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薩摩奪還2

 イングラム国薩摩総督サー・ジェームズ・ルックスは、苛立たしく海軍軍司令官のアラン・ジェファーソン准将を非難していた。

「アラン、このざまは何だね。わが軍の主要艦艇の内、巡洋艦2艦は艦底に穴を開けられて座礁しているし、駆逐艦は釣り上げられてどこかに運ばれていったし、その上イブスキの砲台は焼き払われたようだね。 残っている船は民間の輸送船と連絡艇のみということだな。巡洋艦の乗組員は大体無事だったようだが、駆逐艦には結局乗組員は何人乗っていたのかね?」


「はい、ジェディス、リベンジは10人ずつ、ヴィクトリー、ヘンリーは50人ずつ乗っていました。従って120人ですね」ジェファーソン准将が答える。

「士官はどうだ?」「はい、ヴィクトリー、ヘンリーは双方とも艦長に海尉3名が乗っていましたが、ジェディス、リベンジには海尉が各1名でした」再度准将の答えだ。


「あれは、噂の例のハクリュウという奴か?」ルックスの問いに今度は陸軍の司令官トーマス・ミカエル少将が答える。

「そうです。あれは悪魔のような奴です。あれがスイレン帝国の駐屯地を一晩になんと7か所焼き払ったのです。その犠牲はなんと8000人以上です」


「あれに抵抗するすべはあるのか?」

 サー・ルックスが尋ねるのに対してジェファーソンが答える。

「難しいと思います。巡洋艦の主砲が命中しても全く平気でしたから。確かにまだこの要塞の8インチ砲を撃っていませんので可能性はありますが、あの砲の射程内を平気で飛んでいましたから多分だめでしょう。 それに、砲は真上には撃てませんから上からあの熱線でしょうか。あれを浴びせられたらイブスキと同じで全滅です。結局抵抗するすべはないというのが正直なところです」


「彼らの兵器は熱線と砲弾をとんでもない威力で打ち出すものだけだな?」

 再度サー・ルックスが尋ね、ジェファーソンが答える。


「今のところ見せているのがそれだけですね。しかし、あれの最大の武器は自由にまたとんでもない速度と高さで飛べることと、駆逐艦を持ち上げて運べ、巡洋艦を引っ張ることのできる怪力です」

 その時、伝令が駆け込んできた。


「あのハクリュウが現れました。また敵船が1隻やってきますが、スイレン帝国の駆逐艦のようです」

 それを受けて、皆ベランダに出て港を見ると、黒い煙を吐きながら駆逐艦らしい艦が1隻近づいてくるが、まだ砲台の射程外だ。

 その近くに、確かにあの悪魔のハクリュウが低空を飛んでおりどんどん近づいて来る。それは、やがて今彼らの居る要塞に横向きに高さ100mほど距離500mほどで止まる。あたかも砲台で撃ってみろと言わんばかりで、それに応じて砲台から10門が一斉に打ちかけるが、その炸裂弾は確かに8割以上が船腹に当たっているものの、全く影響がない。


「だめだ。あいつは無敵だ!」

 そう言われる中で、ハクリュウはゆっくり砲台に向かい、英語の拡声送機能で話しかける。

「今から、わが兵器の威力を見せる。熱線砲で砲台を焼き払うので兵はただちに非難しろ」

 そう言ったかと思うと、地上にある木造の小屋を、ハクリュウの横腹から出てきた白熱の棒一瞬がなめると、小屋がボンと燃え上がる。数秒後、指揮官が叫び、砲台の兵が整然と避難した。それを確認後、砲台を白熱の棒が嘗めて行き次々に爆発が起きるが、あれは炸薬が爆発しているのであろう。鋳物の砲も高熱にさらされてすでに歪んでいる。


 ハクリュウは再度、要塞に近づき拡声機能で言う。

「今より、沖の艦が接岸するが、あれには貴国の軍人が乗っているので、攻撃しないように。攻撃した場合にはこのハクリュウで報復する。総督あるいは軍司令官と話し合いたい」

 黒煙を吐きながら駆逐艦が近づいて来て、やがて接岸し、歩廊が掛けられる。降りてくるのはイングラム軍の制服を着た将校だ。将校はイングラム総督府の玄関に来て、門衛に敬礼して言う。


