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薩摩奪還

 薩摩を除いた九州奪還の反省と残った薩摩奪還について、東京の陸軍本部で会議が開かれた。本来奪還作戦は陸軍と海軍で行われるので、この会議が陸軍本部で行われるのは変なのであるが、ハクリュウが陸軍本部に隣接した練兵場に着陸していることからここで行うようになった。


 出席者は日本国側が軍務相の平垣大輔、統合作戦本部長東郷利助、陸軍司令官桧山洋一、海軍司令官梶陽介殿、陸軍参謀長の秋山一彦、陸軍作戦部長庄司健太郎、海軍作戦部長仁科清太郎、さらに九州のスイレン帝国軍の最後の掃討に立ち会った第1師団長仁科健吾、ハクリュウ側は艦長佐川と副長の西村である。


「では、まず九州におけるスイレン帝国軍に対する戦いの反省を行いたい。総評を作戦部長の庄司より行ってもらいたい」参謀長の秋山が口火を切る。

「はい、今回は、佐川艦長殿から提案のあったスイレン帝国首都への迫ることでスイレン軍の撤退を迫ることも、また上陸作戦も行わずにスイレン帝国軍を殲滅できた。これはハクリュウによる500人の特戦隊の移送、さらに続いて3000人の第1師団の兵の移送して、これを中心として地元から5千5百もの兵を募集して戦力化でき、これらに十分な武器を与えることが出来たことが大きい。


 そこで極めて有用であったのハクリュウ及び最後の段階では捕獲したスイレン製の軍艦による物資移送であった。結局、九州でのわが方の損失は、特戦隊・第1師団の12名戦死、25名の戦傷、募集兵の22名戦死、52人の戦傷であり、これで概略2万名居た敵兵を把握できた限りでは9割5分は殲滅した。なお、陸戦での捕虜は皆重症であり、320名であるが、このほかに捕獲した駆逐艦の乗員を221名捕虜にしている。

 まだ山などに逃げ込んだものがいるとはずであるが、極めて僅かと考えられる。

 

 またスイレン人の民間人も恨まれて住民から殺されたもの、巻き添えで死んだ者も数多くおり、いずれにせよ。死体の数は兵と民間人合わせて2万4千2百余であった。九州に居るスイレン人は4万と言われていて、概略1万5千は薩摩に逃げたとされているので、大体数字は合う。

 ところで、スイレン帝国の巡洋艦についてはすでに6隻をわが方が撃沈するか捕獲したが、他に駆逐艦が10隻いたといわれていた。そのうち5隻はすでにわが方が捕獲して海軍が戦力化したが、2隻は老朽艦であったため博多港で廃艦扱いであった。

 さらに3隻は捕虜の尋問の結果シナの上海に呼ばれて行って帰ってきていないらしい。従って、スイレン帝国の軍用戦闘艦艇で可動艦として残っているものはないということになる。


 結局、九州がスイレン帝国に占領されていた期間は5年と6ヵ月であり、占領時の戦いで大体12万2千人殺されている。また、占領後に様々な理由で殺されたものが3千2百人、さらに奴隷として国の外に売られていったものが約4万人いる。

 占領前には九州には350万人住んでいたと言われ、97万3千人が逃げ出し、薩摩に30万住んでいるので、今はスイレン帝国占領地だったところに約200万人程度住んでいるわけだ。


 さて、今回の作戦に当たってはハクリュウの協力でこれ以上ないほどの一方的な戦いが出来た。まず特戦隊による襲撃で敵の2千以上の兵力を減らし、その数の小銃と弾薬を手に入れた。

 さらにハクリュウによる各地区本部の攻撃で7千以上の戦力を削った。さらにハクリュウによる運搬で3千の兵を送り込むことが出来、さらに武器も送れたのでこれで兵力としてほぼ互角になったわけだ。

 しかし、敵は堅固な駐屯地に立てこもり強襲すると大きな被害が出るところであったが、各個撃破で戦力優位を作り、かつりゅう弾砲により一方的にたたくことが出来たので殆ど味方に被害なく作戦を遂行できた。

 結論から言えば、今回のスイレン帝国の打破はハクリュウの活躍と現地の抵抗勢力と協力した陸軍の合理的な戦いの成果であったと言えると思う。この結果を、薩摩奪還に生かしたい」庄司部長の話が終わった。


「では、この件で何か話はあるかな」司会役の秋山の問いに海軍司令官梶が話始めた。

「さよう、いま話があったように、今回のスイレン帝国との戦いはまさにハクリュウと陸軍のものであり、海軍は一部物資輸送で活動したのみであった。実際、海軍は今まで死に体であって協力のしようもなかったが、ハクリュウのおかげで、スイレン帝国からの拿捕船であるが巡洋艦2隻、駆逐艦5隻を戦力として組み込むことができた。

 また、今後の北海道、樺太あるいは南方の戦いではむしろ海軍が戦いの中心になると思っている。海軍においては、今後のための実戦経験を積むためにも薩摩奪還においては、出来るだけ活動の場を与えて頂くようお願いする次第です」そう言って梶は立ち上がり一同に頭をさげる。


