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日本国の海外領土開発1

遅くなりすみません。今後週1回程度は守るようにします。


 吉田吾郎は、遥々日本から多島海道フィリピン海嶺島ニューギニアを通り過ぎ、南洋道オーストラリア西北岸までの8千kmを渡ってきた、朝日鉄鉱群開発開発団の団長であり、護衛艦隊旗艦である巡洋艦薩摩6千トンに乗り組んでいる。維新15年4月5日である。護衛艦隊はほかに駆逐艦畝傍を含めた3隻の駆逐艦から構成されている。開発団の構成船団は、標準型輸送船1千トンの20隻が動員されて、千人の団員とバックホウ、ブルドーザ、クレーン車、ダンプトラック、バッチャープラントなどまだ日本でも不足している重機にレール、型鋼、鉄板を含めた多量の鋼材やセメントが積み込まれている。


 吉田は42歳、身長172cm体重82kgの太目で目がぎょろりとした、日本国建設省の技官であり最近まで国有鉄道東海道線の建設副技師長を勤めており、日本に妻と男子2名、女子3名の子供を残している。

 朝日鉱山群は、異日本情報により南洋道の西北部に存在する大きな鉱脈がいくつも隣接する世界最大の鉄鉱山群であり、日本の鉄資源が極めて限られていることから確保することが緊急の至上命令になっている。 位置的には、吉田の乗った船団が近づく、奥行きが20kmほどもある岬に囲まれた湾の奥の低い植生に覆われている沿岸から300kmほど奥になる。


 吉田は鉱山担当の香川良治と共に、6ヵ月前にすでにこの地を訪れており、異日本情報による地図を元に護衛の海軍陸戦隊の20名と共に、30日かけて騎馬により現地を確認している。現地はサバンナ気候であり、密生した高い樹木はないが、やはりブッシュは歩行を妨げるものの熱帯雨林と違ってそれほど進行には苦労はないが、水場が少なく携行の荷物が増えるのはやむを得ない。


 彼の使命は、あと4年で尽きる見込みの釜石の鉄鉱石が無くなる前に、年間2千万トンを採掘する鉱山、積み出し港、鉄道を建設することであり、それに応じた1万トン積みの鉱石運搬船は現在国内の造船所で大車輪で建造されており、4年後には170隻が完成する見込みである。

 鉱山での必要な労働者は1千人、鉄道で2百人、港で2百人と見込まれており、その家族を含めると5千人が住む町を作る必要がある。また、日本国政府としては、この朝日鉄鉱山の開発は緊急事項として進めるが、南洋道全土を占有して領土とすることはすでに決めており、現状で西海岸に植民している2万人ほどのスイレン帝国人、東海岸に植民し始めている2千人ほどのイングラム国人については追い出すかまたは日本国民として住むかを決めさせる計画である。

 現在目指している、西北岸には欧州人はいないという見込みであり、原住民のアボリジ人もこの辺りには少ないはずで、実際に前の調査の際にも白人にも原住民にも会っていない。


 船団が近づいている湾の奥の海岸は海に向かって勾配が大きい砂地であるため桟橋まで短めの取り付け道路で済む予定である。早速、作業船がすでに国内で作られ始めたH鋼材を、まだバイブロハンマーが実用化されていないため鉄の錘であるモンケンで打ち込み、鋼材の横桟を溶接して(すでに船の発電機を使った溶接機は実用化されている)、上面は厚み20mmの鉄板である桟橋を組み立てる。

 その間に上陸用舟艇で揚陸されたブルドーザが、陸から土砂を押し出し海岸線から沖合に作られている桟橋までの100mの道路を作っていく。

 

3日の内には水深15mの海岸に、2隻の輸送船が横付けできる桟橋が作られ、早速優先的に重機が降ろされていき、その重機により陸地がどんどん均されていく。さらには、その整地された土地に持ってきた組み立て式の宿舎および事務所棟が順次組み立てられ、桟橋が出来て1週間後には1000人の開拓団の団員と、100人の陸軍の護衛兵のための宿舎および大型の5棟の事務所が完成した。

 その間には、担当の団員が流れを発見して、簡単な堰を作って簡易的なろ過装置も作って基地内に給水し、飲み水についてはちゃんとしたろ過槽を建設した。便所は当面は残念ながらぼっとん式であるが、近い将来には処理は海中放流式である水洗式の下水処理システムに代わる予定になっている。


