日本国経済成長5か年計画
書き忘れましたが、日本語の現在頻繁に使われる重要な単語、政治、経済、民主などは明治維新の頃英語から翻訳されてできたのですよね。今回はその辺の翻訳はもう済んだということにしてください。
九州奪還については、佐川の意見通り、特殊部隊を潜入させて現地の抵抗組織と協力して、暗殺、破壊工作等によってスイレン帝国及びイングラム国の現地軍を混乱させることになった。
この中で、ハクリュウにより敵の駆逐艦を奪取する作戦も実行することで、出来るだけ敵艦を捕獲するとともに、敵の新た軍艦あるいは補給船の撃沈または捕獲によって、その間の敵の補給は徹底的に遮断することにした。
半年程度のこうした活動の後に、スイレン帝国の首都のマドリッド及びイングラムの首都ロンドンを部分的に砲撃、爆撃して脅し九州・沖縄からの撤退を要求することになる。
撤退時の、軍人の引き上げをそのまま許すかどうかについては、今後の特殊部隊の潜入による調査次第となった。つまり、あまりに現地の統治が悪辣で日本人に極端に大きな被害が生じていた場合は、兵員輸送船を海の藻屑にするわけだ。
次に、北海道、樺太も奪還することは決定したが、現状で分っている限りアイヌに対してロマノ帝国は虐殺などを起こしていないので、実行は九州が片付いてからとなった。しかし、ロマノ帝国の海軍艦艇及び補給艦は撃沈あるいは捕獲して、補給は徹底的に断って継戦能力を低くする措置はとることになった。
なお、中期的な計画として日本固有の領土以外では、ハクリュウの時代の名称である台湾、ボルネオ、ニューギニア、オーストラリア及びニューカレドニアとその補給路にある島々は、鉄、石炭、ニッケル、石油などの資源狙いで領土化することになった。
こうして軍事的な作戦も大枠が決まったところで、織田首相から話があった。
「ハクリュウ乗り組み員のおかげで軍事的な方針は概略固まったかと思う。しかしながら、こうした欧州の国々を見るにつけて、他民族を奴隷化する彼らの自国外での活動はもってのほかであるが、その産業、知識、経済の力に今の日本国にはあまりに大きく劣っておる。
この点で、我が国は幸いに今の日本国よりはるかに優れているという社会、産業、経済等の知識をもつハクリュウとその乗組員の方々を迎えることができた。その知識を生かして、この日本国をどのようにすれば良いのか、その道筋を示してはもらえないだろうか?佐川艦長殿」
「はい、では私なりに考えたことがありますので、披露させていただきます」
佐川はそれに答えてが立ち上がって話し始める。
「まず、国は当然国民から成り立っており、国民に対してして国は、まず強盗や他国に犯されないように安全が確保されることが必要です。それから、衣・食・住が満たされている必要がありますが、これはそれらを満たすような活動を国民ができるような環境を国が整えるということですね。
しかし、衣食住は無論必要ですがそれでは不十分ででありまして、その上に精神的な満足や喜びというものも必要です。すなわち、国家・政府というものはその構成員たる国民に対して、いま言ったこと、安全、衣食住、及び精神的な満足感を持たせるような仕組みをつくることが役割であると思います。
そうした、国としての在り方、水準を決めるのはまたその構成員である国民なのですから、その国民が無知蒙昧な状態では、国としてまともなものになるわけはありません。
従って、その国民を知に関して開かれたものにする、さらにわかったうえで誇りある行動をとれるようにする、加えて物事を適切に判断して必要な行動をとらせるようにするためには教育が必要です。
国としての教育体制は今も当然あるとは思いますが、私どもの知識とも比べて最適なかたちとしての構築が絶対に必要です。
また、国力と言うのは結局経済力です。軍事力に関しても、技術的に差がないとすれば結局準備できる装備と人員、ことにいま現在であれば装備にかかってきますから、結局経済力の強い国がより強い軍事力を持つのです。
経済というのは、例えば皆が農地を耕すのに鍬しか使わないとすれば生産力は人数に比例しますが、そのほかに牛や馬を使って耕す、また機械で農地を耕す方法があり、この場合人力のみの場合に比べ10倍以上の効率を発揮することが出来ます。
さらには、肥料を最適に使えばそうでない場合に比べて3倍程度の収穫量の差があります。つまり、農地が十分あるとすると、人一人について、その農作物を育てる方法によって数十倍の差が生まれることになります。
