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ハクリュウ東京へ行く

 その後、宴は軍として村山連隊長の挨拶、さらに行政側として浜松県知事の城山の挨拶を始め、感謝の言葉が述べられた。

 さらに綺麗どころの歌と踊りがあり、佐川は久しぶりの酒に少し酩酊したが最後の挨拶だけはしっかりして部屋に戻った。いつもの習慣で共同の洗面所で歯を磨き、トイレを済ませて、腕時計を見ると現地時間に合わせた時間はまだ22時である。

 いつもならまだ早いが、いろいろあって疲れたのと酔いもあってもう寝ようと布団に入る。部屋の隅には行灯があるが、最初は気が付かないくらいに薄暗い。


 さて寝ようと布団で伸びをしたところ「こんばんわ」とひそやかな声がして、ふすまがすーと開く音がする。「え!」としか反応できず、体がこわばるが、殺気は感じないので飛び起きることはしない。

 思えば、さっきの宴会のきれいどころアヤメと言ったか、彼女が「あとでね」と言った言葉を思い浮かべ、ひそかに期待していた自分に気が付く。「失礼します」またひそやかに声がして、化粧のにおいと女体のにおいが混じって、布団の横に入って来る。


 佐川は、何度かその種の店に行ったこともあるし、かっては恋人もいて性経験が無いわけではないが、こうした純和風の経験はない。さきほどの、アヤメと言う女性の風貌を思い出す。美人とは言えないが、小柄で色白控えめで実に好みの娘だ。

 しかし、これはまずいだろうと思って、彼女の方を向くと首を絡めとられて、唇を押し付けてくる。その唇に触れるともう抑えきれず、思わず合わせから手を入れ乳房を掴みながら舌を絡ませる。


 翌朝、障子に写る明るい光に目を覚ますと、横に彼女はいなかった。

「郷に入れば郷に従えだよな」佐川は呟いて、でも夕べは良かったなあとおもわずにやついてしまった。隊員も皆一人部屋だったから訪問があったのだろう。

 朝食の席で下士官のまとめ役の外山曹長にそっと聞く。「昨日はみな、あったのか?」「艦長も?」「あ、ああ」

「あったはずですよ。湯川なんか初めてじゃないかな。でも、いいじゃないですか。前の日本と違うのですから。こりゃあ早めに嫁を貰わさないといかんですね」

 

 外山が言うが、「まあ、俺たちも同じ立場だよな。チョンガーだもの」佐川が自嘲気味に言う。


 時間通り、皆が集まった朝食の席で、佐川はすこし話をする。

「この日本は、前の私たちの住んでいた日本といろんなところで違う。しかし、我々は自衛官としての教育を受けてきた、と言う誇りと日本人を守るという気概を失ってはいかん。

 また、我々は、前の世界から言うと大爆発で死んだことになっているが、間違いなく地球を守るための過程でのことだ。これは誇っていいことだと思う。

 しかし、またどういう導きかはわからないが我々はこの世界に送り込まれた。この世界でも日本人を守る、またそれのみならず世界の虐げられている人たちを守るという気概でやっていきたい。

 それから、この日本には、それなりのやり方があるので郷に入れば郷に従う、ということも必要だ」


「そうですね。郷に入れば郷に従えですよね」ムードメーカーの三波が言う。それで、なにか落ち着かない様子の皆も納得した風で、当初は乗り組み員の感じがなにか雰囲気が違っていたが普段通りに戻った。

 8時半に、見送る宿の人々に別れを告げて末広を出発して、ハクリュウに到着すると、さすがに野次馬はいなかったが何人かの兵士は不寝番をしたらしく焚火の跡がある。


 すでに、村山連隊長及び吉川金吾に城山知事が待っているので、佐川は声をかける。「おはようございます。昨晩は大変ご馳走になりました」「いやいや、どういたしまして。では参りますかな」村山連隊長が応じて皆でハクリュウに乗り込む。


 3人にはスクリーンの前の椅子に座ってもらい、副長が飛行の指揮をとって佐川が彼らの相手をする。佐川がリモコンを操作して100インチの画面に外の様子を映す。

「おお!」それだけで城山知事が感嘆するが、それはそうだ。日本で言えば江戸時代が終わったこの時代に映画も何もないのだ。

 

「写真は見たことがありますか?あるいは撮ったことは?」佐川が聞くと「おお、わしは見たぞ、しかしこんな風に色はついてなかったの」城山がいい、「わしは、陸軍の写真技師から撮ってもらったが大変じゃった。長い間身動きできんからの」さらに村山が言うのに対して、佐川が付け加える。


