ハクリュウ無双
済みません。日本に帰省して小説書きが捗るかとおもったらかえって遅くなります。
本も買えるし、行きたいところもあるしということで、来月半ばまで更新が遅くなるのをご勘弁ください。
ハクリュウに入った総督と准将に艦長の佐川が挨拶し、自分たちの素性を明かす。
「私たちは、違う世界の日本から、ハクリュウでこの世界に来た迷い人です。私はこの艦の艦長の佐川で、こちらが副長の西村です。イングラムの首都ロンドンまでの往復のご案内をします。まあ、座ってください。すぐに出発しますので」総督と准将は案内されて100インチの大スクリーンの前の席に座る。
彼らにとって、様々な計器が並ぶハクリュウの中は、全く理解できないものばかりであるが、なにより目の前の大スクリーンに目を見張る。そこには彼らが出てきた鹿児島要塞(砦)が鮮明に映っており、正門前には100人ほどのイングラム兵が整列しているのが見える。
「な、なんなんだ!これは」総督が驚いて叫ぶと、西村が説明する。
「これはスクリーンという呼び名であり、外を映しています。自由に写す対象、位置を変えることができます。今は、あなた方の砦の正面を映しています。
では出発しますが、あまり揺れることはありませんよ。まず1000m垂直に上昇しますので地上が遠ざかる様子を見ていてください」
西村がそう言っているうちに、少し揺らいだ感じがしてスクリーンの画面がみるみる変わる。砦の正面がみるみる下になっていき、すぐに遠景しか見えなくなると、画面が切り替わって艦の底のカメラが地上の様子を映す。
「300m、500m、700m、1000mの高度です。今から高度を上げつつ前進します。高度1万mまで上昇して、上海まで550マイルですから1時間もあれば着きます。途中にスイレン帝国の海軍艦船を見つけたら撃沈しますので、その寄り道をするかもしれません」
西村の解説と説明に海軍のジェファーソン准将が目を剝く。
「しゃ、上海まで1時間!」
「艦が見つかる可能性が高いのでゆっくり行きますから1時間ですね。すこし時間がかかります」西村はジェファーソン准将の驚きが判っていてわざと言う。彼は無論英語で説明している。
出発して10分もしない内に観測担当士官の水谷3尉が報告する。「艦隊です。前方300km、反応からすると大型1艦、中型2艦、小型4艦です。中型艦が以前沈めた巡洋艦と同型と思います」
「うん、どうやら九州の様子の強行偵察だな。準備はしているとの連絡は入っている。たぶん香港の東洋艦体の本部から出てきたものだろう。視界に入ったらスクリーンに写してくれ」佐川が指示する。
まもなく、スクリーンにぼんやりと艦影が映り始める。大体1kmほど間隔をおいて小型艦、小型艦、中型艦、大型艦、中型艦、小型艦、小型艦という並びで単縦陣をとって黒煙を吐きながら前進している。
だんだんクリヤーに写り始め、ジェファーソン准将が叫ぶ。
「あれはカルロス1世型の戦艦、最新型の戦艦がもうここに。巡洋艦はフィリペ型、駆逐艦はソファイア型だ。大艦隊だ!」
「間違いなくスイレン帝国の艦隊ですね?」西村が聞く。
「ええ、間違いありません」准将の答えに、佐川が言う。
「よし、そのカルロス型は150mm弾でやろう。正面から斜め下に火薬庫の推定位置を抜けるように撃て。一発で十分だろう。あとの艦は25mm弾で基本的にやはり斜め上から巡洋艦4発、駆逐艦2発だ。火薬庫の推定位置を狙え。速度落とせ。100km/時だ」
命令は日本語なので総督と准将に判らないが、攻撃の準備をしていることはわかる。とりわけジェファーソン准将には、このハクリュウがどれほどの力を持っているのか興味津々である。
山県外務大臣には命令は理解できているが、聞いても信じられない思いである。遠目にもスイレン帝国の艦の重量感はわかるが、あの中の最も巨大な艦に一発で十分とは信じられない。望遠であるため見えている艦の画面は荒いがどんどん近づいてクリヤーになってくる。
佐川は指示をする。「では50kmで射撃開始する。150mm弾は無論戦艦を狙い。25mm弾は先に巡洋艦を片付け順次駆逐艦だ。火薬庫の推定位置はいいな?」
「はい、承知しています」斎藤砲術長が応じ、さらに距離を読み上げる。「55km、54,53,52,51,50撃て!」ハクリュウははっきり振動して、一瞬火矢が走った。