「いや、いや梶殿頭を上げてください。まさに言われるように今からです」陸軍司令官桧山がなだめる。

 そこで、参謀長秋山が次の議題にかかる。

「では、梶閣下がお話になったことですし、薩摩奪還の話にかかりたいと思います。

 まず、彼らの戦力ですが、陸軍については私の方から申し上げる。薩摩に居るイングラム国兵は約1万人で7千人が鹿児島湾・錦江湾沿いに展開しており、基本的にはスイレン帝国と同様な駐屯地20箇所を本拠として、必要のあるときのみ隊列を組んで出てくる。


 また政治的・商業的中心地は鹿児島に集中して、農産物と薩摩で取れる金を搬出している。また、ここには陸海の大規模な駐屯本部があり兵力の3割ほどが集まっている。

 彼らの武装であるが、兵それぞれに銃剣付きの小銃、射程は50間で元込め式と短刀さらに、10人に一人程度の将校は短銃を持っている。口径60mm小口径砲を各駐屯地に5門、さらに、200mmの大口径砲を2門もって居る。

 鹿児島の本部には小総口径砲20門、大口径砲が10門ある。砲台が鹿児島湾の入口及び錦江湾に作られて、それぞれ大口径砲が10門ずつあり、これは射程が10kmに達するので艦船はその砲撃を浴びずに侵入することは不可能になっている。では次は海軍の方をお願いします」


 これに、海軍作戦部長仁科が答える。「はい、もともと薩摩のイングラム海軍にはイペリアル型巡洋艦2隻、デューク型駆逐艦4隻があり、これらは基本的に錦江湾を母港として適宜彼らの東洋の本拠シンガポールと往復しています。現状の偵察では錦江湾には巡洋艦2隻と駆逐艦4隻がとどまっています。駆逐艦の大きさ、戦力はスイレン帝国のものと同等ですが、巡洋艦の主砲は口径12cmで35口径6門、積載量5千トンとスイレン帝国の主力巡洋艦フィリぺ型口径15cm40口径6門に、積載量8千トンとは相当差があります。以上が海軍の戦力ですね」


 参謀長秋山が話を進める。「ありがとうございます。では統合作戦本部から、薩摩奪還作戦へのスイレン帝国との戦いを踏まえての方針を示して頂きたいと思います」


「統合作戦本部東郷です。今回の作戦目的は、日本人たる現地の人々さらにその財産をできるだけ損なわないように、イングラム国の軍および民間人を叩き出すことですね。また、その際には今まで地元が被った被害を償わせるような形が望ましい。無論、かってなことをいうなと言われるのは承知の上です。

 しかし、私もハクリュウがいない状態であらばそういうことは言わない。今までの戦いを見ていると、ハクリュウの存在がかってであれば莫大な損害を受けつつ戦い抜く状況で嘘みたいな軽微な被害で目的を達している。出来れば、佐川艦長に、まずハクリュウの戦力をもって、私が言ったようなことが出来ないかお尋ねしたい。いかがでしょうか」


 東郷が持ち前の穏やかな口調でゆっくり佐川に提案を促し佐川が答える「はい、正直に言って薩摩はそれ以外の九州より難しい。その理由は彼らの駐屯地は住宅地に近いのです。

 一つにはそれが統治の仕方の結果だろうと思います。スイレン人は日本人を人間扱いせずに迫害したから、近くに住みたくない。一方でイングラム人はまあ財のはく奪はするが日々の迫害はしないので、互いの一種の信頼関係があるからのその距離感なのでしょう。

 しかし、大出力のハクリュウの武器で駐屯地を攻撃するにはこれは非常に都合が悪い。もう一つ言えば、イングラム兵を皆殺しにはしたくはないという気持ちがあります」


 ここで、佐川は一旦言葉を切る。日本国の軍人、特に参謀長の秋山は『軟弱な奴め』と言う顔で見ている。佐川は続ける。

「それで提案は、スイレン帝国の場合は断念しましたが、こんどこそ彼ら自ら引かせましょう。まず、薩摩のイングラム軍にどうあっても敵わないことを納得させます。さらに、そのうえで彼らの首都ロンドンまで行って撤退の命令を出させましょう。

 しかし、その前にスイレン帝国には落とし前を付けてもらいましょうか。彼らの軍港の艦船を全て破壊します。それから、首都を人質に賠償金を要求しましょう。ついでに、スイレン帝国に行く前にシナ、マニラ、インドなどに寄って彼らの艦を皆撃沈します。

 イングラム軍人を乗せておいて見せれば、その結果と状況を知ることいなるので、イングラムも徹退命令を出すことに否やは無いでしょう。賠償金代わりに今薩摩にいる巡洋艦と駆逐艦を頂き、薩摩から持ち出した金に相当する金を出させます。いかがですか、そんなところで」


 この発言に、日本国の出席者はあまりに途方もない話に呆然とした。しかし、考えたらハクリュウであれば可能なのだ。世界でも最強の艦(日本国の人はそう思っていたが、実際はスイレン国の最新戦艦カルロス1世号級2万2千トンが最強)を1日のうちに6隻を沈め・拿捕し、最強の砲で撃たれても平気で、数時間でこの地球を飛行して一周でき、想像もつかない威力の砲、砲弾を打ち出せる砲と、熱線を打ち出せる砲を多数持ち、海にも潜ることができ、無限の動力を持っている。


