九州解放作戦実施1
セイタ達陸軍特戦隊12拡大小隊は、明るいうちに出発して目標のスイレン帝国軍駐屯所より一里の位置の人目を避けられる野営地に到着し見張りを残してしばらく寝る。
真夜中、午前1時に起床して軽く軽食をとって出発し、午前2時過ぎに駐屯地に着く。
駐屯地は外側に高さ2間半の丸太を立てた壁があって周囲を取り囲み、さらにその1間半離れた内側にも同じ高さの丸太の壁があり、その中が幅2軒半の通路になっていて、内側が石作りの幅25間長さ50間の2階建ての建物になっている。
つまり石造りの大きな建物の周りを2重の丸太を立てた塀が囲んでいることになる。内側の建物はすべての窓には鉄格子がはまり、ドアは頑丈な鉄製であり、周囲の通路には2名の見張り兵が巡回している。
セイタが見ていると、5名の兵が手に鉄の爪をつけて軽々と塀を登り、丸太の壁の間の内側には綱はしごで降り、内側の塀も軽々と登る。
塀の上でしばらく待機して、見張りの兵が下に来るのを待ち、ほぼ同時に兵の上に飛び降り見張りの兵ののどを掻き切る。
次いで素早く門にとりつき、内側から開ける。鉄のドアには歯が立たないので、建物の石壁を10人の兵が組み立て式の梯子と縄梯子を巧みに使って屋上に上がる。屋上の戸も施錠されているが、下のドアほどの頑丈さはなく、まもなく一つが開く。
上からの合図で、さらに10名が銃を持って登り建物に入り込む。しばらくすると巨大な鉄のドアがきしみながら開き、全員が建物に入り込む。
セイタが分隊長に続いて建物に入ったとき、濃厚な血の臭いがしてみると足元に片寄せられて死体が転がっている。分隊長がついてくるように合図している部屋に入るが、足元は皆地下足袋なので全く音がしない。
その部屋は2段のベッドが並んでいるので、隊員がそれぞれベッドに前に陣取って合図を待つ。分隊長が首を刎ねる手真似をしたところで、小刀を抜いてそっと下の段の横を向いて寝ている男に刀を近づける。
と、気配を感じたのか男の目が開いた瞬間、頭を全力で押さえて小刀で首を掻き切ると、暗い中にも赤黒い切り口が開く。かすかにゴボ!と言う音とともに血が噴き出して男の目が力を失って閉じる。
セイタはすぐ頭を放して、ベッドについている小さな梯子を駆け上がり、上のベッドに寝ている男に覆いかぶさって、今度は口を押えて首を掻き切る。
同様に血が大量に吹き出すのを避けて飛び降りる、と男の悲鳴と怒号が響く。分隊長がそれぞれ担当分の殺戮を済ましたのを確認し、背の小銃を構え部屋の外に出るのにセイタ達が続く。
廊下に出ると、下着姿の男が拳銃を持って階段を駆け下り分隊を見たとたん撃とうとするが、それより早く分隊長が男の腹を撃つ。
男は弾が当たった衝撃で後ろにのけぞり拳銃は天井に向かって撃たれる。後ろ向きに倒れた男を避けて分隊長は進み、2階に慎重にあがろうとすると上から拳銃で撃ってくる。
分隊長の手真似で3人が銃を構えて飛び出して斉に撃つ。一人の肩を拳銃の弾がかすめたが、集中した射撃は功を奏し、階段から撃たれた男がスドスいう音を立てながら落ちてくる。
そこで、分隊長はさっとその男に駆け寄り、念をいれて首を掻き切る。さらに、分隊の銃を撃ったものは弾を込め階段を登る。上には4つのドアがあって、一つは開いており、覗くと空なのでさっきの男の寝ていた部屋だろう。
その他の3つの部屋は鍵がかかっている。「おい、日本軍だ。助けにきた。返事をしろ」分隊長が少し大きめの声でドアを叩いて向かっていう。
「兵隊さん!この部屋は日本人の女ばかりです」女の声がする。
「中からは開けられないか?」
「だめです。外から鍵をかけられています」
「よし、扉の前からどけ!」
言って分隊長ともう一人が足でけりつけると扉はバーンと言う音を立てて開き、そこには数十人の女がこわごわ扉の方を見ている。
「みなさん。助けにきました。日本国陸軍特戦隊12拡大小隊です。この駐屯地のスイレン帝国兵は殲滅します」分隊長、明石伍長が言う。
「それで、ここには日本の女性だけですよね。何人いるのか?」
「ええ、私たちは日本人の女でスイレン人の奴隷よ。今は35人です。昨日妊娠した2人が殺されましたから」中の女を代表して少し年嵩の女が言う。
「あと、この階に鍵のかかった2つの扉があるが、ここと同じような部屋か?」
明石伍長の言葉に「そう、たしか反対側の扉の部屋が30人、同じ側の扉の部屋に38人です」