荒い画面の3番目の艦に、小さな矢が複数突き刺さり、数舜後艦体が膨れて真っ赤な炎が服出して大爆発を起こすと共に、4番目の巨艦にも太めの火矢が突き刺さり、やはり数舜後真っ赤な炎と共に大爆発を起こす。
両艦ともものの数十秒で艦体を折られてあっという間に水深150m足らずの東シナ海に沈んでいった。その間に次の巡洋艦が爆発していて、さらに15秒後最後の巡洋艦、さらに2隻ずつの駆逐艦が2回に分けてさらに15秒後と、わずか2分足らずで7隻のこの時代では東洋最強の艦隊が海の藻屑になったのだ。
その状況を、余すことなく大スクリーンで見た、ルックス総督とジェファーソン准将は唖然とするほかはなかった。少なくとも海軍准将のジェファーソンは大砲の弾を当てることがいかに難しいか熟知していたので、ハクリュウの射撃がいかにとんでもないかよく理解していた。
距離はよくわからなかったが、数十マイルはあったはずのあの距離で、見る限りでは一発の外れ弾もなく的中して完全に破壊している。艦の爆発が弾そのものによるものか、艦内の弾薬庫に当たったのかは判らないけれど弾そのものであればそれはそれで大変なことだが、弾薬庫に当てたとなると、弾薬庫の位置を知っていてそこを正確に射抜いたということなので、これはまた別の意味で大変だ。
しかし、最大の問題は、あの7隻の最大級の戦艦が含まれる艦隊をわずか2分足らずで海の藻屑にしてしまったということであり、数時間どころか数日を要する海戦の話を知っている彼にとっては、強いとか言う言葉では表現できない異次元の話である。
彼、海軍提督のジェファーソンは、総督に力説した。「この艦はばけものです。我が国のすべての戦力を集めても、この艦には絶対に勝てません。まず、防御力、これは我が国最強の大砲で全く傷つけられなかったほどで、しかもこのように自由に飛行も出来て圧倒的な速度に移動できる相手を破壊する手段はありません。またその攻撃力は今見た通りです。
あの最初に撃破したカルロス1世型の装甲は、たぶん我が国の最大の戦艦リチャード型の主砲でも打ち抜けないものですが、その最も厚い装甲が施された砲塔を撃ち抜いています。
また、普通発射された大砲の弾は目で見えますが、彼らのものは全く目にも留まりませんでした。おそらく私たちが言う大砲と全く違うもので、考えられないくらいの高速で打ち出すのだろうと思います。
だから、巡洋艦以下を沈めた弾はごく口径が小さいものだと思いますが、その速度のために簡単に軍艦の装甲を貫き、かつ高威力なのでしょう。日本にこの艦がある以上、おそらく出会うスイレン帝国の船は全て沈められるでしょう。しかも、原因も判らないままになるでしょう。
あの艦隊のただの一隻でも、無線で彼らが敗れたことを連絡できたとは思えません。提督、我が国は決して彼らと敵対してはなりません。その意味では、彼らの条件は大変寛大なものだと思います。是非、薩摩、琉球から撤退することは無論、彼らと友好関係を結びましょう」
ルックス総督は基本的には准将の考えに賛成であり、だからこそ次のように述べている。
「私も、この艦が私たちの常識で測れるものではないことは良く判った。しかし、私たちは実際に目で見たからわかったのだ。ロンドンにいる、この件に決定権を持つものは見ていないのだ。
そこで、専門家である君がいかに説得力を持って語るかが極めて重要だ。今後、彼らは少なくとも上海、香港、マニラ、ファイラ(カルカッタ)及びニューマドリッド(ケープタウン)に停泊するスイレン帝国の艦船を破壊していくと思う。きちんと説得力のある資料を作ってロンドンを納得させてほしい」
「ええ、そうですね。当然のことです」准将は請け合い、早速今回の戦いのメモを取り始める。
彼らがそういう話をしているうちに艦内では別の動きが進んでいる。艦長の佐川が乗り組み員に号令する。「ごくろう。完璧な狙いであった。では水没した将兵に黙とうをささげたい。起立してくれ」日本語で部下に言ったあとイングラムの総督と准将に英語で声をかける。
「恐れ入りますが、只今戦没したスイレン兵に黙とうを捧げます。よろしければご参加ください」
「もちろん!」イングラム人2人は頷いて立ち上がり姿勢を正す。
「では、この戦いで不運にも戦没したスイレン軍将兵に黙とうを捧げる。1分間の黙とう!」
やがて、佐川が再度声をかける。「直れ!」
そして、総督と准将の方を向いて頭を下げる。「ありがとうございました」
