5 農場に革命を起こす
ファートを叩きつぶした三日後、カサデリア様から私に仕事依頼があった。
「クラブ活動の顧問が一人抜けてしまってな。その代役を君にやってもらいたい」
クラブ顧問の仕事も学院のスタッフとして大切な仕事だ。ある意味、学院内での初の本格的な仕事と言える。
生徒達は大半がクラブ活動にも従事している。学院が公認しているものだけでも、六十以上ある。
「わかりました。学院のためにしっかり働かせていただきます! ちなみに何クラブですか?」
「正直なところ、かなり地味なクラブだ」
「ということは運動系じゃなくて、室内で行う文化系ですかね」
ちょうどいいと言えばちょうどいい。レベル99で体を動かすと身体能力が高すぎて、ばれる恐れがある。
「いや、屋外でやる」
「じゃあ、運動系ですか」
「いや、体はまったく動かさん」
いったい、何の部を任されるんだろう……。
実験農場クラブ
それが私が顧問をすることになったクラブだった。
活動目的は農場にいろんな変わった植物を植えて、有用な品種を見つけるというもの。
つまり、植物を栽培するクラブということだ。
これが農業であればいろんな手間がかかるわけだが、基本的にいろんな種を植えっぱなしにしておくだけなので、すごくのんびりしたクラブである。
活動場所の農場に来た私も、ぼうっと農場の土を見ることしかできない。
おかげで人気もなく、部員も一人だけだった。
「ああああ先生、ごめんね。こんなつまらないクラブの顧問やってもらって……」
ショートボブの女の子が頭を下げてきた。彼女がクラブ唯一の生徒であるエリーチャちゃんだ。年齢は十四歳。まだ幼さが残る顔立ちだ。
「エリーチャちゃん、そこは生徒が謝ることじゃないよ。しっかり顧問をしてあげるからね」
「うん……。ありがとう、ああああ先生」
「あと、アーアーに改名したんで、そこんとこよろしく」
「その名前、まだ慣れてなくて」
「ああああって有名すぎるんだよなあ……。わかった、そう呼んでくれてもいいよ。ところで私は何をやればいいかな?」
「今はやることがなくて暇なの……。すいません、ああああ先生」
「たしかにやることないね……」
私たちは農場の前に立ちつくすしかできないでいる。
黒い土がそこにはあるだけで、何も生えてはいない。
「昔はもっと部員も多かったんだけど、地味で面白くないてみんなやめちゃったの……。もっと勧誘をすればいいんだけど、わたし、内気だし、勇気もなくて……」
「それも個性だよ。悲観することないよ」
「せめて、もっといろんな植物が生えてくればいいんだけど、土が合わないのか全然なの。ここにも赤ポテトっていう種類の作物の種を植えたんだけど、出てこない……」
「赤ポテト? あまり聞いたことない名前だけど」
「うん、遠くの国伝来の植物で、食用で、いろんなところで育って、しかも食べても甘くておいしいんだって。お菓子にも使えるぐらいだって」
「あれ、お菓子に使える? どこかで聞かなかったかな……あ、そっか」
そうだ、二年前に読んだ本にそんな記述があった。
記憶力(S)だからな。どこかで聞いたことがあれば、思い出すことができるらしい。
「たしか、スティック状のフライにして蜂蜜をかけたりすると、すごくおいしいはずだよ。異国の料理の本に書いてあったはず」
「へえ。ああああ先生、詳しい」
「アーアーなんだけど……まっ、いっか」
「この赤ポテトが栽培できるようになれば、王国の飢饉対策とかいろんなことに使える。赤ポテトはすごいポテンシャルを秘めてる。この赤ポテトが世界を救うかもっ!」
急にエリーチャちゃんが声を大きくした。おお、情熱がはっきりと感じられる!
けれど、すぐにエリーチャちゃんはしょぼんとした顔になる。
「でも……土が合わないらしくて、全然生えてこない……」
たしかに農場はただの黒い土があるだけだ。ペンペン草ぐらいは生えているが、それぐらいだ。
「きっと、もっと深いところまで混ぜ返すことができたら、なんとかなるかなって思うんだけど……」
エリーチャちゃんはすごく小柄な女の子だし、とても一人では難しそうだ。というか、農場は広いし、十人はいるよなあ……。
「だけど、贅沢は言ってられない。ああああ先生、顧問になってくれてありがとう」
にこっと、少し拙さの残る笑みを見せてくれるエリーチャちゃん。どちらかというと、クールというか無表情がちな内気な女の子だけど、ちゃんとこうやって笑うこともできるんだな。
この笑顔、守りたい。いや、教師として守らなければならない!
「そろそろ暗くなってきたし、今日はここまでにしよっか、エリーチャちゃん」
「うん、ありがとう、ああああ先生」
あまりにもああああが認知されすぎている。仕方ないと言えば仕方ないか。
●
その夜、私は農場にやってきた。
別に野菜泥棒とかではない。そもそも何も生えてない。
「エリーチャちゃんの夢、かなえてやりたいからな」
私は土の上で、また例の魔法陣を描く。
魔法陣が完成すると、光を発した。そこからゴーレムがゆっくりと出現する。
このゴーレム、戦闘以外でも絶対に使い道があるはずなんだよね。なにせ、大きくてパワーがあるんだから。なので平和利用ができないか試してみることにしたのだ。
「ゴーレム、この地面を掘り起こしなさい」
ゴーレムの目が光って、地面をざっくざっくと掘りはじめた。
すごい勢いで土の山が後ろにできていく。そして、深い穴も同時にできていく。ゴーレムの体がちょっとずつ沈んでいるように見えるほどだ。
これは予想以上の効果なんじゃないか?
「よし! そこだけじゃなく、もっと満遍なく掘っていこうか! このへん一帯を混ぜっ返すつもりで!」
けっこうゴーレムに対する命令にしては抽象的で難解な気もしたが、目がまた光ったのでおそらく了承したのだと思う。
ゴーレムは順調に地面を掘っていく。
「うむ、いいぞ、いいぞ。さすが私のゴーレム」
途中から腕組みしてなんか偉そうに見届けていた。これ、もしも誰かに見られていたら恥ずかしい上にいろいろまずいが、まあ、夜に農場に来る人間なんて存在しないだろう。
そして、一時間ほどで大地はゴーレムによってしっかり耕されたのだった。
ここに種を植えてみればワンチャンあるかもしれないぞ。
あと、大地の魔法にどういうものがあるかも調べておくか。なにせ、ステータス的に大地(SSS)だからな。
次回は夕方あたりに更新します!