同じ女が答えた。それに応じて明石伍長は「良し、開けてこい」との指示に応じて2人ずつが扉のところに行って同じように扉を蹴破る。
「ところで、昨日2人殺されたというのはどういうことだ?」伍長の質問に同じ女が答える。
「ええ、私たちは妊娠しないように、なにか避妊薬と言う判らない薬を飲まされているのですが、それでも妊娠するものはいるの。なにかイサリア教では獣に等しい私たち日本人と人間であるスイレン人のあいの子は許されないらしく妊娠が判ると殺されるのよ」
「な、なんと、スイレンの人非人どもはそういうことまでしているのか」
明石は驚いたが、気を取り直し言う。「よし、必要な物を持ってまず外に出てくれ。出来るだけ馬車に乗せられるようにするが少し長距離を歩いてもらうかもしれん」
この駐屯所には性行為のための奴隷が結局103人いて、司令官まで入れた兵士210人の相手をしていたわけだが、そのための部屋があって終わった後は別れて寝ることになっており、女の部屋には外から鍵が掛けられている。
以前は女と一緒に寝ていたらしいが、女がスイレン兵を殺したり傷つけたりということがあって、そのようなシステムになっている。女は、必要に応じて兵士の女狩り班が近所の村や町から狩りだしてきて、大体この駐屯地の場合は100人になるようにしているらしい。
女が言っていた妊娠したら殺すというのは事実で、一応妊娠しにくい薬は飲まされているが、大体年間10人位は妊娠して殺されていたということだ。
兵士は出会う都度皆殺しにしたが、2人については捕虜にして様々な情報を聞き出してやはり最終的に殺している。
駐屯地には馬が30頭いて、馬車も10台あったので現金は無論、小型大砲5門と、弾火薬500発分を含め250丁の小銃と弾が5万発に火薬1トンほどに食料を馬車に満載して出発した。
駐屯地は半分の火薬を使って破壊した。荷物を積み、馬車に女を乗せて出発したのはすでに、日が昇った後であった。住民に目撃されながら本拠にまっすぐ行くわけにはいかないので、斜めに逸れた位置で過去に集落があって廃村になったところにと入って暗くなるまで滞在し夜になって再度出発した。
火薬で爆破されて廃墟になった駐屯地には、連絡がないのに気が付いた近くの村のスイレン人の代官が馬で来たが、潜んでいた部隊のものに射殺されている。さらに、30里離れた別の駐屯地から5名の兵が馬で掛けつけたが、2人が弓で殺され、逃げようとした残りは射殺された。
翌日朝に、別の駐屯地から30人の部隊が駆けつけたがその時点ではすでに特戦隊は引き上げており、すでに本拠にたどり着いていた。
こうした襲撃は、警戒されない内にということで九州戦域の10箇所で同じ日に行われ、犠牲者の出たケースもあったが、2人が逃げ出した1か所を除いて、すべて兵を皆殺しにして、金、武器弾薬、食料を取り上げた。
本土から送り込んだ特戦隊は520名で、現地で加えた兵が1250名であり、略奪した銃が約2500丁であったので、もともと本土から持ってきた火打ち銃約2000丁は地元の抵抗組織に渡した。スイレン兵から奪った銃に余裕があったので、特戦隊はさらに700名の隊員を増やして約2500名とした。
こうして、九州から詳細な情報が入るようになってきて、スイレン帝国の治政が思ったより悪辣なことがわかったきたことから、ハクリュウ乗り組み員は躊躇っていた熱線砲を使うことを決心した。
各地に散らばっている駐屯地については、日本人の女を住まわせているので使えないが、6つある陸軍地区本部駐屯所は現地人は入れないようになっているので、遠慮する必要が無いということになった。
各地区本部駐屯所には1000人のスイレン兵に500人程度のスイレン人の民間人が住んでいる。これは、スイレン人は住民に憎まれているという自覚があって、固まって警備の行き届いてたところに住む傾向があるのだ。その後、博多港にある海軍司令部も同様に海軍将兵の宿舎になっており、将兵1500人、一般人300人ということでこれも重要拠点としてターゲットに含まれた。
当初はイングラム国の治めている薩摩も目標に選ばれたが、イングラム国の統治はスイレン帝国の統治に比べると温和で、極端な圧政は引いていないということで、解放が遅れても住民の被害は小さいということで後回しということで当面放置している。基本的には重要拠点のみ攻撃して、その後はスイレン帝国への措置を見せつけて自ら引かせる予定である。
