほど、詳細に相手の動きを知るのが難しくなる。単純な理屈だが、それ故に目に見えて効果がある。


「(わ、私もッ...!)」

 フェリルも隼人と同じように横移動で躱し始める。しかし慣れない。隼人のように隙を見て神居との距離を詰めることが出来ない。

「ふむ...彼女は『余裕』じゃないみたいですね?隼人さん」

「ッチ、俺に言うな俺に。なんか意味があんのか」

 隼人は努めて『余裕』を崩さないようにしている。元々、この作戦は一人の方に集中的に攻撃されたら終わるのだ。隼人にもフェリルにも片方が集中した時、片方がやられる前に神居を倒せるほどの能力は無い。神居がその事実に気づくまでにできるだけ近づかなくてはいけない。

「では、先にフェリルさんから始末するとしますか」

「ッ!!」

 しかし、そう思った矢先のこの最悪の状況だ。今の位置状況的に、後は壁から離れて、横に移動すれば神居の元へたどり着けるというところなのに。

「『行きなさい』、我が魂」

 次の瞬間、隼人を追従していた長椅子が一転して全てフェリルの方へ向かって行く。今から長椅子でフェリルが潰される前に神居を殴り倒せるか?無理だ。そんなものは無理だ。

 しかし、それと同時に思い浮かぶ、ある一つの策。それは博打。きっと思った以上の。

 見れば、フェリルがこっちを見て頷いていた。きっと俺の考えをなんとなく察したのだろう。そんなに俺って顔に出る性格なのだろうか、と隼人は疑問に思った。

 しかし、今回は全力で出来る―――フェリルに遠慮する必要もなくなった。


「クッソがぁぁ!!どうにでもなれやぁぁぁぁぁ―――ッ!!!」

「ッ...!?」

 力一つ残さず全部出し切る雄たけびにも似たヤケクソな大声。それと同時に隼人は掴んだ。フェリルの元へ向かう長椅子を。掴んだ腕が引きちぎれるかのような衝撃が走るが、隼人はそれを放さない。そのまま隼人の体が長椅子に引っ張られていく。

「神居ィ!!てめぇも道連れじゃああぁぁぁ―――ッ!!」

 そして隼人はもう一つの手を必死に伸ばした。それこそ長椅子を掴んでいる方の腕と同じぐらいの痛みが出るまで、必死に伸ばし続けた。そして掴めた―――

「なッ...まさか...ッ!?」

 神居のキャソックの袖を掴むことが出来た。フェリルは隙を見て前進できないと言っても、回避行動をとるまでは前進し続けていた。割と神居に近い位置にいたのだ。神居のいた位置は多少ずれていても隼人とフェリルを結ぶ直線状にいたのだ。まっすぐ長椅子が飛んでいくなら、この状況に出来るチャンスはあった。


「おのれ...!なんという不屈なのでしょうッ、貴方の精神はッ」

「生憎、諦めるなんて『逃げる』よりかっこ悪いことをする趣味は無いんでねッ!」

 こうなったら神居は長椅子を止めるしかない。このまま自分の命ごと隼人たちを倒すことは可能だ。しかし、自分にはやるべきことがある。その『意志』が『全員』の『延命』を選ばせる。

 しかし止まったのは隼人が捕まっている長椅子だけだ。

「クソ...!意外に冷静じゃねぇか!」

「当たり前でしょう!貴方たちと同じで、こっちも『余裕』を崩すほど『弱く』はありませんよ!」

「は、ハヤトさん...!」

 フェリルの『余裕ない』声。もはや体力も限界に近付いているようだった。


 だが隼人も神居と同じだ。ここで終わるなんて一欠片だって思っちゃいなかった。

「それじゃ―――」

「なっ...!?」

 隼人はすかさず神居の襟首をつかみ上げて、そのまま地面に突き倒した。

「見えるか!?フェリルのいる位置がッ!!」

「クゥ...ッ!!」

 人間はちょっと予想外の動きをさせられただけでも方向感覚が一瞬狂うものだ。自動操縦でない長椅子は正常に追従しない。更に倒れ伏したことで普通に視界が限定される。

「ハヤトさんッ!!」

 そしてフェリルからの脱出完了を告げる声が聞こえる。それと同時に隼人は神居を引っ張り上げて、神居を盾にするようにして扉の方へタックルしていく。

「このままッ!お前のあばらをいくらかへし折って気絶でも何でもさせてやるッ!」

「ッ、簡単にはさせないと言っているでしょうッ!!」

 それを阻止するように神居は隼人の服に魂を分割した。隼人の服が隼人自身を後ろに引っ張り、遂にはその歩を止まらせた。

 だが―――


「え...」

「ハ...ヤトッ...さんッ!!」

 その隼人の後ろにはフェリルがいた。フェリルは隼人を押し―――隼人は再びを歩を進め始める。

「お、お前...!」

「歩を...止めないでください...!」

「分かってるッ...つーのぉ!」

 また一歩―――一歩―――どんどん、歩む感覚は短くなっていく。

「こんな...ことが...ッ」

 神居がそう呟いた瞬間、頸木が切れたようにハヤトの走るスピードが元の速さに戻った。

「終わりだぁぁ―――ッ!!!」

 隼人の感情の任せの振り絞った大声が三人しかいない教会に響き渡った瞬間だった。

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