 この艦であれば、たしかにスイレン帝国のいかなる艦も敵わないだろうし世界一の壮麗な大都会というマドリッドもずたずたに破壊できるだろう。ようやく動揺を収めた、軍務相の平垣大輔が今度は答える。


「当方はそれが出来れば、それでよいと思う。我が国に手を出せば痛い目に遭うということはスイレン帝国の例で欧州の傲慢な白人共も十分わかるであろう。しかし、最初の作戦になる、薩摩のイングラム軍に無力を知らしめるというのはどのようにするか考えておられるかな?」


「そこが難しいのですよね、かれらの艦ですとか駐屯地を破壊していいのなら簡単なのですが、艦は何とか捕獲したい。駐屯地を破壊すると周囲に被害が及ぶし、できれば熱線砲で殺すようなこともしたくないし、ということで詰まっているのです」佐川が困って言うのに、東郷が提案する。


「では、こういう方法はいかがでしょうか。まず駆逐艦は宙に吊り上げることにかれらは抵抗できないでしょうから。駆逐艦の4隻はそうやって捕らえる。回航要員が乗り移る場所は鹿児島湾外でいいでしょう。巡洋艦は出来るだけ主要部を傷つけないように穴を明けて近くの岸にどし上げる。浜松と一緒ですな。

 また、鹿児島の本部駐屯地は極めて堅固なものらしいです。これを、砕いてやればかれらの心も折れるでしょう。捕虜は駆逐艦の乗員から取れますし、念のため本部から一人イングラムに連れて行けばいいでしょう。たぶん、駆逐艦の乗員に交渉させれば幹部で行くと申しでる者がいますよ」


「ふーむ。それは良いかもしれないな」佐川は副長の西村が頷くのを見てそう言う。

 結局その作戦で行くことに決まったが最後に軍務相の平垣が言う。

「梶司令官、今度もあまり活躍の場は無いが、申し訳ない」それに対して梶が答える。

「いえ、犠牲が無いのが一番です。それに、またしても海軍としては戦力が増えることになるわけですからこれはありがたいですよ」


 維新9年12月12日、冬であるが風は比較的穏やかである。

 日本国海軍横須賀軍港所属駆逐艦であるスイレン帝国艦の名前を変えた畝傍と有明の2艦は鹿児島湾の湾口に近い竹島のを風よけにして待機していた。それぞれ10人乗りのカッターを2隻下す準備をして、乗員が待機している。


「来た!ハクリュウだ」見張り員が叫ぶ。確かにこの駆逐艦と同じような艦が空中を降りてくるがその100mほど上にもっとずんぐりした灰色のハクリュウが同じように降りてくる。やがて、駆逐艦はゆっくり畝傍のほんの50m先に浮かぶ。

 その前に畝傍からカッターが降ろされて駆逐艦に向かう。すぐにカッターからカギ付きの綱が投げられそれが、しっかり固定されたのを確認して、3人が素早く登る。2人は銃を担ぎ、一人は網を担いでいる。

 2人が銃で警戒するなかで、1人が網の一端を舷側に固定して反対側を投げ下ろす。それを登ってわっとカッターの回航員が回航する艦に乗り込む。

 みな銃を含めてそれぞれに荷物をもっている。甲板はついさっきまで数千mの高空に居たため非常に冷たいが、そのうえで回航要員は急ぎ艦内に散ってイングラム兵を拘束していく。また別の兵は艦内の機器を点検して、機関の起動の準備をしている。


 同じ日、錦江湾は大騒ぎであった。突然灰色の巨大なくじらのようなものが舞い降りてきて、湾内に係留されていた駆逐艦の上100mほど上空で止まり、上昇し始めたと思ったら駆逐艦も全くそれに同調して浮かび上がったのだ。繋ぐものがなにも見えないのになぜだ?謎であった。

 最初の時は何も対処できなかったが、2回目に現れたときは巡洋艦を始め射撃の準備が出来ていたものの艦砲の狙いをつけられるのものが少なく、ようやく一隻の駆逐艦の4インチ砲が放たれたが外れた。

 4度目にようや巡洋艦の主砲の狙いがつき射撃して、一発が命中して爆発したが、全く影響がなく、そのクジラでなく敵艦と駆逐艦は去って行った。


 軍艦関係者が呆然としているうちに、また灰色の敵艦が帰ってきて、その船底から火花が一瞬みえる。  はっと気が付くと巡洋艦の1艦から小さな火柱が立ち、次いでもう1艦から同様に火柱が立つ。敵艦が降りてきて、巡洋艦の1艦の100mほど上空に止まり前進し始めると、巡洋艦も海に浮いたまま引っ張られられて見る見るうちに岸にどし上げる。

 残された巡洋艦は艦砲で敵艦を撃つが、ようやく当たった2発は全く効果がない。引っ張られている艦は敵が真上なので撃てない。残った巡洋艦の運命もまったく一緒であった。


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