九州解放作戦実施2
サヤカは商家の娘であるが、17歳の数カ月前、家に居たとき「女狩りだ!」と叫ぶ声に、隠れる場所として父が作ってくれた、押し入れから天井に登ってそこに震えながら隠れた。
その後ドスン、バタンと音がして、「やめてください。娘は居ません」との父と母の叫び声、さらにたぶんスイレン語だろう大きな声がする。
やがて、押し入れの襖を開ける音がして心臓の音が聞こえそうなほど高まる。ああ、押し入れのなかに中に誰か入ってきた。押し入れの天井板が持ち上げられて、男の顔が覗いて「へへへ、見つけたぞ」気持ち悪い声で笑ったあと「降りてこい!刺すぞ!」と穴から槍を構える。
「刺せ!死んだ方がましだ」サヤカは叫ぶが、男が飛び上がってきて、彼女の襟首をつかんで引きずり下ろす。暴れるサヤカを引きずり下ろした男は、スイレン人の手先の一人で有名なゲンジというやくざ者だ。
押さえつけられて、絶望した目をした母と父が見える。
暴れるサヤカに、スイレン人が近寄ってきて、いきなりもっていた棒でこめかみを殴る。こうした場合に使うゴム製の棒だ。サヤカは、そのまま気を失い気がつくと薄暗い大きな部屋に寝ていた。
ここはどこと思っているうちに、部屋の扉が開いて、大きなスイレン人がにやにやしながら入ってくる。思わず上半身を起こし後ずさるが、男はお構いなしにサヤカの手を掴みそのままあっさり担いで階段を降りて行き、まもなく沢山の扉が並んでいる所の一つの扉を開ける。
そこには布団が敷いてあり、男はそこにサヤカを投げ出して、家から着ていた服を合わせをはぎ取りのしかかる。この夜を始めとして、サヤカは毎日2人か3人の男に抱かれるようになった。
最初の頃は痛みがひどくて死にそうだったが、そのうちに血が出なくなり苦痛そのものは止まったが、行為自体が極めて苦痛だった。
先輩として一緒に暮らしている女から最初は手当をしてもらって、「自分も合わせないといつまでも痛いだけだよ」と言われるものの、慣れるつもりもなかった。
また、スイレン人はサヤカ達日本人を人間として見ていなくて、殴る蹴るは普通で、扱いは乱暴極まるものであるため、生傷が絶えなかった。その中で男たちへの憎しみが募ってきて、もうここにきて3ヵ月かという日に、明日は男の首を食いちぎってやると決心した。
どうせ、果たせず殺されるだろうが、その方がこんな生活を続けるよりも増しだ、と決心したまさにその夜、明日こそはとの決心したその興奮でなかなか眠れず、それでもうとうと眠りに引き込まれた時、パン、パン、ズドンと大きい音がする。
はっと、半身を起こすと、仲間の女たちの何人はすでに起きて扉に耳を当てている。外に人の気配が集まってきたと思うと声がする。
「おい、日本軍だ。助けにきた。返事をしろ」その声に気が強くてしっかりしたサチが返事をする。
「兵隊さん!この部屋は日本人の女ばかりです」するとすぐ「中からは開けられないか?」と外から声がしてサチが再度返事をする。
「だめです。外から鍵をかけられています」
「よし、扉の前からどけ!」と声が聞こえるのでサチが手真似で離れるよう指示して、皆扉から人の背ほど離れる。
ドンと激しい音がして扉はバーンという音を立てて開き、そこには数人の確かに日本人で制服を着た兵隊が見える。サヤカは思った。『私たちは助けられた!?』
サヤカ達が外に出るまでに、すごく濃い血の臭いがして沢山の死体を見えるが、それらは皆自分たちを攫っきて毎晩犯した憎いスイレン人の兵であるから、サヤカは嬉しくてたまらない。
すでに、人として耐えられない状態に数カ月も置かれて、精神が失調したのだろう。
「ははは、ははは!」気がついたらサヤカは狂ったように笑っていて、見かねた兵士のセイタがサヤカの腕を掴んで「おい、大丈夫か。おい!」とゆする。それで、サヤカは少し気を取り直して、セイタに目の焦点を当てて言う。
「大丈夫よ。嬉しいのよ。本当に、こいつらスイレン人が憎かった。助けてくれてありがとう。ちょっと遅かったけどね」
「う、うん、しっかりしてくれ、俺たちの本拠に一緒に行こう」セイタは自分より若いサヤカが経てきた経験を思って怯みながらも言う。
サヤカは、セイタ達の本拠に落ち着いたあと、兵たちの戦闘訓練を見ていた。沸き上がる激情をおさえて決心し、島田中尉に直訴した。
