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ハクリュウ乗り組み員くつろぐ

空想科学部門の1位になっていました。ありがとうございます。

楽しんでいただけると幸いです。

 ハクリュウに乗り込んだ陸軍の者たちは、艦橋の後ろの座席に座ってスクリーンで、標的になった敵艦の映像を見ていた。かれらは、説明役の三波2曹から「今撃たれたのはこの砲弾です」と25mmの砲弾を見せられ、あまりの小ささに怪訝な思いであった。

しかし、砲塔ががくりと揺れたと思ったら、一瞬後砲塔が吹き飛ぶ、10秒ほど後にエンジンに穴が空いたために船体から火が吹き出し、かつエンジンが定停止したため船体ががくりと躓くように止まったのをみて、その被害の大きさに目を見張った。


佐川艦長はぼやく。「やっぱり25mm弾では致命傷とはいかないな。150mmの弾はもったいないし、火薬庫に当たればな。ええと、旧日本海軍の巡洋艦の図面はと」

モニターに旧日本軍の巡洋艦を出して火薬庫を探す。なお、あえて25mm弾を使うのは、搭載弾数が1万発にもなるのに対して、150mm弾は100発しかないのだ。


「同じ位置だったらいいが、火薬庫は、この『最上』だとここ、『青葉』だとここで一緒か。この辺りを狙って撃つぞ。もう一連射だ!」艦長からモニターに送られた図面を見て「では、敵艦に速度を同調します。BとCが副砲で狙っていますね。電磁バリヤー展開!斥力装置用意!」航法の山田がアナウンスする。


「では、この火薬庫の推定位置を狙ってもう一連射します」こんどは砲術の斎藤のアナウンス。

「いまだ、てい!」再度4基の25mm砲が火を噴く。数秒後、A艦から巨大な火が発し、大爆発を起こして艦が2つに折れて数秒で波間に消える。

 火薬庫に命中だ。スクリーンを見ていた陸軍の連中が「おお!爆発した」と叫ぶ。そうやって速度を同調している間に狙いやすくなったために、B艦、C艦から最初は4基の8cm副砲、次に4基の15cm主砲から撃ちかけ始めている。何発かは命中弾が出ているので、3次元運動をする艦に照準を合わせかつ命中させるという点でスイレン帝国の艦船の練度の高さが判る。

 

 しかし、斥力装置で全て食い止められて電磁バリヤーまで達しない。

「本来だったら、降伏を勧告するところだが、残念ながらこちらにその措置を取る手段がない。止むを得ん、B艦、C艦も同じように撃沈する。次目標はB艦だ。励起が出来次第撃て!」佐川がきっぱり言う。


 レールガンは今撃っている小型の迎撃用のものでも連射は出来ず一発撃つと、次の弾の励起のために30秒程度かかるし、大口径の150mmに至っては1分半かかる。この点は旧日本軍の戦艦の連射速度より遅いが、弾の速度が後者が0.7km/秒に対しそれぞれ、5km/秒、10km/秒で段違いであり原理的に止むを得ない。

 その代わりに、反重力エンジンの機能を利用した斥力装置と船体にまとわせる電磁バリヤーの組み合わせはレールガンでも防ぐことが可能である。


 B、C艦が火薬庫の大爆発を起こして新潟沖に沈んでいったのは、佐川の命令からその、15分、30分後であった。

 陸軍の村山連隊長以下の将校たちは手を叩いて大喜びであるが、村山はハクリュウの乗組員が沈んだ顔をしているのを見て、その気持ちを察して言う。

「確かに、ああやって一艦あたりに200人以上が無為に死んでいくのは気持ちのいいものでありませんな。しかも、彼らにはこのハクリュウに抗すべきすべもない。しかしながら、以前、あの鉄の艦は我々日本軍にとっては無敵の存在だったのです。

 そして、ああやって一方的に殺されていったのは我々の仲間だったのです。さらには、彼らは明らかに、新潟の街を砲撃して、避難はしたとは思いますが、やはりかなりの数の軍人でもない人々が殺している。

 その意味では、私どもは彼らがこうして抗すべくもなくやられて死んでいくのを見てうれしいとしか言いようがないですな。あれは、まさに因果応報であります。この艦の所業は我が国日本の人々を守るという意味では正しいのです。今回の成果については、この通りお礼申し上げます」

 村山師団長がそういって頭を下げると、陸軍の将校たちも立ち上がって、「ありがとうございました」唱和して頭を下げる。


 佐川は一瞬うる!っときたが、抑えて、「そう言って頂けると私どもも気が軽くなります。いずれにせよ、今後このハクリュウは日本の人々を守るために働きますので、協力をお願いします」佐川も陸軍の皆に向かって頭を下げる。

 