「ヴィクトリーの艦長ジョン・キャンベル少佐だ、総督にお目にかかりたい」

 総督は陸軍・海軍の司令官と玄関の間で待っており、少佐はすぐに総督の前に行き報告する。


「ヴィクトリーの艦長ジョン・キャンベル少佐です。昨日ヴィクトリー共に捕らえられ、今日交渉のために遣されました」

「ふむ、まあ状況は後で聞こう。交渉とは?」ルックス総督の言葉に少佐は封筒を渡す。

「はい、日本国の要求はこの書面の通りです」それは、白い何も書いて無い封筒であり、菊の紋が押されている総督は一度ひっくり返して中から折りたたんだ書面を取り出し広げる。


「なんだ、この文字は手書きではない、活版印刷か。しかし、手紙を印刷するとは」

 総督がその紙を見て言うが、欧州ではすでに活版印刷は使われているものの同じ内容のものが数枚しか書かれないものすなわち手紙は必ず手書きである。これはハクリュウのプリンターで印刷されたものだ。

 差出人は日本国外務大臣、山県有朋の名前であり、その要求は以下の通りであった。


 1)イングラム軍及び民間人は、薩摩・琉球から今日から半年以内に退去のこと。

 2)スイレン人帝国軍人は引き渡すこと。

 3)退去の際に地元の者を連れ出すことは許されない。

 4)薩摩から持ち出した金に相当する金を支払うこと。


 彼我の戦力差としてオールマイティなハクリュウがある限り、薩摩・琉球を保持するのは不可能だろう。したがって、正直なところこの内容は、ルックス総督にとっては合理的なものであったが、出先の一総督である自分で決定できるものではない。

 そう思ったところに、キャンベル少佐から日本側からの意向が伝えられた。


「かれらの話では、以下の通りに要求と言うか提案があります。

『この件は失礼ながら、ルックス総督の一存では決定できないものと考える。従って、かのハクリュウが間もなくイングラム国のロンドンまで行くので、日本国の外務大臣がそれに乗っていって直接本国の外務卿と話をしたい。さらに、その途中でスイレン帝国の艦船を撃破していくつもりなので、如何にハクリュウが圧倒的か知れるであろう。そのために、総督またはその代理のもの及び軍の代表を1名の合計2名をハクリュウに招待し、共にロンドンまで行きたい』ということです。

 なお、ロンドンまでは途中、マニラ、インド、南アフリカのスイレン軍の艦船の停泊地に寄って行くが2日もあれば十分着くそうです」


「なに、日本国の外務大臣と我々が、一緒にロンドンまで行くということか?また、2日で着く?」

 ルックス総督が驚き言う。

「そうです。総督が了解すれば、明日の朝9時にあの港の広場にハクリュウが着陸するそうです。しかし、もしその時当方がハクリュウを攻撃したら、この本部及び薩摩にある駐屯地は全て焼き払い、イングラムの軍人は皆殺しにするということです。さっきの砲台への攻撃を見られたように彼らにはその力があります」キャンベル少佐の言葉である。


「であれば確認はしておかなくてはならん。陸軍のトーマス君、現有戦力で薩摩・琉球領の防衛は可能かね?あのハクリュウある限り補給、増援は全く期待できない」

 ルックス総督の質問にミカエル少将は答える。

「可能と言いたいですが、無理ですね。たった1隻ですが、ロンドンまで寄り道して2日で行けるような無敵の敵艦がいて勝てる要素はありません」


「うん、私もそう思う。また、それだけの優位にあっても、かれらの要求は抑制的だと私は思う。本国が真にあのハクリュウの能力を知れば本国もあっさり受け入れるだろうかどうか、それが問題だ」ルックス総督が考えながら言う。


 ところで、キャンベル少佐は総督の返事をもって日本側に再度帰るが、本国から了解の返事があれば、すぐに釈放されるとのことである。さらに、キャンベル少佐に駆逐艦ごと攫われた経緯等について、陸・海軍司令官ともども尋ねている。

 彼らは釣り上げられた時、ハクリュウを攻撃する方法が小銃しかなかったが、艦内にあっ32丁の銃で撃ちかけたが、全く効果はなくその間にもどんどん寒くなって呼吸するのが辛くなってきた。

 乗り組み員は一人二人と倒れ自分も気が遠くなってしまい。気がついたら手足を縛られて体には毛布を掛けられていた。幸い、乗組員は全員が回復したが、2人は自分が出発する時点ではまだ調子が悪かったそうだ。その後は兵員室に閉じ込められたが、食事も出てそんなに悪い扱いではなかったということである。


 その後、艦長の自分だけ別の駆逐艦、「ウネビ」と言っていたが明らかにスイレン帝国製に移され、海軍担当者から尋問を受けて、その後今日鹿児島要塞に上陸してこの伝達に来ることが伝えられたのだ。