「中尉殿、私も訓練訓練に加えてください。私は女だからスイレン兵も油断すると思うのです。今後、スイレン人たちを混乱させるために、村や町に出てスイレン人を殺し、彼らの家を焼く工作をするとのことですが私もぜひ加わりたい。 私はもう娘ではありませんから、仮に捕まっても平気です。お願いです」
島田中尉は、じっと直訴するサヤカを見ていたが頷き言う。「うむ、判った。女部隊もいいかもしれん。いいだろう。一人ではやりにくいから仲間はいるか?何人か一緒に訓練する。しかし、訓練はつらいぞ」
サヤカはしかし怯まない。「はい、つらいのは覚悟のうえです。あそこの毎日よりつらいことは無いと思います」彼女は女たちに話しかけて若いものを中心に15人の希望者を集めて、訓練を始めた。
1ヵ月の訓練の後、彼女らはくノ一班として町に繰り出し、その後スイレン人が九州からいなくなるまでの半年の間に、一人平均12人のスイレン人を及び日本人の協力者を殺すと共に様々な施設を爆破して、スイレン人及びスイレン人に協力する者たちを恐怖に慄かせた。
こうしたくノ一班は九州各地に結成され、スイレン兵、スイレン人有力商人等の暗殺、兵舎や様々な官舎、教会の爆破などを進めてスイレン人の統治を揺るがした。
中でもサヤカは、頭がよく体力もあり敏捷性に優れていることから、人数が30人に増えたくノ一班のサブリーダーを勤めて、単独でスイレン人を28人殺している。手口は基本的には渡り12cmの小刀によってのどを切り裂くか、延髄を狙って盆の窪を突き刺す方法であり、場合によっては体を餌に寝床に誘っての凶行である。無論、彼女のこの殺人には、かって隠れていた彼女を見つけたあのやくざ者も含まれている。
スイレン人が去って、九州地方が落ち着いたあと、サヤカは細々と商売をしていた実家に戻り、持ち前の頭の良さと、修羅場をくぐったことによるくそ度胸で実家を中堅の商店にまで育てた。一方、サヤカの活動を陰で支えてきたセイタは陸軍に正式に雇用され、頭の良さを見込まれて、士官コースに配属されて1年後には少尉になり、実家を切りまわしているサヤカと結婚した。
2人は後に2男2女を授かり、セイタ、脇村政太は中将で退役、サヤカ、脇村紗耶香は、その時は実家の時田商店を九州物産株式会社として福岡県で一番の商事会社に育て上げてその社長に収まっていた。
九州のスイレン軍の各地区本部駐屯所攻撃の夜、ハクリュウは午後11時半に東京の陸軍本部を舞い上がった。乗り組み員の27人に加えて、海軍と陸軍から適性ありとして選ばれた20人の研修生、さらに陸軍本部からということで、総参謀長の秋山一彦と作戦部長の庄司健太郎と一緒である。
研修生については、今後、日本国の産業技術の発展のためには、どうしても違う世界の日本の常識に慣れた乗り組み員を様々な機器開発の現場の適所に配置する必要があり、その交代要員として訓練するのである。最初に湯川一士が浜松のスイレン帝国の巡洋艦再生のために艦を離れる予定になっているので、湯川は一所懸命、自分の交代が出来るように配置されてきた20歳の田山士官候補生に役割を教えている。
30分後に、ハクリュウはスイレン帝国福岡地区本部駐屯所の上空に舞い降りる。
高度千mで駐屯所の真上で停止する。駐屯所構内は5百m四方であり、その中に200m四方の3階建て建物が建っている。2門の熱線砲が火蓋を切る。
200mの建物を端から端まで10秒で薙ぐが、火箭は1000mの高度では1万度の温度で直径2mで青白く光る棒であるので、10m幅ですだれ状に薙いでいくことになっている。熱線砲の一門は中の建物、もう一門は周囲の塀を薙いでいく。
建物は熱線によって10mずつ離して端から端まで20回薙がれていくが2本目で既に強烈な炎が噴き出している。まだ夜の12時なので外に出て騒いでいる者もいるが、お構いなしである。大体照射が5分で終わったとき、さすがによろめきながら建物から庭に出てくるものもいて外には数十人がいるが。
木石混合の周囲の塀は、熱線砲で薙がれたことで崩壊しており、外から銃火がきらめく。これは特戦隊に外に潜ませておいて、彼らが外に出てきたスイレン人を狙撃しているのだ。