「いえ、当然のことです。それにしても、貴艦の乗員の練度と敵をも尊重する態度には感心しました」
ジェファーソンが賛辞を贈るが「我々兵士は何時同じ目に合うかは判らないのです。そう意味はついさっき戦死したたぶん1000人以上の乗員と同じ立場です」佐川が真面目にそう返す。
「では、再度上海に向かう」ハクリュウは再度何事もなかったように上海に向かうが、そのことについて西村副長が説明する。
「上海と香港はスイレン帝国のシナ侵略の基幹基地です。我々は、スイレン帝国のシナ侵略を妨害するつもりです。そのために、まずスイレン帝国の補給を断つまで行きませんが、港にある彼らの戦闘艦のみならず、輸送船及び倉庫も破壊します。ただ、できるだけシナ人は傷つけたくはないので、まずいくつか破壊して見せて、現地人には放送で逃れるようにアナウンスして時間を置いて再度攻撃します」
再度進発したハクリュウであるが、まもなく水谷3尉が言う。
「前方上海に向けて駆逐艦一隻、他に5隻ほど汽船がいますが、軍艦はこの1隻だけの模様です」
「よし、駆逐艦を撃沈する。追い抜きざまに火薬庫を狙って25mm弾を2発撃て」
佐川の命令に斎藤砲術長答える。「了解、敵駆逐艦を追い抜きざま2発撃ちます」
スクリーンは駆逐艦を追っており、まもなくかすかなショックがあって、火矢が見え敵艦に火花が散ったが、今度は時間が経過して艦を追い抜いても爆発はしない。
「命中、しかし、火薬に直撃しなかった模様!再度25mm 2発撃ちます」斎藤が冷静に言うのに、佐川が応じる。「了解、再度撃て!」今度は。敵駆逐艦が正面に見えている状態で、その正面に火矢が刺さり数秒後、例のごとく爆発が起きて、駆逐艦は2つに折れて沈む。
「よくやった。では次は上海だ」佐川が静かに言う。
准将はさっきなぜ爆発しなかったかと頭を捻ったが『やはり、弾そのものにあのような爆発する威力は無いのだな。火薬庫を正確にねらってしかも当てているが、火薬庫に当たったからと言って爆発するとは限らない。たぶんたまたま火薬の無いところを打ち抜いたのだな』そう思う。
スクリーンにはまもなく陸地が見えてきて、数多くの船が行きかうのも見えるが、都会で、大河の河口の右岸側に面しているので明らかに上海である。陸地がどんどん近づいてきて、レンガ作りの建物と長い護岸が見えてくるが、沢山の人が海の方を見ているのが見える。
たぶん、先ほどの爆発な上海から見えたのだろう。ハクリュウは上海が面する長江沿いに高度100mほどでゆっくり飛行しアナウンスする。
これは副長の西村が日本語と中国語(北京語)の翻訳機を通してしゃべっている。
「われは日本国の空中戦艦ハクリュウである。我が日本はすでにスイレン帝国と戦争状態にある。スイレン帝国は九州を占領して、その住民を奴隷以下の存在として扱ったうえ、我が国の沿岸を砲撃して住民を殺し住居を破壊した。
その報復として我々は、スイレン帝国の補給基地として使われているこの港一帯を焼き払う。これは、建物も船も同様である。2時間を与えるので逃げるが良い。ただし、鋼鉄船はスイレン国の物とみなし逃げても焼きはらう。今より10分後にわが熱線砲の威力を見せよう」
こう繰り返しアナウンスした後、ハクリュウは500m舞い上がり、港の開けたところに熱線砲の集束度を甘くして1分間で100mほどを薙ぐ。その効果は劇的であった。赤白色の光線が海面を走っていくと、蒸発が瞬間的に起きたためバリバリ!という大きな連続音と共に連続的な水蒸気爆発を起こして、もうもうと水蒸気が舞い上がる。
状況を理解せずに、とどまっていた人々が水蒸気爆発になぎ倒される。ハクリュウもドンと巻き上げられ中の立っていたものはよろめいた。
「げえ、これは威力ありすぎたな。まあ、何とか大丈夫か」なぎ倒された人々が我勝ちに逃げ出すのを見て一安心した、佐川艦長であった。なお、念のため、再度護岸沿いにアナウンスした。
「2時間後に、この一帯は先ほどの光線でくまなく焼き払う。死にたいものは残れ」
その待ち時間、ハクリュウは1300km離れた香港に急ぐ。2万mの高空に舞い上がり時速3千kmで僅か30分である。東洋の本部である香港港には巡洋艦1艦と駆逐艦3艦が停泊しているが、ハクリュウはお構いなしに護岸に沿って低空を飛びながらアナウンスする。
内容は殆ど一緒だが最後は、「われの砲撃の威力を見せるために停泊している巡洋艦と駆逐艦3艦を撃沈する」であった。