つまり、一人当たりの経済力は新知識を用いたり、道具、機械や肥料等の様々な資材の使用によって大きく高めることができるのです。私どもの世界の歴史をみても、経済力の上昇は結局ほとんどは技術進歩によってなされています。技術進歩はまた結局知識から来るわけですので、これは教育に深くつながっております」佐川は一旦話を切って見渡すが、みな熱心に考えながら聞いている。
佐川は続ける。「さて、私の提言はハクリュウの持つ知識を利用して、日本国の経済力を高めることであり、そのためには土地の制約から大きくは生産が伸びる余地のない農業主体の産業体制を、工業・商業主体に変えていくということが必要です。
そのためには、さまざまな工場を作ることは無論必要ですが、同時に船舶航路、鉄道、道路等の交通施設、それを走る動力駆動の船、列車、自動車を組み合わせた交通体制の構築を行います。さらに、電力、水道等の基本的な都市の動脈に加えて商業地として人々が集い消費する場の提供もまた必要です。
これらには、国がやるべきことまた民間がやるべきことがありそれぞれ分けてやるべきですが、なにより考えなくてはならないのは、こうした建設には莫大な資金が必要であることです。
今の国の年間予算が3億円と言われましたか?こうした計画を実施するために、すぐその予算は10億円を超えると思いますね。一方で、これらを実行して行けば、いやがおうでも日本国の経済力は高まります。
つまり人々の働き口が出来て収入が上がり、人々がお金を使うという形ですね」
佐川の言葉に「10億円!」だれかが悲鳴のように言う。
「そんなとんでもない金をどこから持ってくるのだと、思われていると思います。しかし、例えば直接的には国が金・銀を持てれば当然それを使えます。これについては、佐渡金山が有名ですが、日本にはまだ掘られていない金・銀山は沢山あり、その位置また埋蔵量は判っています。
そこで大事なのは、先ほど埋蔵量が判っていると申しましたが、それぞれの金銀山でどれだけ金銀が取れるか判っているということです。
つまり、今は採掘してなくても、例えば佐渡の金山からさらに1万貫とれるという信用で、例えば証券を発行すれば買う人はいるでしょう。つまり、そのような信用を元に紙幣を発行すればいいのです。信用と言う意味では、ハクリュウを100億円と言って売り出せば、スイレン帝国だったら買うかもしれませんよ。
そういうことで言えば、例えばハクリュウという無敵の空中戦艦は十分政府の信用の元になるでしょう。まあこの辺りは経済のご専門の方にお任せします」
首相を見て、話しかけると織田首相が応じる。「うむ、実はわが政府でも紙幣の話は出ておるのじゃ。しかし、政府としての信用が足るまいということで止まっておる。今の佐川殿の話は非常に面白い。確かにできるだろうな。真剣に検討させていただく」
「提言を受け入れて頂いて、ありがとございます。さて、このような様々な開発を進めていくことになると思いますが、これを進めるにあたっては、出来るだけ無駄なく、効率よく進めるために前の世界でも何かを計画的に実施しようとする時に「5か年計画」が策定されていました。
この場合は、日本国経済成長5か年計画ですね、これを策定して年度ごとの計画を策定して達成度を検証しながら実施していくという方法が効果的でした。この5か年計画の策定をお勧めします」
織田首相が再度賛同する。「うむ、それは良い、民にもわかりやすいし、実行する役人も具体的な目標が示されていれば言い訳のしようもない。ぜひ採用させていただく」
それに対して、佐川は礼をなお言って続ける。
「ご賛同ありがとうございます。これらの事業を実施する場合について、補足事項として私に気が着く範囲でとりあえず3つ課題を上げておきます。
一つはハクリュウの知識をどう広げるかです。いま現在、ハクリュウでは乗り組み員が様々な知識をそれぞれに紙に印刷しています。これは、一部しか用意できませんので、すべて活版印刷して本にして頂きたいと思っています。
そして、それを元に、法律のことであれば、官僚の皆さんに、機械のことであれば、学校の先生と民間の経営者や作業の親方等にと、出来るだけ早く広げて実際に使えるものにする必要があります。