数人のものが銃を持つ出したようで銃で反撃しているが、ハクリュウの熱線砲の一門がそこを薙ぐと人体銃共に蒸発して、煮えたぎった地面が残され、すぐ中からの反撃はとまる。ハクリュウは、それを見て次の目標である、博多港の海軍司令部に向かう。
さらに、次の長崎の本部駐屯所までは、殆ど反応は福岡と一緒で警戒している様子は全くなかったので福岡と同様に処理できた。
しかし、4番目の久留米の駐屯所では、屋外に銃を持った200名ほどの兵が整列して、さらに塀の上の8か所の砲座には兵がとりついている。
5千mの上空から望遠機能でそれを確認した佐川艦長が「この高さで停止、外の兵を狙って熱線砲Aを撃て、さらに砲座については熱線砲Bで撃て」と命令する。
「降下停止!」
「熱線砲A兵を狙って撃ちます、熱線砲B砲座を狙って撃ちます」それぞれ担当将校より復唱がある。
地上の兵士を指揮しているスイレン帝国九州派遣師団、久留米連隊のラサマ・パウラ中尉は兵の前に立ちながらも戸惑っていた。福岡のある駐屯所からこの本部宛に電話があり、福岡の駐屯所が焼き払われて、中に生き残った者も外からの銃撃で撃ち殺され全滅したというのだ。
司令官のサミーラ・ジパルグ大佐から命じられ、200名の兵を完全武装させて本部の庭に待機させている。砲術隊の同僚ミカサ中尉は、8門の砲に兵員を配置して弾を込めた状態で待機している。
司令官のサミーラ・ジパルグ大佐は自分の執務室から待機している兵を見ていた。
突然、その兵の隊列の端から、直径が5m以上もある赤白い光の柱が降りてきて反対の端まで通過していく。その柱の中の兵はボン!と音を立てて一瞬で燃え上がり、柱の外の5m程度の距離の所にいた兵までも数秒置いて燃え上がり、その外の兵も苦痛に転げまわる。
ほんの10秒程度の間に、約200名の隊列を組んだ兵士は、松明のように燃える柱と、倒れて硬直した兵、未だ苦しんでいる兵に別れていずれにせよ軍事力としては失われれてしまった。大佐が見ているうちに同じような柱が塀の上の砲座を襲って、天井が、次いで兵が燃え上がり砲が爆発する。
大佐は、ドアを開けて外にいた衛兵に「建物に入れ!外に出るな」と叫び衛兵は同じことを叫んで回る。
大佐は外の松明となった兵が燃え尽き、もがいていた兵が静まるのを数分見ていたが、突然部屋の端から青白い柱が現れるの見た数舜後自らも蒸発してその身をこの世から消した。
次のスイレン帝国の熊本、宮崎、大分本部駐屯所での状況も、やはり兵が駐屯地内に留まって待機して、砲を撃つ準備をした点は大同小異であり、それに対して外にいた兵は高空からの熱線砲で殲滅され、建物の中の兵は千mの上空からの熱線砲攻撃で建物ごと焼き払われ、生き残ったものは塀を破壊されたのちの外からの陸軍の特戦隊の銃撃で殲滅された。
こうして、6か所の陸軍の地区本部駐屯所と、1か所の海軍本部を焼きはらってハクリュウが東京に帰ってきたのは明け方の5時であった。
この世界の日本国のものは憎き敵を大量に殲滅できたということで盛りあがっているが、ハクリュウの乗員はどちらかと言うとあまり気持ちは良くない。
それを見て佐川艦長は帰還途中で訓示をする。「本日は、ご苦労であった。たしかに、どうあっても我々に勝てる要素のない敵を皆殺しにした今晩の作戦はあまり我々にとって気持ちの良いものではない。
しかしながら、今日我々が殲滅した者たちは、そうされるだけのことをしてきたことは忘れないようにしなければならない。
九州に送り込まれた特戦隊からの報告を諸君も読んだはずだ。日常的に気まぐれで殺される子供を含む人々、女狩りで集められ性の奴隷にされる女性、しかも妊娠したら殺されるという悪辣さ。
これは、根本的にはイサリア教の教えにより、白人以外が人でないと思い込まされていることが原因だ。この非白人に対する悪辣さからすれば、スイレン帝国は解体し、イサリア教は滅ぼす必要がある。しかし、かれらは今のところ極めて巨大な敵であり、我がハクリュウは唯の1艦である。
従って、我々が被害を受けないように出来るだけ効率よく敵の戦力を削りとって行く必要がある。今晩の作戦はその一環なのだ」
「はい、艦長、わかりました」乗員が声をそろえて言う。




