ウソつきのヒツジ飼い (もうひとつの昔話22)
村はずれの丘。
そこにヒツジ飼いの少年がいました。
この少年の仕事は、オオカミからヒツジを守るヒツジ番。しかしこれまで、一度だってオオカミがやってきたことはありません。
毎日、毎日。
少年はたいくつでなりませんでした。
ある日。
たいくつしのぎに村人をおどろかせてやれと、少年はふもとの村に向かって大声で叫びました。
「オオカミが来たぞー」
このウソに、はじめは村人たちもだまされ、丘の上までかけつけてきました。
けれどオオカミはいません。
それからも……。
少年は同じことを繰り返しました。
こんなことが何度も続けば、村人たちもさすがにウソだとわかってきます。
「オオカミが来たぞー」
少年がいくら大声で叫んでも、村人はいつしかやってこなくなりました。
そんなある日。
オオカミが本当にやってきました。
「オオカミが来たー。助けてー」
少年は大声で叫びました。
けれど、どうせまたウソだろうと、だれひとり助けに来ませんでした。
ヒツジが一匹。
オオカミに食べられてしまいました。
次の日。
丘にやってきたオオカミに、少年は大声で叫びました。
「猟師が来たぞー」
もちろん、これはウソ。オオカミを追い返すための作戦です。
オオカミはあわてて逃げていきました。
このウソに、はじめはオオカミもだまされ、少年が叫ぶたびに逃げていきました。
けれど猟師は来ません。
こんなことが何度も続けば、さすがにオオカミもウソだとわかってきます。
「猟師が来たぞー」
少年がいくら大声で叫んでも、オオカミはいつしか逃げなくなりました。
それから毎日。
ヒツジを一匹ずつオオカミに食べられました。
ある日のこと。
猟師が本当に丘をのぼってきました。
「猟師が来たぞー」
少年は大声で叫びました。
けれど、どうせまたウソだろうと、オオカミはヒツジを食べ続けました。
「オオカミを撃ち殺してください」
少年は猟師にお願いをしました。
「とんでもないことを言うヤツだな。いまやオオカミは、国の絶滅危惧種に指定されておるのだぞ」
猟師はそう言い残し、ヒツジの少なくなった丘をくだっていきました。
十年の月日が流れました。
今、少年は町の動物園で働いています。
そこでしか見られなくなった、ヒツジの飼育係として……。