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宙航艦ハクリュウの遭難

どうも、すこしちがう物語を書きたくなりまして、2作が進行中にも関わらず書き始めてしまいました。

佐藤大輔氏の死に触発されたのもありますが、無論彼の域には到底及ばないのはわかっています。

週に2回くらいは更新したいなと思っています。

SFか歴史か迷ったのですが、やっぱりなじみのSFかなということでSFにしました。

ご愛顧をお願いします。

 宙航艦ハクリュウ - 自衛隊そうりゅう型潜水艦、はくりゅうの宇宙戦闘艦への改修艦-全長84m、径約10m、満載重量4千5百トンは、ラザニアム帝国の第1次侵攻において、すでに撃破したと思った敵戦闘艦をすり抜けようとし時一千メガトン級の敵艦の爆発に巻き込まれて消滅した、と思われた。

 無論、ハクリュウは大きなショックと白光に包まれ、艦長佐川良太2佐はじめ、乗組員は「ああ、これで終わりか」と思い消滅したと、思った。


 しかし、艦長佐川はふと横たわっているのに気が付いた。『あれ、死んだんじゃ?』頬を抓るがちゃんと痛い。周りには、副長の西村3佐尉以下5人が倒れているので、とりあえず西村の襟首を掴めて起こして頬を張る。


「おい、西村起きろ!」西村はぼやっと目を開き、頭をぶるっと振って、「か、艦長、これは死後の世界ですか?」佐川が再度頬を思い切り張る。

「か、艦長!痛いですよ。なにか悪意を感じるなあ」とブツブツ言いながらも起き上がる。それから、2人で協力して乗り組み員を起こして回る。


 乗組員27名は全員無事であったので、さまざまな調査の後、艦長たる佐川は訓示をする。

「ああ、我々はラザニアム帝国戦闘艦の大爆発に巻き込まれたと思ったが、艦に特に損傷はなく我々乗員も無事であった。ちなみに、電波また重力通信装置は無事だと思われるがまったく応答がなく、また電波による通信・放送は全く捕らえられていない。


 しかし、惑星及び太陽の観測結果からすれば、ここは太陽系の王道面であり、地球軌道から3億kmの位置にあって、地球は地球で間違いはない。

 しかし、違う点は、地球の夜の半球において、少なくとも明るく輝くはずの都市の照明があることはあるが、現在の我々の地球に比べればわずかである。

 従って、我々は過去にさかのぼったのかと思ったが、どうやら星座を構成する星々の観測の結果は、今は我々のあるべき時間であるはずの時点である。

 したがって、まことに信じがたいことではあるが、唯一の解釈はここは太陽系ではあるが違う次元の空間であるということだ」

 

そこで、佐川は口をつぐむ、とさすがに規律正しい自衛官もひとしきりがやがや騒ぎ始める。

「そんな、馬鹿な!」「そんな、SFみたいなことがあるものか!」

 佐川はしばらくその状態を放置するが、ややあって騒ぎも静まり下士官の三波二曹が聞く。


「では、艦長、それでは地球はどういう状況か判らないということですね?」


「そうだ。しかし、言えることはまだ文明としてはかなり低い段階だと思う。電気の利用もあるようだが、まだ利用の初期の段階で地域的にも殆どヨーロッパに限られているようだ。

 あの夜の半球の殆どの暗闇がそれを証明している」


「では、我々のこのハクリュウはオーバーテクノロジーもいいところですね。俺たち無敵ってね」 佐川の答えに若い、湯川一士が陽気に言う。


「そうだな。ちょっと元の世界に帰るのは望み薄な状況ではちょっと有利な点かな」

 佐川が故意に陽気に言って続ける。「いずれにせよ、地球に直行してまずは偵察だ。全員位置につけ。5分後に最大加速で地球に向かう」

「はい、艦長!」皆が唱和する。


 ちなみに、乗り組み員は全員が自衛隊出身者で長期宇宙に滞在することを想定して全員が男性であり、艦長佐川2佐35歳以下、宇宙艦内の勤務ということで適応能力を重視して皆若く、平均年齢は28歳である。加えていうと、相当に危険な任務であることから乗員は皆独身者が選ばれている。

 

 なお、ハクリュウは、乗員27名、10万kW核融合発電機2基搭載、重力エンジン駆動、砲弾径15cmレールガン4基、砲弾径25mmレールガン2基搭載、散弾レールガン2基、電磁バリヤー・斥力装置設置、最大加速力は10Gであり、水素が燃料の核融合発電機を動力としているので最大加速で前進しても殆ど無限の航続時間があり、間違いなく数年前ですら一隻で地球で最強の戦力である。


 ハクリュウは、20時間後には地球の軌道にのって、地上10kmで48時間をかけて地球の主要部を周回して艦載のAIにその分析をさせた。その結果は以下の通りであった。


 1)各地域は前地球の地理の通りであり、各地域の人種もそのままであるが、すでに欧州の大航海時代を通じて欧州人が世界中に植民地を作って、有色人種に対して前世界以上の搾取をしている。 欧州では産業革命が半島国家スイレン国で起きたこともあって、スイレン帝国が欧州では最大の力を持って、スイレン帝国に日の沈むことがないというほど世界中に植民地を持っている。


