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日本国の海外領土開発2

 長瀬洋二は、日本国陸軍の少尉であり、第5師団第2連隊第3大隊第2中隊第5小隊50名の隊長に任ぜられている。年は29歳で、身長158cmであるから中背であり、がっちりした体格で四角張った顔をしており、浜松の近くの農家の2男である。

 長瀬は、陸軍に多い、白いお飯が食べたいという動機で軍に入った一人であり、最初の数年は白いご飯こそは食べれたが、副食は貧しいものであったが、いままでの食事に比べればまだましであり、半ば満足であった。しかし、ハクリュウの到着以来の日本の経済の高度成長に伴って、国民の食生活が急速の改善されたことに伴って、軍の食事もカロリー計算に基づく改善がなされ、今は食事を楽しみに待つ日々である。

 

長瀬は、ハクリュウが初めて日本国に出現した6年前に、浜松連隊に所属してハクリュウが浜松においてスイレン帝国の巡洋艦を撃破、拿捕した現場を見たひとりである。その当時、彼は23歳で入隊後3年の1等兵であったが、無敵と思えたスイレン帝国の巨大な艦を簡単に仕留めかつそれを海岸まで引きずってくるなどの活躍は、実際に目撃したのであるがいまだに現実のものとは思えない。


 その後、異日本情報に基づいて日本全体が改革に次ぐ改革を重ね、その中で軍もどんどん変わっていったなかで、従来であれば、教育の無い長瀬のようなものはせいぜい40歳を過ぎて下士官になれらばいい方であったものが、すべての兵員に教育が義務つけられてその中で成績優秀者は将校にもなれることになった。 長瀬は、その頃の義務教育である小学校卒業時には成績優秀であったが、家が貧しくとても上の学校には上がれる状態ではなかった。無論、近隣の地域に鳴り響くくらいの優秀者は土地の有力者が資金を出して上の学校に行かせ、いずれは東京に行って大学にも行けるのであるが、長瀬はまあ精々小学校で1番というレベルだったのでそういう話もなかった。

 その後、商店の丁稚で働いたが主家が傾き、碌なものを食わしてもらっていなかったのもあったが、結局20歳で職業軍人を目指して軍に入ったのだ。なお、日本国は徴兵制はひいていないが、人口の1割程度に相当する旧士族はその子弟に軍に入ることを勧める傾向があり、また政府もそれを助長したのでその中から軍に入るものが多い。


 長瀬はその意味で、小学校卒業、百姓出身というハンディがあったが、もともと勉強が苦にならないのと、丁稚奉公の中でもそれなりに勉強をしていたこともあって、成績優秀者に数えられて、士官候補生の試験も上位で合格、軍の業務をこなしながら勉強するという3年間の士官教育コースに加えられて、27歳で少尉に任官した。

 その後、古巣の浜松連隊が改称された第5師団第2連隊で、訓練の日々を送っていた彼に、第2連隊と共に、南海道オーストラリアの東部のスイレン帝国兵を蹴散らし占領せよとの命令が下った。

 彼らが乗船するのは、本来は貨物船である照国丸、最大積載量3000トンであり、これに連隊の第3第4大隊の各500名が携行火器と共に乗り込むのである。


 全行程8200kmで18日間の船旅である。照国丸は従来の標準貨物・客船である維新12年型標準船から一回り大きくなった維新15年型標準船であり、植民地の獲得に伴って今後爆発的に増えるはずの人員、貨物を大量かつ迅速に運ぶために年間200隻以上が建造されている。

 なお、携行兵器は、各員に小銃、手榴弾、小銃に取り付け可能な小刀、拳銃が与えられ、小隊ごとに8mm機関銃2丁、65mm携行ロケット砲2丁、さらに8000名構成の連隊にはトラックでけん引できる100mm連隊砲10門が与えられている。なお、その他の機材として、連隊に対して10トン中型ブルドーザ4台、10トン積みトラック50台が与えられている。


 長瀬少尉を含む小隊長以上は、連隊本部に集められ、連隊長、吉川金吾少将が皆に作戦概要を説明する。

 なお吉川少将はハクリュウが最初に日本に現れたときの接触した責任者である。


「この度の我が第五師団第2連隊の作戦行動は、南海道オーストラリアのみならず、多島海道フィリピン海嶺島ニューギニアの占領も同時に行うことになっている。多島海道には第1師団第2連隊及び第3師団第3連隊が向かい、海嶺島には第7師団第2連隊枝隊その1が海洋島ニューカレドニアには第7師団第2連隊枝隊その2が向かう。