 それから、顔をあげて告げる。「では、一旦浜松に帰りましょう。今日は浜松に泊まって、明日朝東京に行きましょう」村山がそれに対して笑顔で言う。「おお、それでは町に宿をとるので、是非共に食事をしていただきたい。その程度滞在されたか存じないが長くおの艦内におられたと思う。ぜひ宿の布団で足を延ばして寝てください」それに対して、他の将校も笑顔で、「それは良い、是非やりましょう」口々に言うので、佐川も笑顔で応じる。


 「ありがとうございます。我々にはとりわけ風呂が魅力的です。よろしくお願いします。私どものこちらのお金を持ちませんのでご馳走になってよろしいでしょうか?」


「もちろん、もちろん、陸軍もそのくらいの金はあります」村山は佐川の肩をたたく。乗組員の嬉しそうだ。「では、最短で浜松に向かえ」佐川の命令を山田が復唱する。

 「了解、まず高度20kmに上昇、時速2000kmで向かいます」夕方の16時ごろまだ日が高い中で、30分もしない内に浜松上空に降下する。「どこか便利な位置に降りたいのですが、どこがいいでしょうか?」佐川の問いに村山が答える。


「浜松城の本丸は破壊されたが、場内の破壊された本丸の西側に広場があるので、あそこに降りてほしい。城の西側はほとんど砲撃を受けていないので、あそこにある旅館に行こう。もう人も帰ってきているはずだ」

 ハクリュウは指示通り、城の西側の広場に降りる。長さ84m直径10m余の、吉川に言わせると納豆巻きの形の灰色の鋼鉄の塊から突き出した、4本の径800mmの足に取り付けられた各2m2のプレートが締固められた広場に30cmほどめりこみ4000トンの重量を支える。


 たちまち集まってくる野次馬と軍の兵であるが、兵が大体50m位の位置で野次馬を止めている。船底の階段が開き、まず村山師団長が降り、続いて乗り込んでいた陸軍の将校が降りる。

 さらに、乗組員の艦長の佐川以下副長を除いた将校5人が降りるが、副長は艦橋で念のため待機している。両側に並ぶ陸軍将校の間を歩いて行くさきに、羽織袴の白髪と大きな髭の男が村山と待っている。


 佐川が前にくると、「浜松県知事の城山才次郎殿です」と村山が紹介する。

「宙航艦ハクリュウ艦長、佐川良太中佐です。我々乗組員は27年は違う日本からの迷い人です。とりあえずご挨拶として、日本近海を荒らしていた敵巡洋艦3隻は浜松海岸に捕獲し、他3隻は新潟沖で撃沈しました」佐川は城山知事に向かって言う。


「おお、この浜松でのご活躍は聞いておるが、新潟とな?新潟と言えば険しい谷を越えて行った先だが」城山が戸惑って言うのに村山が補足する。

「我々も同行させてもらった。新潟の沖に出るまで空を飛んでわずか半刻であった。また、事実敵の戦艦、浜松に来て、海岸に乗り上げているものと一緒の艦をアッと言う間に沈めてしもうた。

 いや、すさまじい威力の砲だ。まあ、話は後にして、とりあえず乗り組みの27名の方に休んでもらいたいと思う。特に風呂がご所望じゃ。末広で良いかな?」


「お、おお、そうじゃな。今晩はゆっくりして、食事も召し上がっていただこう」城山は振り返って、部下を呼ぶ。「須川君。末広に行って、至急風呂と30人分の部屋を用意するように、それから宴会、そうじゃな50人分を用意するよう申し付けろ。今の時期じゃから食材を手に入れるのは簡単ではないかも知れんが浜松中を探してでもなんとかしろとな。なにせ、この浜松を砲撃していた敵艦をやっつけて海岸にどし上げさせた英雄の皆さんだ」

 その須川氏は「わかりました。早速行ってまいります」と駆け出す。


「では、話は末広、ほらそこに見える大きな旅館ですが、そこですこしくつろいでと言うことにしましょう。艦長殿以下は一旦着替えられて、今晩必要な物があればお持ちください」陣隊長が、村山連隊長の目くばせに応じて声をかける。実によく気が付く人々だ。


「では我々は、全員27人で、半刻(1時間)後にここに出てまいります。その際にどなたか案内の方をお願いします。では!」と敬礼して艦内に引き上げる。

 1時間後、4月の午後5時半ですこし薄暗くなってきている中で、乗組員が外に出る。最後に副長が出てリモコンで階段を閉めるが、まだ野次馬はちゃんと残っており、まだ増える気配だ。

 一行は迷った結果、くつろげる服装ということでグレイの作業服に背嚢をもって出てきたが、列を作って進む彼らに「ありがとうございます。おかげで街が丸焼けにならなくてすみました」「ありがとうございます」次々に声がかかり、周りを囲むほとんどの者が頭を下げる。