 2)北米大陸において、前世界で合衆国のあるアメリカ地域は欧州各地からの植民が行われているが、やはりスイレン帝国の支配下にある。北のカナダ地域は島国のイングラム国とスイレン帝国と国境を接するフューレン国の植民者が主体で独立の機運がある。

 南米大陸はスイレン帝国及び、それと国境を接するポーラル国の支配下にある。両アメリカ大陸では原住民は、これらの国の国教であるイサリア教の元で人間として認められておらず、宗教による圧迫とスイレン帝国・ポーラル帝国の圧政の元に、欧州から様々な病気が持ち込まれたこともあって、急激に人口を減少させており事実上滅ぼされようとしている。


 3)アジアではインド・セイロン島等の西南アジアはスイレン帝国、フィリピンやインドネシアを含む東南アジアはスイレン帝国、イングラム国、フェーレン国、ドクラ国(ドイツ領土の国)の植民地になっている。


 4)中国はすでに香港を中心に領土の1/3がスイレン国の手に落ちており、朝鮮半島はすでに北の大国ロマノ帝国の支配下に入っている。


 5)アフリカは全て欧州の国の植民地になっているが、スイレン国が優勢な状態である。またオーストラリアはイングラム国により一部植民が始まっている。


 6)日本は、スイレン国を中心とする欧州勢の攻勢の中で徳川幕府が瓦解して、大政奉還が起きたが、すでに九州はスイレン帝国とその手先のイングラム国に占領されており、北海道もロマノ領になっていて数年中には本州もスイレン帝国とソマニ帝国の手に落ちるであろうとされている。


 7)テクノロジー・レベルとしては、ヨーロッパの最先進国のスイレン国が第2次世界大戦前程度であり、他の欧州勢がそれより少し落ちる程度であり、ロマノ帝国は工業レベルがスイレン帝国に比べると5年は遅れており、軍備の正面装備ではスイレン帝国に全く劣るとされている。


 8)日本では、その旺盛な知識欲から欧州から機械文明の知識としては入って来ているが、資源がないこと、敵対している欧州から機器の輸入ができないことから生産設備がつくれず、軍事的に完全に欧州勢に押されっぱなしである。


 この結果を乗組員に発表して、今後どうするかの会議を開いた。

「以上のような、世界情勢であるが、この世界は前の世界に比べて文明の発達が100年程遅れているようだ。

 とりわけ、人権に関する考え方は中世に近いな。イサリア教は前世界のキリスト教に相当するが、特にスイレン帝国、ポーラル国の国教としてのそれは白人以外を人間として認めていないので、白人が有色人種の財産・生命を奪うことは権利として認めている。

 そのような、国教を持つスイレン帝国が、この世界のもっとも優勢な勢力ということで、結構ひどいことになっているようだな。

 前の世界でも南米と北米を比べるとよくわかるというが、スペイン・ポルトガルの支配は結構ひどかったようだな。奪うばかりで、殆ど自分たちのため以外のインフラ整備はしていない」


 佐川の説明に、まず砲術長の斎藤雅人2尉が意見を言う。

「艦長、まず、我々としては日本を助けたいと思いますが、そんなスイレン帝国に奪われた九州はひどいことになっていますよね。また、本州も相当やられているのじゃないでしょうか。いずれにせよ、早急に日本の現在の政府にコンタクトして、本州を防衛し、九州、北海道を取り返しましょう」

 次いで、航行士官の山田慎吾2尉が言う。

「それはその通りですが、まずこの艦であれば、第2次世界大戦当時の艦艇に勝つのはもちろんですが、この艦を使って日本の防衛のためにどうするか、またどの程度の攻撃をするかです。

 そのあたりは決めておく必要があるでしょう。

 私の意見としては、まず、船を攻撃して九州、北海道の占領軍の補給を絶つべきだと思います。どうせ日本には、碌な船は無いと思いますので、出来たら捕獲したいところですね。

 最初に、本州沿岸を回って、日本を攻撃している艦艇がないか調べて、一通り危ない部分がないことを確認していから、日本の政府と接触してそれからどう捕獲するか考えるべきだと思います。 また、現に一般市民を含む住民を巻きこんだ攻撃をしている者は容赦なく撃滅していいと思います。他は、船を接収する意味合いもありますが降伏を促すべきでしょう」


 山田の意見に対して、佐川は「私は基本的に山田2尉の意見に賛成だが。皆はどうかな?」三波2曹が拍手して「いいと、思いますよ」と声をかけると皆が拍手をする。


 佐川は頷いて付け加える。「わかった、いずれにせよ、日本からスイレン帝国とイングラム国の脅威を取り去ることを第一優先とする。これからの、私たちの行動、振る舞いは間違いなくこの世界の歴史に残ることになることは皆頭においてほしい。