 いずれも海軍の護衛艦隊がつくが、わが連隊の輸送船団維新15年型12隻には日本から巡洋艦1隻と駆逐艦3隻が付き、現地で現在西北部の鉄鉱開発団の護衛についている巡洋艦1隻と駆逐艦1隻が加わる。

 イングラム国及びフォーレン国は、我が国が領有を宣言した領土から引くと通告してきたが、スイレン帝国からは回答がなく、南洋道、多島海道、海嶺島及び海洋島のわが軍が向かっている基地へのハクリュウの偵察では徹底抗戦の構えである。

 また、南洋道には巡洋艦1隻、駆逐艦3隻、多島海道には巡洋艦2隻、駆逐艦5隻、さらに海嶺島及び海洋島には駆逐艦2隻が停泊しており、そのまま行くとわが方にもそれなりの被害が生じる。しかし、幸いわが軍にはハクリュウがある。

 ハクリュウはわが船団が決められた地点にさしかかった時点で、スイレン帝国の軍用艦艇を破壊することになっており、さらに上陸の前には脅威になりそうな敵戦力を叩くことになっている。しかし、基本的は敵の地上戦力はそのまま残るので、護衛艦からの艦砲射撃はあるが、我々が地上戦で一掃する必要がある。

 当然敵に地の利があり、わが方はそれに攻め入る必要があるので、相当な被害は免れない。これが、全般的な状況であるが、これらについて質問はあるか?」吉川連隊長は質問を求め皆を見渡し続ける。


「特にないようだな。では続けさせてもらう。わが第2連隊は知っての通り、構成員8,012名で、本部15名、連隊砲兵200名、工兵隊300名、地上隊15大隊からなり連隊砲10門、ブルドーザ4台、トラック55台が与えられている。それに対する敵は、現地名シドニー及びメルボルンに大部分の兵と住民が集まっている。 大体シドニーとその周辺に兵力1万名、住民は3万人、メルボルンとその周辺に兵力5千名住民2万人だ。 つまり、シドニーのみをとっても敵の戦力の方が大きいが、わが方には地上戦中のハクリュウの援護は基本的に期待できないとしても、護衛艦隊の艦砲射撃という心強い味方がある。またシドニーとメルボルンは直線で800km離れており、互いの連携はとれない。

 さらに、帝国の植民地軍の兵器は基本的には小銃と機動性の劣る大砲のみであって、手榴弾や携行ロケットさらに大口径砲が使えるわが軍に大幅に劣るので、わが方の優位は揺らがないと考えている。しかし、留意しなければならないのは一般人も武装して、歯向かってくる可能性が高い事である。

 正面から立ち向かってくる敵正規兵は単純に殲滅すればよいが、家に立てこもって抵抗して来るものは無理に攻める必要はなく、弾薬切れ、食料切れを待てばよい。我々の後に日本からの民間人が続いて、その地に住み着くのだからじっくり相手が降伏するのを待てばよい。

 また、情報によると南洋道に住み着いているスイレン人はイサリア教でも本流と違う宗派のもので、穏健派であるもので本国では居づらくなって来た」ものが多いという。だから、彼らも、場合にはよっては南洋道に日本国民として住むくようになる可能性もあるということだ。

 現住民はスイレン人にひどく迫害されていると言われるが、迫害しているスイレン人にもいろいろな人がいるということだ。これは言うまでもないが、現地における民間人への暴力・略奪とりわけ婦女子への強姦は軍律に即して厳しく処罰するので、貴官らは部下に対する的確な指導とその手本になるような振る舞いをするように。良いかな?」

 吉川連隊長の言葉に皆が「はい!承知しております」と答える。


「さて、質問はあるかな?」吉川の質問に、長瀬は思い切って挙手して尋ねる。

「先ほど言われた、民間人が銃器を持って抵抗して来る場合ですが、当然において、正当防衛防衛として撃ちかけてきたものに対しては反撃し、射殺しても良いということですね?」


「うむ、撃たれたらとっさに撃ち返す。また、撃ち返さないと自分たちの命が危ない。この場合は良い。しかし、撃たれても隠れることが出来て余裕がある場合、また逃げられる場合は催眠ガス弾を使ってほしい。君らも知っているように、わが軍は、異日本情報によって催眠ガス弾を開発して配備している。