東京で九州解放戦略会議が開かれた。ハクリュウ乗員の将校及び、陸軍、海軍の総司令官及び幹部10名ほどが出席している。
「この九州の状況は看過できません。あまりにスイレン人とイサリア教は悪辣過ぎます。わが艦の熱線砲については、人に対して強烈すぎるので使いたくはありませんでしたがスイレン人相手では解禁します。
スイレン人の、兵舎の基本的な構造は壁までが石作りで天井及び2階3階の床は基本的に木造ですから上から熱線砲を撃ちかければ丸焼けです。
幸い熱線砲に必要なのはエネルギーだけなので、我がハクリュウはほぼ無限に撃てます。6つある陸軍地区本部駐屯所を夜に焼いてしまいましょう。すでに合計で2000名の兵は片つけたので、さらに約7500人の兵を殲滅できます」副長の西村が言うのを受けて、作戦部長の庄司が提案する。
「幸い、ハクリュウの皆さんに提案して頂いた方法で、新式銃と手榴弾も順調にできていますから、出来たら第1師団のものを300人ずつ10回くらい九州へ移送をお願いしたいですね。
さらに、銃については特戦隊と現地採用の部隊に2千5百丁送り込んで、かれらの持っていたスイレン帝国製は現地の協力組織に渡します。
これで、近々陸軍地区本部駐屯所は全滅しますので、残りは本部を失って補給も絶たれた約1万人の兵ですから、現在の特戦隊拡大班が2500名で同調者2千名、加えて2500丁の銃を与えた同調者がいれば、スイレン人も一般の人をいじめるどころではないでしょう。何か住民ともめるようなことやっていれば、どこからか弾が飛んできて殺されますからね」庄司の話の後海軍の梶から懇願があった。
「幸い、浜松の大型艦は3ケ月程度で造船所に移動して修理するめどがついた。
しかし、この前に話のあった敵駆逐艦の捕獲の話はどうなったであろうか」これには佐川艦長が答える。「忘れているわけではありませんよ。そのためにはまず、捕獲要員を100名選んでください。まず、一隻を分捕ってハクリュウの乗員を手伝わせますので構造を調べて操縦法を身に着けましょう。具体的な日程はこの後の打ち合わせで陸軍の作戦と擦り合わせましょう」
鉄砲と銃弾及び手榴弾の生産と睨み合わせて、駐屯所の一斉襲撃があった後10日後に、各地区本部駐屯所の襲撃をすることに決まった。夜中の12時に開始して、6か所各1時間で午前6時に終える予定である。
その2日後と3日後の昼間に300名ずつ5回東京から第1師団の兵を九州各地に運び、特戦隊と合流させることになった。昼間の兵の受け入れとしたのは、各地区本部駐屯所が壊滅したのちであれば、すでに九州のスイレン兵は組織的な戦力とはなりえないという考えからである。
駆逐艦の奪取は、各地区本部駐屯所の襲撃の5日前とした。この日、朝10時ハクリュウは東京を出発して、回航要員100人を乗せたまま飛び立つ。1時間の飛行後、駆逐艦の母港になっている博多港まで飛んでいって駆逐艦が5隻並んでいるところまで舞い降りる。
乗組員も気が付いて、上空を見上げて騒いており、一隻の何人かは砲塔に駆けこむが、当然砲は真上は打てないし、この時期に対空兵器はない。せいぜい小銃を撃つくらいであり、実際に小銃を撃ってきたが、この程度にはハクリュウの高張力鋼は平気である。
ハクリュウは、全長100m重量1500トンの駆逐艦を持ち上げぐんぐん上昇する。1Gで10秒間加速してわずかに2分後には7000mの高空に達するが、その状態で水平飛行で下関まで30分で行って港に降ろす。
7000m上昇することで、気圧が60%の急激な減圧、気温が20℃からー25度への急激が変化とその状態を30分続いて、耐えられるものではなく乗員は皆気絶している。そこで、ハクリュウでまじかに近寄り底の階段を開けてロープを持たせた武装した回航要員を20人下して、かれらが乗員を縛るのだ。
砲の仰角の関係で垂直に下降するハクリュウは狙えないので、同じことを5回繰り返して、5隻の駆逐艦の乗員を気絶させつつ下関港に移動する。
ハクリュウはまず一隻に自らの乗員も下し、操縦法の解析を進める。その中には、湯川一士が入っているので、彼がコンピュータを駆使して構造を推定して操縦法を解明しそれを説明する。
このように、1隻で操縦法が解明できれば、100名は各々教え合い、下関でさらに乗員を乗せて、各艦で30人の回航要員で横須賀の基地まで回航を始めた。