これは緊急に実施する必要がありますので、人と予算が緊急に必要です。
2つ目は憲法、法体系の整備で、これは我々が実際の事例を沢山持っていますが、まず憲法というのは国としての在り方・基本的な考え方を定めたもので、これは日本国の将来のためにも早めに定めてほしいと思います。
法体系については、これは当然今もあると思いますが、その憲法のもとで様々な活動のあり方・規則を定めたものですが、さまざまな事例を参考にさらに合理的なものにしていただきたいと思います。
3番目、これが実は最初に来るべきかとはおもいますが、組織体制の組み換えです。今後、今後教育改革、それに絡んでハクリュウの知識の伝播、法体系の整備、農業効率向上、交通網整備、農業電気・水道網開発、工業開発、軍備整備などを同時進行で進める必要があるわけです。
これについては司令塔になる人が要りますし、それぞれの部門ごとの責任者、実施部隊と極めて多数の優秀な人材が必要ですし、その人材で構成された組織が必要です。そのためには全国から人を募ることが必要ですね。また、特に技術伝播についてはハクリュウ乗り組み員からの協力が必須ですね」
そこで、一旦佐川は言葉を切って、皆を見渡して尚も続ける。「さて、では少し技術・産業の面で緊急かつ具体的な案件を述べておきたいと思います。
まず、日本国が今後欧州勢と伍していくためには絶対に避けられないのは、鉄の生産と加工です。今後鉄道、船舶、車両さらに軍備、いずれも多量の鉄が必要です。大体、今の日本国の鉄の生産量では、浜松で確保した敵艦の修理を行えるどうか怪しいくらいです。
現在、たぶん東北の釜石である程度の鉄の生産を行っていると思いますが、これは年間早急に2億貫以上に引き上げる必要があります。幸い釜石の鉄鉱は相当な埋蔵量(7千万トン)がありますので、10年は使えるでしょう。
ですから、早急に釜石の鉱石採掘および銑鉄の生産、鋼材への加工の一貫生産所を作る必要があります。そのためには、石炭が必要です。石炭は何と言っても九州と北海道ですがどっちも占領下にありますので、とりあえず北海道が釜石から近いのでこれを取り返して使いましょう。
ちなみに、10年以内には鉄の必要量は先ほど言った2億貫の10倍にはなりますから、それまでには私の時代にオーストラリアと言っていた大陸を領土にして鉄鉱石を持ってきましょう。こうした生産とその原料の運搬、需要地への移送には船舶、鉄道の交通網の整備が必要なのです。
それから、石油は石炭に比べて燃料として、また化学原料として極めて使いやすく、特に今からすぐに開発する内燃機関には石油しか燃料として使えません。
さらに、石油はその成分を様々な人工樹脂の原料になりますから、早急に開発が必要です。石油は国内には大した資源はありませんので、当面2〜3年は需要を賄えますが、その後は海外から持ってい来る必要があります。
とりあえず新潟と秋田の油田を開発して使いましょう。また、先ほど言った金銀山の開発などこうした緊急事項だけでも目白押し状態です。今後10年間は日本国にとって大変忙しい時期になろうかと思いますよ」
こうして、佐川の話が終わり、織田首相が立ち上がる。
「いや、まことに包括的かつ重要が話をありがとうございました。これは、極めて重要な話なので、我が政府のものにも聞かせたいが、何とか要点をまとめられないでしょうか?」これに対して、西村副長がいう。「今の話は録音しておりますので、再生できる機械と一緒に渡しします。」
「おお、それは有難い。提言された中に、一部すでにすでに進めているものもありますが、いずれにせよそれも見直しが必要ですし、人材が全く足りませんな。これは、東京で人を集めることと、各地方にも埋もれている人材は数多く居ると思われますので、人を出すように至急連絡をとります。
わしはいまから政府事務所に帰って、集まれるものは集めて、対策会議を開く。
いずれにせよ数日中に、再度の会議をお願いしたい。して、乗組員の方々の宿舎およびお世話は陸軍にお願いして宜しいな?」首相の言葉に、桧山は恭しく頭を下げる。
「承知しております」
「それについて、今晩は内輪で食事でもお願いしたいが、わしも乗組員の方と一緒にお願いしたい。場所がきまったら、連絡を頼む。わしは遅れるとおもうが先に始めてくれ」
そういって、織田首相、元織田幕府将軍は音声レコーダーを受け取ってその使い方を聞いてそそくさと去っていった。