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ハクリュウ乗り組み員大お見合い会

 今日は休日ですが、お父様の命令でおめかししてお出かけです。私は西田早苗、17歳で、淑徳女学校の高等部2年生です。お父様は、鉄工所とか、さまざまな鉄製品を作る工場を経営していて軍とも取引があるようで、どんどん使用人が増えているようで、私のおこずかいも増えています。


 私は、女の子としては大柄で少し色が黒くて恥ずかしいのですが、それもあって昔からお転婆でかけっこも早くて近所の男の子と空き地で遊んだり、木に登ったりしていましたし、男の子と結構取っ組み合いもしていました。

 今は、さすがに取っ組み合いはしませんが、外を飛び回ったり木に登ったりは相変わらずしています。今頃は、欧州から伝わってきたズロースを穿いて、ズボンというのですか、かけっこをしても恥ずかしくない服が出来ていますから、私のような年の女の子も、そういうことをしている子もいます。


 女学校に行くときは、下はスカートに上にはブラウスという形で、帽子をかぶって靴を履いていきます。女学校には、貴族の令嬢や上級士族に私のような商人の娘が通っており、月謝もすごく高いです。平民と言うか普通の子は、6歳から12歳まで小学校に通っていますが、その後は親に余裕のある子は3年間の中学校に通い、さらに3年間の高等学校に通う子もいます。

 私たちの通っている女学校は中学から高等学校の一貫校になります。高等学校の上は大学校ですが、大学校に通えるのはよほど優秀な人のみですが、やはり貴族や政府の上級の官僚の子弟は望めば入れるようです。

 私の成績はいつもトップ3番以内には入っていますので、望めば大学校にも入学できるようですので、私は行きたいのですが、お父さまお母さまは嫁に行き遅れると反対されています。小さいころ遊んだ子たちは、割に豊かな家の子が多かったので中学は殆ど卒業したのですが、今では殆どの子は働いていますので、私は恵まれたほうであることは自覚しています。


 今日は、政府の作った迎賓館と言う立派なところに、新聞でも報道されたハクリュウという空中戦艦に乗ってきたほかの日本からの人々が来て、それに3つの女学校の16歳から18歳の女学生それに花嫁修業をしていた令嬢が集まってお見合い会をするのですって。

 乗り組み員の方は27名で皆独身だそうで、どうも首相の織田様の意向もあって皆さんに早く日本に落ち着いてもらいたいということで、急きょ決まったらしいのです。


 たしかに、新聞報道を見るとハクリュウの性能は信じられないものですし、それを自由に操る人々は素晴らしいと思います。でも、私としては今日のお見合い会は気が進みません。いずれお嫁に行かなくてはならないにしても、私は正直に言ってまだいきたくはありません。


 大体、仲のよかった支配人の林さんの娘さんのスミさんなんか、財閥の住友の支配人の一族に嫁いだのですが、殆ど家から出ることもなく、姑に仕えて旦那さんはしょっちゅう花街に泊まるのですって。

 彼女の言うには、子供が出来て気がまぎれはするけど結婚は人生の墓場よ、ということです。まあ、皆が一人で来られているハクリュウの乗組員の方は縁戚が無い点は気が楽でしょうがね。


 ところで、新聞ですが、これは新政府が出来て5年後に瓦版屋さんから新聞社に衣替した2つの会社が旭日と読売という新聞を発行し始めました。

 この新聞は、まだ東京と大阪だけで発行していて、各家にも配ってくれます。一月に1円と高くて、大体6ページで四半刻分位で読んでしまいますが、世の中のことが早く知れるのと、しろいろ知識的なことも書いていてなかなか勉強にはなります。


 さて、迎賓館に着きました。私は馬車で来たのですが、そんなに遠くないし歩いて行こうとするとお父様から叱られて馬車にしました。

 貴族のお嬢様ではないけれど、家にもお父様が使う馬車はありますが、辻馬車に毛が生えたようなもので、ちょうど同じ時に迎賓館の馬車よせに来た、立派な馬車に比べると大幅に見劣りします。

 でも、私は所詮は平民ですから特になんとも思いません。ああ、今着いた立派な馬車から下りてきたのは、同級生の伊達伯爵のお嬢様の佐和様とご一緒の方はたぶんお姉さまですね。