「これは、動く絵が撮れますからね、この絵は今現代の外の様子です。

 これの作りを書いたものも持っていますが、いろんな段階を踏む必要があるので作れるまでにはずいぶん時間がかかるでそうね」


「ううむ、わしらにはどうなっているか見当がつかん」村山が言ったところに副長のアナウンスがある。

「離陸準備完了、では東京に向かいます。距離約250km高度1万mで時速8百kmで向かいます。四半刻以内で着きます」


 それに合わせて浮き上がったショックがあって、舷側のカメラから艦底のカメラに切り替わってスクリーン中の地上がドンドン遠ざかっていく。


「おお、もうあんなに街が遠ざかって」初めて飛行を体験する城山が言う内に、艦は上昇しながら前進も始める。まもなく高度1万m、時速8百kmで安定する。

 

「どうです、高度は大体6千間、速度は半刻に2百里という所です。近いのでずいぶんゆっくり飛んでいます」佐川の説明に、「なんと、ゆっくりとな」城山が感嘆するが、佐川は尚も言う。


「あの月でも、半日で着きます。私たちが住んでいる地球もあんな風に丸くてその周囲は1万7千里ありますが、2刻もあれば一周できますよ」もはや、彼らは反応できない。


「おお、あれは富士山だ!」今度は吉川が小さく叫ぶ。

「ええ、あの真上を通りますよ」彼らは声もなく1万mの上空から見る富士及び周辺の景色を見つめる。

 ハクリュウ乗り組み員の世界の東京はとは違って、全体に緑が多く当然、高層ビルはなく、またどこまでも続く街並みではなく、周辺には田園風景が広がっている。


「さて、下す場所はどこにしますかな?」佐川が尋ねる。実際は港に降ろすのが地面も傷めず望ましいのだが、残念ながらこの東京には接岸施設がない。


「うむ、あそこの広場が練兵場だの。その隣の建物が陸軍本部だから、あそこに降ろして頂きたい」村山が画面を指していうのに答えて佐川が指示する。

「西村副長、画面左端の木に囲まれている広場、その下側の建物に寄せて降ろそう」

「了解!広場の下端に降ろします」西村が復唱する。


 練兵場では、ちょうど陸軍第1師団第3連隊第2中隊200人が火打ち式の小銃を持って行進の調練を行っていた。一人の兵が、降りてくる両端が細くなった筒が降りて来るのに気がついて指さして叫ぶ。


「隊長殿何かが降りてきます」その声に、見上げてそれがどんどん降りてくるので第2中隊長秋田洋一郎は「中隊、弾込め!急げ」命令する。


「全体止まれ、弾こめ、急げ」それに応じて、小隊長、下士官が命ずる。さらに、下士官が指示して2列に隊列を組み、前段が膝を突き後段が立つ。

 異様な重量感を持ったその筒、ハクリュウは静々と降りてきて、足が降り地面に着いて着地板が沈み込む。第2中隊長は「構え!」と号令、200名の兵が一斉に小銃をハクリュウに向かって構える。

 

 そのとき、その円筒から声が聞こえる。

「私は浜松連隊長の、村山廉太郎だ。陸軍総司令官の桧山閣下にお目にかかりたい。この艦は、わが日本軍の秘密兵器である空中戦艦ハクリュウである。今から下りて行くので撃つなよ」

 直後、艦底が開いて6尺ほどの幅の階段が見え、白髪交じりの人が降りてくる。まさに日本陸軍の将官の制服だ。続いて、若い将校の制服のものが従って降りてくる」秋田中隊長は号令する。


「銃、降ろせ!」下士官の復唱を待つまでもなく、兵は銃を下し、待機の姿勢に戻る。

 秋田のところへ、村山が近づき敬礼する。「村山である。総司令官閣下にお目にかかりたい。この者は副官として連れてきた第3中隊長の吉川だ。また閣下との面会に、浜松県の知事の城山閣下及びこの艦の艦長他1名を同行したいので、了解してほしい」

 村山は艦を振り返って手で指す。「浜松県知事?艦長?」言っているうちに、羽織袴の城山知事及び、純白の地球連邦軍の第1種正装の佐川艦長と永田機関長が降りてくる。


「城山です」城山知事が軽く頭をさげ、佐川が「日本軍宙航艦ハクリュウ艦長佐川です」と敬礼し、次いで「同機関長永田です」と機関長が敬礼する。


「は!第一師団3連隊第2中隊長秋山です。かしこまりました、ご案内申しますが、総司令官閣下がご在席かどうかは存じません。狭山中尉、後を頼む」横を向いてそこにいた将校に命じる。

「了解しました」狭山中尉が応じる。


「ではこちらにどうぞ」秋田は手を陸軍本部の建物の方に向けて示し歩き始める。しかし、その時にはすでに練兵場および周辺の建物は大騒ぎになっており、外に出て眺める者、窓から眺めるもの等が黒山の人だかりになっている。