 例えスイレン帝国のものが残虐行為を働いていたとしても、我々が同じことはしてはならん、日本国自衛隊の誇りのためにもな。

 戦闘行為の中で敵が死ぬことはやむを得ないし、味方としての日本の人々を守るために敵を殲滅することもこれもまたやむを得ないと考えている。では、今のところ、ここは四国沖だから、本州の周りの海岸線を一回りしよう。高度5千m、時速千kmだ」

 

 さすがに灰色に塗られた長さ80m、直径が10mの物体が音はほとんどしないとは言っても、空を飛んでいれば目立つので、その日はあちこちの代官所に目撃情報が届けられたとか。四国から紀伊に向かい東海の海岸を北上し、三河湾を去って浜松に向かう。



 旧徳川家の300石取りであり、現在は陸軍浜松連隊第3中隊長、吉川金吾は砲台の臼砲のそばで50人余りの部下と自分の上を飛び去っていく、スイレン帝国の軍艦から放たれる砲弾を、悔しさのあまり唇をかみ破って血がにじむ状態で見ていた。


 沖合には敵の鋼鉄製の軍艦、たぶん巡洋艦が3隻連なって次々に浜松の街を砲撃している。すでに浜松城はがれきに山になっており、街は炎に包まれている。

 町の住民は避難させたので、住民に被害は出ていないが、城には同僚が詰めていたはずなので、犠牲者もいるだろう。

 何より悔しいのは、沖合3kmの敵の軍艦が停泊している距離まで彼らの砲で届かないのだ。5kmを超える射程を持つ砲はいまのところ江戸湾の入口と江戸の砲台にしかない。


 しかし、突然部下が空を指さして叫んだ。「吉川隊長、なにか大きな飛ぶものが近づいてきます!」たしかに、巨大な灰色の両端がとがった、そう納豆巻きのような形で光沢のあるものがゆっくりと降りてきて、敵の艦船に対して目立つように動いていく。


 敵の砲撃が止んで、その納豆巻きを敵の砲が追いかけており、てんでに撃ち始める。その納豆巻きは、敵艦と同じくらいの沖で海面から高さ50間程度、距離は10町位の位置で止まる。

 まるで撃ってくれと言わんばかりだが、敵艦の3隻が猛烈に撃ち始める。外れるものもあるが当たるものもあり、爆発するかと吉川は目をつぶるが砲弾は爆発せずにその納豆巻きから10間くらい離れたところでポトリポトリ海に落ちている。


 そうして15分ほど勝手に撃たしていたが、突然納豆巻きから火花が散ったと思うと、敵の3艦の砲が取り付けられている箱がぐしゃっとなって、1艦からの箱が爆発を起こして飛び散った。それから、1艦はさらに大砲を撃とうとして、その砲の箱がさらにくしゃりとなった。それが、最後に敵艦は静まったが、2艦は沖に向けて向きを変えて去ろうとするが爆発を起こした1艦は動かない。

 また、納豆巻きから火が散ったとおもったら、逃げだした艦の煙を吐いている煙突がクシャットなって、煙があたりにたなびきやがて、動いていた2艦は惰性で動くだけになった。

 

 すぐに、その1艦が海岸に向かって動き始めた。どうもあの納豆巻きが引っ張っているようだが、なにも綱のようなものは見えない。その艦はどんどん砂浜に向かってきてドンという感じで止まる。

 船首が砂に乗り上げたようだ。同様なことを繰り返して、3艦ともに砂浜の海岸に並んだ。長さ60間以上、甲板までの高さは10間はある巨大さだ。それを唖然として見たいた吉川たちだったが、その後、その納豆巻きが吉川たちの砲台に寄って来るので、兵が火縄銃を向けるが吉川が止める。


「まて、銃を下せ、彼らは味方だ」味方かどうかは判らないがどうせ彼らには敵わない。

 その納豆巻きは、すぐ近くの広場に降りてきて、その胴体から足が出てその足が地上にしっかりと降りる。底の板が割れて端が地上に触れたとき、声が聞こえる。


「私たちは味方だ。皆さんを助けに来たので、撃つなよ」やがて、金色のボッチ(ボタンというらしい)のついた灰色の服を着て細い袴みたいなものを穿いて、金糸が入ったひさしのついた帽子をかぶった長身の男が現れた。

 吉川は正直『かっこういいなあ』と思った。その男も吉川を見て隊長とわかったのだろう。吉川の前で揃えた手を頭の横に付けて敬礼をする。


「日本国、航空軍西村少佐です。あの艦宙航艦ハクリュウの副長です」吉川はその名乗りに驚きながらも敬礼は習っていたので真似をして言う。

「日本国陸軍浜松連隊、第3中隊長の吉川金吾です」それが、その後長きに渡って付き合いの出来た吉川金吾とハクリュウの乗り組み員の出会いであった。


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