 私はご挨拶します。「佐和さま、ごきげんよう。ちょうどご一緒ですね。こちらはお姉さまですか?」


「あら、早苗様、ごきげんよう。ええ、私の姉のすみれですのよ」佐和様からご挨拶が返ってきましたのでお姉さまにご挨拶をします。

「西田早苗と申します。初めてお目にかかります。私は佐和様の同級生で佐和様には大変お世話になっています」

「伊達すみれです。ごきげんよう。それではね」すみれ様は私の乗ってきた馬車をちらっとみてさらに、私のドレスを見て少し冷たく挨拶をされます。


 まあ、確かに大大名だった藩主から伯爵になられた家とは平民の我が家とは身分が違いますからね。

 お二人とも色白の美しい上品なお顔に、豪奢な和服に身を包まれて色白のすらりとした姿は本当に絵に描いたようです。

 一方で私は大女で色黒だから、すこし暗い色のドレスですが、確かに私より伊達伯爵のご姉妹ははるかに魅力的でしょうね。まあ、出席さえすればお父様への義理は果たせるので、伊達の御姉妹に頭を下げて、彼女らが遠ざかってから、なにか美味しいものがあればいいなと会場に向かいます。


 会場では、初めて見る真っ白い服を来た一団と、10名くらいのお嬢様方がすでにおられて、楽団が静かな音楽を奏でています。私も目立たないようにそっと会場に入って、人の影になるように隅に立ちますが、背が高いので目立つでしょうね。


 さらにぽつぽつとお嬢様方が集まってきますが、見た感じで美しくて姿の良いお嬢さんばかりですね。色黒の私ではずいぶん見劣りがするようで、居心地が良くありませんが、会場のテーブルの上には美味しそうな食べ物が並んでいますので、少なくとも食欲は満たせそうです。


「ハクリュウの乗り組み員の皆さん、またご令嬢の皆さん、本日はこの会場においで頂きありがとうございます。本日は、この日本国の危機を救っていただいたハクリュウ乗り組み員の皆さんを、わが日本国が誇る美しいご令嬢方にお礼の意味を込めておもてなし頂こうというものです。

 では、まずハクリュウの皆さんの自己紹介をお願い致します。なお、皆さんには全員日本国より貴族位が送られることになっております」

 この最後の言葉には、乗り組み員の人たちは聞いてなかったようで驚いた顔をしています。


 やがて、皆さんの自己紹介がありましたが、皆さん純白の要所・要所に金糸・黒糸を使った制服を着てとても素敵です。でも最初に出て来られた艦長さんなどはずいぶん年上のようで、到底私などには不向きだと思いますし階級から見ても私のような平民では釣り合わないでしょう。

 でも最後の方に出てこられた何人かの方は年もそんなに離れていないようで、少し親近感がわきました。特に、最後から3番目に事項紹介された湯川恵一さんですか、背が高くて素敵だと思いましたが、将校でなく一般兵のようですからお父様は気にいらないでしょうね。


 でも、皆さんが貴族になられるということですから、実際に私が気にいって頂けれるようなことがあれば最終的にはなるようになると思いますけど。

 でも、そう思って見つめていると、湯川様も私の顔を見てにこっとされたような。でも気のせいでしょう。私のような、大女で色の黒いものに殿方が興味を持つはずがないもの。

 ハクリュウの皆さんが終わった後は、私たちが自己紹介です。なかなか、声の出ない方も多いようですが、私は活発な方ですし、どうせ私なんかに興味を持つ人はいないしと思って特別あがらずにはっきり言えました。


「西田早苗です。淑徳女学校の高等部2年生で、趣味は読書と運動です。できれば、大学にも行きたいと思っています。ハクリュウの皆さまが、浜松では街を砲撃していたスイレン帝国の戦艦を撃破して頂き、新潟では違う戦艦を撃沈していただいた上に、今後も日本国を助けて頂けると伺いました。

 また、いろんな進んだ知識をお持ちだと伺いました。どうぞ、今後も私たちの日本国を導いてください。よろしくお願いします」

 ハクリュウの皆さんから拍手がありますが、特に湯川さんは私の目を見て頬をほころばせて拍手して頂いています。


 皆の紹介が終わると、「では、軽食も用意してございますのでしばらくご歓談ください」そのように司会の方のお話があり、緊張が解けます。

 私は緊張してしゃべったこともあってのどが渇いたので、飲み物のテーブルに近づきます。そうして、最近出回り始めた果汁入りの飲み物を頂いて、半分飲んだそれを下したとき、私の前に回ってきた背が高くて色白のあの湯川さんが私に声をかけます。