「ところで、スイレン軍の軍人は皆殺しにされたというように伝わっているが、その話はどうなのかね」

 陸軍のミカエル少将官が聞く。


「はい、わずかにこの薩摩に逃げ込んだものがいるようですが、それはまあ脱走兵です。やはり、実質皆殺しらしいですね。ただ、スイレン兵が占領時に抵抗したものを許さず皆殺しにするなどのことがまずあり、さらには占領地で、一般人のそれも子供を的に撃つなど相当なことをしてきたようですね。

 また女狩りをしてその女たちを殆ど殺すか奴隷として国外に連れ出すかしていたようで、日本国として兵は許さないという方針のようです。

 今後、スイレン帝国はひどい目に合うと思うますよ。まあ、イングラム領の薩摩では地元民への強姦・暴行は取り締まってきましたからね。先ほどの砲台の攻撃でも、スイレン兵だったら問答無用で焼き殺されていますよ」

 キャンベル少佐の答えにルックス総督が顔をしかめる。


「スイレン帝国のああいった有色人への問題はイサリア教の問題だ。あの教義で人を育てるから、スイレン帝国の連中の振る舞いがとんでもないことになっている。実際のところ、薩摩で日本人に接する限り白人と知能や民度は変わらん。

 日本人をここまで敵にするというのは馬鹿な選択だと思うぞ。そのつけを九州にいたスイレン兵また民間人もが払ったわけだ。今後、日本国がスイレン帝国の完全な敵になるわけだ。

 我が国にとってはチャンスではあるが、はっきり言ってあのハクリュウのいる日本国がどういう出方をするかで大いに結果は変わって来る。場合によっては我が国の植民地も取り上げにかかるかも知れんな。

 しかし、スイレン帝国もとんでもない敵を作ったものだな。敵ではあるが同じ白人として同情を禁じえない」ルックス総督の話に皆うなずくが、なお総督は話を続ける。


「さて、折角の謎の空中を飛べる戦艦へのお誘いだ。わしが行くぞ。もう一人は彼らがスイレン帝国の艦船を破壊するというのだから、それを見届けるためには海軍のアランだ。いいかな?」「はい、承知しました」ジェファーソン准将が敬礼する。


「キャンベル少佐ご苦労だが、もう一度帰ってくれ。ハクリュウが来ても、こちらから攻撃はしない。それから、私はロンドンからもう一度薩摩に帰るからな。任地をほおっておくわけにはいかない。アランもこっちへ帰らざるを得んだろう?」ルックス総督の話にジェファーソンが応じる。

「無論、部下がいますから」


「さて、ではこの旨はロンドンに無線で連絡しよう。シンガポール、セイロン、カイロ経由だな」総督が言って協議が終わる。


 翌日朝、総督とジェファーソンが荷物を持って待っていると、ハクリュウがどんどん降りてくる。地上100mほどからゆっくり降りて足が伸びて着地プレートが展開する。1か所1000トンを支えるプレートが石畳を10cmほど沈下させて足がしっかりと踏ん張る。

 総督と海軍のジェファーソン准将はその重量感に圧倒された。無論イングラムにもこれ以上の大きさの船はあり、近くには座礁させられた巡洋艦もそうだが、本国には1万トンを超える戦艦もある。

 しかし、頭上にそびえる長さ85m、直径が10m余の鉄の塊の存在感は圧倒的だ。しかも、これは宙を飛び、駆逐艦を空に引っ張り上げることができ、しかも無敵の砲をもち、いかなる大砲で撃ちつけても平気であり、間違いなく世界最強であろう。

 

 底が開き斜路が降りてくる。3mほど登るその階段を、モーニングを着てシルクハットの壮年の男と灰色の制服を着た男が降りてくる。

 モーニングを着た男は外務大臣の山県で身長は150cm強であるから小柄で、半ば白髪で強い目の光を放っており、制服の男は副長の西村である。山県はイングラム人2人の前で立ちどまり、”Nice to meet you, I’m Aritomo Yamagata, the foreign minister of Japan” と英語で挨拶する。


 それから、手を差し出すので、総督と准将もまず山県と、次いで自己紹介する西村と握手して自分たちも自己紹介する。

 西村が英語で2人を中に誘導する。中に入ってからあとは、山県は日本語でしゃべり、肩から吊って下げている箱から英語が流れてくる。ハクリュウに3台積んであった翻訳機である。

 ほかの本来のハクリュウのメンバーは英語には不自由はないが、日本国海軍からの研修生は英語に関してはまだまだである。


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