 当然、秋田に先導されて進む一行に注目が集まっているが、秋田は少し顔を紅潮させながらわき目も振らず進む。陸軍本部の建物は、木造3階建てで長さは60mほどもあるまだ新しい大きな建物であり中央に玄関がある。玄関わきには銃を持っている衛兵が2人立っており、一行が近づくと降ろしていた銃を持ち上げて斜めに抱える。


「第3連隊第2中隊長秋田だ。浜松連隊長閣下および浜松知事閣下を総司令官閣下にご案内する」衛兵はとりわけ佐川と永田の純白の制服に目を見張ったが、「は!どうぞ」と素直に通す。


 彼らが進む途中は壁にズラリと人が並んでみているが、横目で彼らを見ながら階段を上がり、2階の左奥の総司令官室に向かうと、そのドアは開いて前に将校が立っている。

「沢中佐殿」と前置きして秋田が先ほどの言葉をくり返すと、「総司令官閣下がお待ちです。先ほど窓から村山連隊長閣下に気が付かれたようです。どうぞ」

 

 秘書官沢少佐は一行を中に通して、中のドアをノックしてすぐ開け、「どうぞ、お入りください」と皆を招く。顔見知りの村山は除き、入室したものが名乗る。


「陸軍総司令官、桧山です。こちらは、総参謀長の秋山、さらに作戦部長の庄司です。ちょうど浜松の話をしていたところです。どうぞお座りください」

 部屋の中には20人ほども座れるテーブルと椅子があり、奥の事務机の前に、中背太り気味の白髪白髭の総司令官桧山洋一、その脇に小柄で神経質そうな総参謀長の秋山一彦、大柄で茫洋とした感じの作戦部長の庄司健太郎がそれぞれ立っている。


 皆席の前に着いたところで桧山が座り、他のものも一斉に座る。

「では村山君から状況を説明してくれるかな」桧山の声に、村山が佐川達ハクリュウ乗り組み員の説明、別の日本と世界の説明、昨日の浜松での敵艦とその乗組員の拘束の説明、さらに新潟沖の敵艦3艦の撃沈と、その後浜松に帰って宴会までして、今朝浜松を発ってここに来たことを要領よくわかりやすく説明した。


 この世界の軍人には消化が難しい内容であり、特に参謀本部長は顔をしかめているが、彼も窓の外のハクリュウを見ると信じざるを得ないであろう。話の途中にしきりにハクリュウを見ていた。

 村山の話が終わると、しばらく沈黙が続く。今初めて話を聞いたものたちは一生懸命消化しているのであろう。最初に口を開いたのは、作戦部長の庄司であった。


「これは、わが日本にとってはまさに天祐ですな。現在の神風とも言っていい。この時期、ハクリュウとその乗組員が現れたのは神の使いとしか思えん。わしは必死に頭を絞ったが、スイレン帝国に勝つ術は無く、実は降伏を勧めようと思っていた。逆に、ハクリュウとその詰め込んだ知識があれば、日本が世界を征服することは容易でしょう。時間だけの問題ですな」


 それに佐川が反駁する。「お断りしておきますが、私とハクリュウの乗り組み員は日本の世界征服などということには手を貸しません。現在の欧州のスイレン帝国を始めとする悪辣と言っていい植民地政策は断固破壊します。

 しかし、日本が彼らに替わって彼らの今の植民地に同様な施政をひくのであれば、私とハクリュウはこの日本から手を引きますし、乗組員も同意してくれると思います。

 日本だけでなく、世界のあらゆる国が最終的に豊かで幸せになる世界というものを目指すのであれば、全面的に協力します。まず、そのためには日本が豊かになることが先決であり、それを最優先する方向で始めたいと思います。」


 桧山がそれに対して口をはさむ。「庄司君も、世界征服と言うのは言葉の綾で言ったのだよ。我々日本人にはいまスイレン帝国が九州でやっているような、平気で人を売り飛ばすような圧政はどの民族が相手であってもできん。

 いずれにせよ。今の我々の戦略目標は、九州からスイレン帝国を追い出して、さらに彼ら欧州人の脅威をなくして、飢えのない豊かな国を作ることだ。そのために、どうか力を貸してほしい」


 桧山は佐川と永田に頭を下げる。庄司も言う。「さっき世界征服といったが、私は全く他の民族を隷属化させるつもりはなかった。しかし、領土的にすでにちゃんとした国を作っているところ例えば朝鮮とか中国とかは避けて、原始的な生活をしているような地域は統合してもいいのじゃないかと思っている」


 その点は佐川も同意する。「そうですね。日本の南には広大な大陸がありますし、その途中には資源の豊富な島もありますから、そういう所は今少数いる欧州人を追い出して日本の領土にするのは良いかも知れませんね」

 その後、桧山はさらに人を呼んでもう少し話をしたいということを言い出したので、佐川もハクリュウの士官全員を呼んで会議に参加させることにした。


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