「やあ、西田さん?」

「え、ええ、湯川さんですよね?」

「ええ、湯川です。すこしお話よろしいですか?」

「も、もちろん。でも、湯川さんよろしいのですか。あんなに美しいお嬢さん方がおられるのに?」

「いやあ、西田さんほど魅力的な人はいませんよ」私はこんなことを平気で大きな声で言う彼に驚いてしまいました。


 近くで、その声が聞こえたお嬢さんが呆れたように彼を見ています。

 私は頬が赤くなるのを感じながら、「そ、そんな、色が黒くて大女のわたしが」慌てて言いますが、彼は平気です。

「いや、僕はあなたのような健康的な感じがいいのですよ。また、ほら、こちらで言うと6尺の僕とはちょうど釣り合うでしょう」

 そう言って、彼は私の隣に立ってまずは自分の頭に手を当て。次に私の頭に手を当て私と背を比べます。あとで、長さの単位をメーター単位に直して聞くと彼の身長が178cmで私が163cmですから、15cm差でちょうどいいと言えばちょうどいいでしょうね。


「おなかがすいたな。これは美味しそうだ。食べましょう」そう言って、彼は皿を取って、それにスシやいろんな総菜をとって、さらにそれから別のお皿に同じように取ります。

「はい、良かったら食べてよ」私にその食べ物を盛ったお皿と箸を渡し、そして、もう一つの皿を取り上げて食べ始めますが、本当に美味しそうで私もつられて食べ始めました。

 そうやって、しばらく無言で食べていましたが、やがておなかも膨れて落ち着いてきます。


「さて、腹も大体満たされた所で、どうです、ここの外には立派な庭園があります。僕もあまり上官ばかりの居るところでは居心地が良くないので外に一緒にいかがでしょうか。お嬢様?」

 「はい、湯川様喜んで」私も芝居がかって応じて一緒に外に出ます。


 本当に迎賓館には立派な庭が付設してあり、散歩には絶好です。そこで、私たちはいろんなお話をしました。どうも私は、彼が7歳の頃の初恋の人にそっくりらしいのです。

 それと他のお淑やかな令嬢の中で私はひと際活発そうで、それは私の話でひと際のその印象が強まったということで、他の人に取られまいと急いで話しかけにきたそうです。


 私も、父が軍の関係の鉄鋼会社を経営していることもあって、すこし豊かな方だけど平民であること、学校のこと、出来たら大学に行きたいなどの話をしました。

 私が大学に行きたいというのに対しては、そう言いう気があるのだったら是非行くべきだと言ってくれました。彼も大学は当然行くつもりで進学校(いい大学に入るためには有利な高校だそうです)に入ったけれど、父親に反発して軍隊(自衛隊)に入ったそうです。


 あとでわかりましたが、彼はすごく頭のいい人で、コンピュータというものの達人で、その中にものすごくていろんなデータを持っているようです。


「早苗さん、僕は女の人とこんなに話したのは初めてだ。是非僕とお付き合いをしてください」

 彼は真剣なお顔をして、私の目を見てそう言います。

 私は彼の顔を見ていられなくなって、うつむいて「はい」と小さな声で言いました。


「じゃあね、早苗さんのお父さんに認めてもらわなくてはね。お父さんは軍のどういう関係の仕事をしているか知っているかな?」彼がそういうので。私はいろいろ聞いた話を思い出しながら「ええ、船の関係のことをやっていると思います。海軍の関係で修理などをやっているはずです」そう言います。


「ふーん、海軍、船の修理か、それは都合がいいな」呟いたあと、私も顔を見て聞きます。

「今日のこのあと、お父さんは家にいるかな」私はすこしたじたじとなりながら、「え、ええいるはずです」そう言うと、「わかった、では一緒に行こう」そう言って、会が流れ解散になったあと、待っていた馬車の所に行き、その馬車で乗って2人で私の家まで行きます。


 馬車に一緒に乗り込む私たちを見て、何人かの令嬢は目を剝いていましたし、彼のハクリュウの同僚の人の一人はぴゅーと口笛を鳴らしていました。

 その前に、彼は上官になにか説明していたようですけど。

 ちなみに、この会によって私たちを含めて15組の結婚が決まったようですから、ずいぶんたくさん決まったようですね。


 私は、すこし決まりの悪い思いで御者の酒井に「この方はハクリュウの乗組員の湯川さんよ。お父様にお目にかかりたいということなので一緒に家に行きます」そう言いますと、酒井も目を剝いて「おお、それは、わかりました」と言います。

 

 さらに家にお連れして、玄関に湯川さんをお待たせして、お父様を玄関に呼んできて紹介した時のお父様のびっくりした顔が忘れられません。


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