 しかし、相手が軍隊についてはこの限りにあらずだ。わが日本軍は民間人については出来るだけ傷つけないように戦うという伝統にしたいのだ。良いかな?」

「はい。了解しました!」長瀬は答える。


 岸壁を離れ、港を出ていく照国丸のデッキも1000人もの者が一斉には立てないので、5分ごとの5交代であるが、3番目の交代でデッキに出ても見送りの人ごみの中に自分の縁者を見つけることは到底できない。 長瀬は、一昨日家に帰って会食した、兄の良太と妹の純のことを思い出す。兄は5反の狭い農地ながら、経済成長5カ年計画の一環で、肥料と新種の稲の苗の普及によって大幅に増えた収穫のお陰で、どうにか兄嫁の鈴と子供2人を養っていけているようだ。


 妹は年が離れた21歳であり、兄としての目から見ても、いかつい顔の自分や兄と違って柔らかい輪郭の優しい顔立ちで美しく成長してきた。彼女の場合は、学制改革された学校で成績が良かったため奨学金で高等学校を卒業して、さらに看護の専門学校を昨年就職して、県の中央病院で働くなかで医師の一人と相思相愛になって、来年結婚する運びになっている。


「兄さん、南洋道に行くというけれど、ずいぶん危ないのではないの?」心配そうに聞く純に長瀬は答える。「分が悪い戦いではないよ。こっちの装備は相当勝っているし、情報も集まっており、何より焦ってやる必要のない戦いだ。こっちはあちらに住み着くのだからな。

 また、軍も異日本情報によって、考え方がずいぶん変わって兵を大事にするようになっている。昔みたいに、死を覚悟で突っ込むなどということはやらないからね。

 せっかく教育した兵を損ねるのは大きな損という考えだ」それに対して鈴は言う。


「そうね、それは新聞で読んだわ。ハクリュウも支援してくれるようだからずいぶん安心よね。でも、あちらは長くなるのじゃないの?」

「うーん、まあ、出来れば、現地に住み着いてほしいというのが政府の方針だな。でも、現地では結婚も出来ないだろうから、少なくとも嫁を取るためにも帰って来るよ」長瀬が笑って言うのに兄が合わせて言う。


「おお、なにせ、陸軍の士官様だからな。俺も探しておくよ。片付いたら早く帰って来いよ」

 というような話をしたのだ。兄たちには当日は到底見つからないから来ないように言ってある。長瀬は遠ざかっていく故郷の緑に包まれた大地を見つめる。


 照国丸の航海は順調で、その18日間の航海の途中で、一行は船から引きずっている的に向かっての小銃の射撃訓練、狭い空間で行う体育教練、現地の地図を含めた事情の説明を受けつつ、毎日それなりに忙しく過ごす。

 兵は3段ベッドで通路はわずか60cm、将校は2段ベッドであるが机が付属しているような狭い空間であるが、毎日それなりにやることもあり、船団に乗り組んだ連隊の兵たちの志気は落ちることなくとうとうシドニーの面するボタニー湾に突入した。


 海軍の護衛艦隊の日本から来た巡洋艦1隻に駆逐艦3隻に北西部から加わった巡洋艦、駆逐艦各1隻が当然先導している。これらの海軍艦艇である巡洋艦、駆逐艦各2隻4隻が艦砲をシドニー市街に向ける中、輸送船は近づいていく。湾内の2階、3階建ての石作りの建物が数十立ち並ぶ小規模な街シドニーの手前の海中にまだ煙を上げている上部構造物の一部をさらしている残骸が見える。

 建物群から1kmほど離れた海岸には1万トン級の船が横づけできるふ頭が2本あり、その間はまだ盛んに煙を上げている建物の残骸がある。護衛の指揮官クラスは舷側にでて参謀官から説明を受けている。


「ハクリュウが、湾内に居た駆逐艦1隻とすでに湾外に出て逃亡しようとしていた巡洋艦1隻と駆逐艦2隻を撃沈しました。その撃沈した駆逐艦があの残骸です」そう言って、その30代半ばの士官はまだ煙を上げている残骸を示す。

「また、わが軍の揚陸能力は貧弱ですので、ハクリュウはあのふ頭を使うためにその周辺の建物を焼き払いましたし、その時点で反撃した砲台は全て破壊しています。ですから、揚陸はあのふ頭を使ってやりますので、時間は大幅に短縮できます。しかし、ふ頭を攻撃できる砲がある可能性はあるので、あのように海軍艦艇が見張っています。では、最初に兵を下しますので、輸送船の4隻ずつ接弦し、直ちに上陸し、あらかじめ各隊に配った計画通り展開してください」

 幸い大砲による攻撃は無く、長瀬の小隊が上陸したのは、現地時間の14時30分であった。長瀬小隊は、直ちに銃を捧げつつ市街に向かって速足で行進する。


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