 さらに、エンジン式の発電機が設置されて、電気は各棟に供給されているし、当然溶接などにも使えるようになっている。なお、現地は亜熱帯であるため暖房は必要ないが、調理には石油式のコンロが使われており、このための灯油や車両類や船舶の軽油は新潟や樺太の原油から生成されたものが使われている。

 原油については、国内の資源は限られていることから、今後樺太の油田の開発をさらに進めるほかに太平島(ボルネオ島)を早めに領有化して油田を確保する予定になっている。

 空船になった輸送船団は駆逐艦2隻を護衛として日本に引き揚げていくが、これはさらに必要なレールやセメントなどの資材を積んで帰ってくるのだ。これらの20隻の船団と護衛艦艇はほぼ2年間について開発団の専用の護衛付きの輸送船団として使われる予定になっている。


 吉田は、一応の基地の整備に形が出来た夕刻、運動場として切り開いた湾に面した広場に、1005人の開発団員と100人の陸軍兵を前に立っている。

 陸軍兵は当然男性ばかりだか、開発団員には事務系の30人と、食堂を始め生活面の補助のための女性が82人含まれている。これらの女性は、すべて団員の配偶者であり、子供がいないものまたは子供から手を離れているものなので、若いものと年配のものに別れている。

 現在の基地のある土地は、南海町という名前になる予定であり、近く漁業や農業を行う者も呼び寄せ、人口数万の都市にする予定であり、早めの高校までの学校開設も予定されているので、吉田も近く妻と子を呼び寄せる予定である。しかし、長男の義彦が現在14歳であり、高校を卒業して大学に行くとなると内地に返さざるを得ないだろうとは思っている。


 吉田は、これも異日本情報から最近開発されたマイクに向かってしゃべりかける。

「朝日鉄鉱群開発団員の皆さん、そしてわれわれ開発団を護衛して頂いている陸軍、第22特設分隊の皆さん。我々はここ、南洋道、南海湾の奥に位置する南海町となる予定の地におります。

 ここは、近い将来には南海市として数万の人口を抱えることになります。そして、ここから日本で製鉄を行う鉄鉱石のすべてが積み出されていきます。

 鉄は、少し前には大変貴重なものでまた高価なものでもありました。しかし、今や釜石と神奈川の製鉄所で大量に作られるようになって、値段はかっての1/10以下になり、いろんな用途に気軽に使えるようになっています。しかし、まだ我が国は異日本情報に基づいてもっともっと発展する必要があり、また軍艦を建造し、陸軍も増強して九州を占領されたような外国の侵略を防ぐ必要があります。

 そのために、もっと鉄が必要なのですが、国内の鉄資源は間もなく尽きます。つまり、今から私たちが始める朝日鉄鉱群開発は、今後の日本国を支えていく最重要の計画なのです!」


 吉田が、声を高くして皆に呼びかけると、皆手を挙げて「ウオー!頑張るぞ!」と叫ぶ。

 人は、自分のやっていることにやはり意義付けが必要なのだ。この時代の日本国の人々は、危うく白人国から征服されるところであったことはよく自覚しており、曇りない愛国心を持っている。吉田はなおも続ける。

「朝日鉄鉱群の埋蔵量は、世界最大と言われていますし、この近くには鉄のみならず金、ニッケル等の大鉱山があります。

 また、南洋道は面積が7百7十万km2で我が国の20倍近くあり、ここ朝日鉄鉱群の鉄を始め多くの鉱物資源があります。南洋道は、またこれだけ広いので、この場所は暑くてあまり気候がいいとは言えませんが、東海岸、西海岸は穏やかで住みやすい気候であり農業にも適しています。

 いま、この南洋道には西海岸にはスイレン帝国、東海岸にはイングラム国が入植していますが、近く海軍と陸軍を派遣して追い払う予定であり、1~2年中には名実ともに領土化することになっています。すなわち、この広大な南洋道全体が我が国の一部になるわけですので、今後多くの日本国の人々が移って来るものと考えています。


 また、ここで大事なことを申し上げる必要があります。ここ、南洋道にはこの広大な土地に原住の人々が数十万人住んでいますが、国と言う形は作っていません。かのハクリュウによる異日本情報では、現地人アボリジ人は大部分が白人によって追われ殺され、僅かな数が2級市民として生き残っていたそうです。