 こうなると、乗り組員も頭を下げざるをえず、待っていた案内人に導かれながらひょいひょいと頭を下げて進む。城を出てしばらく歩いてたどり着いた末広は、なかなか立派な料理旅館で、10人ほどの従業員と軍と役所の関係者らしい人5人ほどが玄関で待っていて、一行が行くと皆が「ようこそいらっしゃいました」と頭を下げる。

 足洗いの水を用意していたが、草鞋等で無く靴なので断って上がり、それぞれに6畳ほどの一人部屋に案内される。佐川は2間ある部屋であり、案内の仲井が説明する。

「風呂の用意が出来ていますのでお入りください。また、半刻後にお食事と言うことになっています。それについてはまことに申し訳ありませんが、今日の砲撃の騒ぎで材料にまともな物がなく、料理人としては精一杯やってはおりますが、内容的にはご満足いただけないかと思います」佐川は手を振って言う。

「いやいや、状況は判っていますよ。こうして畳の上でくつろげて、食事を出して頂けるだけで十分です」


 やがて、皆で入った風呂は木組みの立派なもので、乗り組み員全員が十分入れる大きさのものであった。 宇宙で3カ月余りの待機を強いられ、制限された時間のシャワーを上げるのみだった乗り組み員にとって、久しぶりの広い湯船は皆にとって非常に満足がいくものであった。

 宴会は、乗り組み員全員と軍人や役人らしき人たちさらに、地元の有力者等が30人ほども集まったものであった。これらの人々は、浜松にそれなりの被害が出たものの、近来の最大の懸念であったスイレン帝国の脅威をもはや恐れなくていいということから陽気なものであった。


 この日本には当然ビールは無く、いきなり日本酒であるが、これも自衛隊の艦内は基本的に禁酒で、特定の日だけ限定的に解禁ということから長く殆ど酒を飲んでいなかった隊員たちにはなかなか応えた。また、材料の制限から生魚などはないが、料理人のこころのこもった料理は隊員たちには本当に久しぶりに本当に美味しいものを食べたという気にさせられたものであった。


 その歓談のなかで、酔わない内にと言うことで、西村副長からまず今回ハクリュウがここに来た経緯が語られた。さらに、その当時の世界情勢、とりわけ近年の急激な技術進歩が日本発であったこと、日本が主導してラザニアム帝国への迎撃態勢が取られたことも語られた。

 さらには日本を取り巻く世界の歴史も簡潔に説明され、最後にこの世界に来てからのハクリュウの行動が報告された。1時間以上に及ぶ説明であったし、それほど滑らかに説明できたわけではないが、乗り組み員は知っている話なので、それなりに気楽に食事をして飲んでもいたが、10人ほどの綺麗や仲井の女性を含めて現地に人々は真剣に聞き入っていた。


 西村副長の話が終わったあと、連隊長の村山が手を挙げて言う。「一つお聞きしてよろしいかな?」

「ええ、どうぞ」西村が答え、村山が質問する。


「今の西村副長の話であると、日本は世界の国々、特に今と同じように欧州の白人が世界を征服する中で有色人の中では最初に近代化というか、機械文明を築いたと、まあそこで目の敵にされて破れたものの世界に冠たる経済、技術を持つ国であったと言われる。

 特に貴殿等が戦った宇宙の他の巨大な帝国との戦いでは日本が指導する形で戦ったということでしたの。また、貴殿等の技術に自分で考えられるような機械があって、それには様々な情報を入れることが出来るということですな。

 であれば、貴殿らのハクリュウには貴殿等の社会の仕組み、技術などすべての情報がしまい込まれているのではないかな?」実に鋭い。

 

 佐川は思わずさっと立って西村に目で謝って熱く語る。「おっしゃる通りです。ハクリュウには高性能の人工頭脳が積まれており、これには私たちの歴史、地理、社会の仕組み、法体系、経済の仕組み、農林水産・工業・医学・軍事等すべての技術の情報が詰まっています。

 私どものが乗ってきたハクリュウは、間違いなく現在においては世界で最強の艦であり、飛べばこの地球を2時間、1刻で一周でき、当然海上も海中も宇宙も行動できる万能艦です。

 しかし、このハクリュウよりその人工頭脳が持っているデータ・情報の方の価値の方が高いと思います。これを有効に使えば、まずはこの日本の人々を豊かにできますし、次には世界中も人も同様に豊かにできます。お断りしておきますが、私どもはもし日本が世界を征服して、その人々を虐げるような決断をする場合の協力はしません。

 甘いと思われるかもしれませんが、あくまで世界中の人々が幸福になるような方向を目指したいと思います。そのためには、今の欧州の白人の暴虐をとめることが先決ですが」

 佐川が言うと、まず乗り組み員が反応する。

「そうです。さすが艦長!」三波が声を掛け、拍手すると乗り組み員が熱狂的に拍手して、やがて部屋の中の人々、女性の仲井さんたちも含めて全員が拍手する。


済みません編集が反映されていませんでしたので、全体を見直しました。

一刻30分と書いている情報もあったのですが2時間とします。

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