8 赤ポテトを食べる
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そして、私たちの赤ポテト収穫がはじまった。
幼女先生ことクレーヴェル教授が早速話の聞いてなさっぷりを発揮して、大きな鍬を持って、「おっとっと……」とバランスを崩していた。普通に危ない。
「教授、そこまで深く埋まってるわけじゃないので、鍬まで必要ではありません。教授でも簡単に扱えるスコップで大丈夫ですよ」
「わ、わしはちゃんと鍬も使え……おっとっと……」
「それ、私やエリーチャちゃんの頭にぐさっときそうなんでやめてください!」
「ちなみにわしの生まれ故郷では、シャベルのほうが小さいサイズのもの、つまりアーくんの言うところのスコップで、大きなものをスコップと呼んでおったのじゃ。あと、ショベルと言う地域もあってな」
「なんか混乱してきたからやめて!」
さて、気を取り直して、赤ポテト収穫に入る。
すぐに取れた。
実際、そういうものらしいから、当たり前なのだが。
名前のとおり、赤い皮で覆われている。
「エリーチャ、とれた」
「ワシもとれたぞ!」
よしよし、順調に収穫できているな。
ただ、たまに怖いものも出てきた。
なんか、足の多い虫が這い出してくることがあるのだ。
そのたびに、「うあぁっ……」と私は農場から腰を浮かして離れる。絶対に触りたくない生物の上位に入る。
「なんじゃ、アーくん、虫が苦手なのか」
「だって、生理的に受け付けないですよ! 虫って言ってるけど、ようは小さいモンスターじゃないですか! そんなのが人のサイズだったら絶対退治するでしょ!」
「別に怖くないがのう。おっ、手に乗ってきおったな、こいつ」
多分だけど、教授は見た目が子供っぽいから精神的な部分も子供に近いところがあるんだろう。子供ってけっこう虫が平気なものだし。
それでも一時間もすると、用意していたかなり大き目のカゴ3つが満載になるだけのものがとれた。むしろ、毎日赤ポテト料理を作って食べても追いつかないほどだ。
「いやあ、いい汗をかけたのう。部屋にこもりっきりでの研究だけだと、カビが生えてしまうからのう」
教授もかなり楽しんでいたようで、よかった。
「後輩部員ができたみたいでうれしかった」
しかも、教授が子供に見えるおかげでエリーチャちゃんもいい気持ちになれていたらしく、万々歳だ。
「せめて、そこは先輩にするのじゃ! わしは成長期が遅いだけなのじゃ! これからナイスバディになるからの! 覚悟しておくのじゃぞ!」
教授が半泣きになって変な宣言をしていた。スタイルのいいクレーヴェル教授なんて、会っても認識できない危険すらある。というか、確実に認識できない。
でも、教授がいまだに結婚できてない理由って、研究に没頭しているという部分もあるかもしれないが、見た目が子供すぎるからなんだよなあ……。
そういう嗜好の男はアプローチをかけてくることがあるらしいけど、そういうのはさすがに断るし、結果としてなかなか普通の恋愛ができないらしい。
まあ、今の教授は多分幸せだと思うし、これからも名称学者としてしっかり働いてほしいので、このままでいいや。
さて、収穫作業はすんだのだが――
「せっかくじゃし、早速、この赤ポテトとやらを食してみたいのう」
やっぱり、そういう声がかかったか。
「というか、教授。それが目当てで手伝いに来たんでしょ」
「とったものをすぐに食べる、これがよいのではないか。自分の手でとったのなら、おいしさもひとしおというものじゃ」
その理論は割と正論だと思う。自分でやるからこそというのは、たしかにあるな。
「わかりました。すでに調理法も調べています」
「生で丸かじりか?」
「それ、多分普通に土臭くてきついですよ」
でも、割とワイルドな食べ方という点には違いないか。
「ええとですね、焼き赤ポテトという食べ方があるようです。まずは落ち葉や薪を集めてきます。それで火が強く出ないおき火の状態になったら、よく洗った赤ポテトを突っこんで焼く――細かな手段はもっとあるんですけど、基本はそれで終わりです。硬くならないように注意しないといけないんだけど……」
「今、落ち葉そんなにない季節。冬に落ちたのがなくはないけど」
「そうだね。でも、雑木林のほうだとあるかもしれないし、探してみてくれる? 私も薪を探してくるね」
こうして、ありあわせのもので焼き赤ポテトがはじまった。
もういい頃合いだろうというところで、赤ポテトを取り出す。
「あっちっちっち! 熱いのじゃ!」
「そりゃ、焼いてたんだからそうなりますって。ほら、お皿も用意してますから、そっちに避難させましょう」
せっかくなので、三人一緒にかじりつくことにした。
土は洗ったけど、念のためちょっと皮をむく。すると、黄色い中身が出てきた。焼き心地はちょうどよさそうだ。
「これ、すごくおいしそう……」
「おお! なんだかお菓子みたいじゃぞ」
「では、いただきましょう!」
息をふうふう吹いて冷ましながらかぷっとかじりつく。
口の中にくどさのない上品な甘さが口に広がる。
「おお! これはおいしいのじゃ! ほくほくなのじゃ!」
「思わず笑顔になっちゃう味」
そう言うエリーチャちゃんは割とポーカーフェイスだけど、そこはご愛嬌ということで。
「本当にいい味ですね。いくらでも食べられそうな味。まさか焼くだけでこんなにおいしくなるだなんて。料理作るのがバカらしくなりそう」
私もどんどん食べ進めていく。
一人二個ずつ用意していたが、二個じゃ足りないかもしれない。
「しかも、この赤ポテトはおいしいだけじゃない。おなかにもたまる。ここの農場の土は最初合わなかったけど、基本的にあまりよくない土地でも生えてくる。救荒作物としての可能性に満ちている」
「いや、ほんとにそうなったら、エリーチャちゃん、歴史に名を残す偉人になれるよ!」
「ありがとう、ああああ先生」
そこでにこりとエリーチャちゃんは笑顔を見せてくれた。
うん、その笑顔のために私はやれることをやろうって思ったんだよ。
「デフォルトでこの味ということは、これを本格的な料理にしていけばさらに可能性は広がるのう。悪くないのではないか」
「ですね。単純においしいですから、広がるのも早そうです」
こうして、赤ポテト収穫実習は大成功に終わったのだった。
本当に焼き芋やる場合は、新聞でくるんだ上でアルミホイルでくるんだほうがいいですが、異世界ではアルミホイルなさそうなので……直焼きにしました。ご了承ください!