 しかし、我々日本人はそうしてはなりません。今後日本国となる地に住むもの達ですから、彼らも日本人なのです。彼らは、現状では教育などは身に着けていませんが、今後は同じ日本人として日本語を学んでもらい、子供には学校に行ってもらいます。

 ふいに出会った時など、彼らがおびえて弓などで攻撃して来るかも知れませんが、出来るだけ傷つけないように基本的には逃げてください。

 

 さて、皆さんには今まで2週間、殆ど休みなく働いてもらいましたが、明日から2日休みとしますので、3日後から早速、港の建設、朝日鉱山群までの道路及び鉄道建設にかかります。では今夕は賄いの皆さんで作って頂いたご馳走と、今日は無料の酒類をゆっくり召し上がってください」

 吉田の話が終わり、「ウオー」いう歓声が上がり、人々は早速食べ物を盛ったテーブルに群がる。


 日本国政府は、維新15年4月1日、スイレン帝国及びイングラム国、さらにはファーレン国(オランダの位置にある国)に通告文を発行した。

「わが日本国は、多島海道フィリピン太平島ボルネオ海嶺島ニューギニア海洋島ニューカレドニア及び南海道オーストラリアを自国領とすることを宣言する。これは、海洋国家として欧州白人の圧政に耐えている同じ有色人の苦しみを救うためである。

 しかしながら、貴国民で、すでに当該地域にすでに住むもので一定の資格を満たしたものは、日本国の国民として受け入れる。

 貴国の、植民地統治機構はこの宣言によって有効性を失うので植民地政府機関の職員及び軍は直ちに引き上げられたい。

 維新15年5月1日以降、貴国の国旗を掲げた政庁及び軍駐屯所さらに軍艦は、すべてわが軍の攻撃対象となることを通告する。なお、今後我が国がこれ以上の領土の拡大は行わないことは誓約し、領土に含めた地域が一定の発展を遂げた際に、各地域が望めば独立を認めることもまた誓約する」

 

 まことに勝手な言い分である。しかし、欧米諸国がこうした地域を植民地化した過程は多かれ少なかれ似たようなもので、要は強いものは好きなようにして良いのだ。現在、ハクリュウを擁する日本国は、既存の陸海軍はまだ黎明期でありその力は貧弱であるが、無敵のハクリュウがある限り明らかに圧倒的な強者であり、欧州諸国が束になっても敵わない。


 さらに、ハクリュウのもたらした超越した知識力により、宣言に含まれる地域を自国化することによる領土の大幅な拡大と資源を持つことで、(もっとも欧米諸国は、これらの地域にどのような資源があり、またこれがどのように活用できるか気が付いておらず、むしろ領土が広がることによる国力の増大のみを考えているが)今後日本は当分の間は世界において隔絶した存在になりえるであろうと認識された。しかし、宣告を受けた欧州諸国には打つ手がない。


 現状で最も被害が大きいのは多島海道フィリピン海嶺島ニューギニア海洋島ニューカレドニアを植民地化し、南海道オーストラリアの東部を抑えるスイレン帝国である。もっとも、最大の多島海道の5万人に他のすべてを合わせても軍・役人を加えた入植者は10万人に達しないので、それほど経済的に大打撃とはなりえないが。


 ファーレン国はボルネオを領有しているが、島の大部分が未開のジャングルで殆ど開発が進んでおらずそれほど惜しい存在とは言えない。

 イングラム国の場合には南海道の東の温帯地区の開発にかかったばかりで、全土を領有するのはもともと無理があると考えていたので、これもあまり惜しいものではない。3か国が集まって、日本国の通告に対して会議を持った結果の結論は、ファーレン国、イングラム国の2国は、指定の領土を放棄し、自国民に日本国民として残るか引き上げるか選ばせるというものであった。


 しかしスイレン帝国の場合には、自国民に国籍選ばせるといってもなかなか難しい問題があった。すなわち、日本国は別紙で、日本国になった場合、以前の原住民に対する虐殺、迫害、財産の不法な横領等については厳しく裁くとしており、こうした件で有罪になった場合には死刑を含む厳罰に処すとして、無論そうした罪人は国民として受け入れなられないと述べている。

 こうなると、スイレン人の半分程度は有罪になる可能性が高く、死刑になる者も多数であろう。また、帝国内には日本国の宣告を断固として拒否するという意見が非常に強いのだ。


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