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3 貴族出身者にからまれる

 こうして私は学院の准教授として働きはじめることになった。

 といっても、名称学の本格的な授業は幼女先生であるクレーヴェル教授がやっているので、最初は事務仕事と研究が中心ではある。


 私はまず空き時間に自分のステータスの秘密を調べることにした。

 授業時間中で生徒がいなくてひっそりしている図書館にこもる。


 私がチート性能になったのは間違いないと思うが、その中でも「大地(SSS)」というのが気になる。


 このSが並んでいるのはその魔法や技能のランクを表している。D・C・B・A・S・SSと高くなっていくが、通常、Sランクでも誰にだって自慢できる次元で、SSになると達人の中の達人と言われている。


 おそらくだが、SSSの人間なんてほかに誰もいない。神話の世界での話だと思われるようなランクだ。

 それを自分は手にしてしまっているというわけだ。


 だとしたら、一つだけSSSであることに何か理由がなければおかしい。


 少なくとも総画数を重視する一派の本では説明がつかない。

 歴史系名称学の本でも書かれていない。


 そして、音を重視する一派の本でやっとそれらしい記述を見つけた。


<あ行の音ではじまる名前は、喉音こうおんという喉から発する穏やかな音でできている。そのため、魔法使いには土属性が優れた者が多し。>


「これだ」


 私の名前は「あ」という音しか構成要素がない。それで土属性が極端に強力なものになったのだろう。


 始まる音を気にする発想はあまり広まらなかったらしく、その本も二百年ほど前の古いものだったが、影響があったのは事実らしい。

 そのあたりからも、名称学が停滞していることがわかる……。


「う~ん……自分のステータスを公表できれば名前が超重要だってわかってもらえそうだけど、確実に例外的なケースだしな……。みんなが名前を『アーアー』にしてもこんなこと起こらないだろうし。なにより、知られたくない……」


「おいおい、ああああ、何を独り言を言ってるんだい」


 嫌な声がかかって顔を上げた。

 やっぱり、ファートか。


「いやあ、君まで僕と同じ准教授になるとは思わなかったよ。名称学というマイナーな学問を選んだおかげだね」


「また、嫌味を言ってくるのか。はいはい……」


 ファートはマローネ侯爵家の五男だかなんだかで、早い話が私と近い貴族のいらない子ポジションの人間だ。

 とはいえ、私が実家と関わるのを避けてたのに対し、こいつはむしろ実家の権勢みたいなのを周囲にひけらかして鬱陶しい。

 学院内では出身で誇ったり差別したりすることはしてはいけないとカサデリア様もおっしゃっているのに。


 ちなみに、私の名前を悪意を持ってからかわない仲間もたくさんいるが、こういうしょうもない奴もいることはいる。学院の生徒は十人や二十人ではないので、そこはやむをえない。


「悪いけれど、同じ准教授だからといって、僕に匹敵する力があると思わないでほしいね。魔法機械学はそれは多くの人のために立つ学問なのだから」

「誰もあなたと張り合おうとなんてしてないでしょうが。魔法機械学が立派な学問ってことも知ってるよ。それで馬車の速度も水車の効率も上がってるんだし」


 魔法機械学というのは魔法を上手く人間の作った道具と組み合わせて大きな成果を生み出そうとする学問だ。たとえば、荷物を軽くする魔法で馬が走る速度を結果的に上げたりとかそういったことをする。


「まあ、ああああなんてひどい名前で活躍するなんて無理な話だろうけどね」

「その名前だけど、アーアーに改名したから」

「知ってるさ。ラトヴィア伯爵家から追い出されてやっと名前を変えられたんだろう」

 じゃあ、アーアーって呼べよ。ああああだと抑揚がなくて異様なんだよ。


「悪口はもういい? 図書館内では静粛にしたほうがいいよ」

「実はね、もう一つ話したいことがあるが、ここでは都合が悪いんだ」

 なんだ、まだ悪口言い足りないのか?

「夕食後、裏庭に来てくれないか、ああああ」


 いったい何だ? でも行かないと、また余計なことになりそうだな。



 夕食中、同じ研究室にいたクレーヴェル教授に「なんかそわそわしとるのう」と言われた。

 ちなみにクレーヴェル教授はピラフの上に旗が立っているお子様ランチを食べていた。それ、注文して許されるの、だいたい十一歳とかそれぐらいの子までだと思う。


「ファート准教授に夜に裏庭に来いと言われまして……」

「なんじゃ、逢引か」

「幼女先生、本気で言ってますか?」


「なわけないじゃろうが。ただ、ファートという男、あまりよい噂は聞かぬからな。町娘に手を出して慰謝料を払ったとかいう話も聞いたことがある。あくまで噂じゃが」

「そんな噂まであるんですか……」

 本当に最悪だな……。

「なので、アーくんも一応気をつけておくのじゃぞ。おぬしはまだ小娘な雰囲気が残っておるから大丈夫じゃと思うが、そういう子供っぽいのを好む痴れ者もおるからな」


「言ってることは正しいし、心配してくれてるのもわかるんですが、教授の容姿で子供っぽいのがどうとか言うと説得力ないですね」

「わしは幼女ではない!」

 自分で言ったな。語るに落ちたとはこのことだ。


 人気のない裏庭に出ると、ファートが出てきた。


「約束どおり来てくれたね、ああああ」

 だから、アーアーに改名したんだよ。


「いったい何? こんなところで舌戦を続けるつもり?」

「そんなつもりはない。実は、父様から連絡があってね、僕は荘園を一つ分与してもらえるらしい。それで独立した子爵家を興すことも認められたんだ」


 予想外の話だったが、少なくともファートにとっては朗報だろう。


「あっ、そうなんだ。それはよかったね。中途半端に本家に引っ付くよりいいと思うよ」


 この点に関しては貴族のいらない子ポジションなのは同じなんで、割と感情移入できた。


「僕もそう思うよ。どうしても、これまで父様や兄様の顔色をうかがっているところがあったからね。これで僕は独立した貴族だ」


 鼻持ちならない奴だったけど、そこは祝福してやるか。それで学院からこいつがいなくなれば、私にもメリットがあるし。


「そこで、ああああ、君を呼んだんだ」

 なんだ、本題は別にあるのか?

「君を新しく貴族になる僕の妾にしてやろう!」


 ぞくぞくぞくっと鳥肌が立った。


「はぁっ? そんなの、金貨何千枚積まれてもお断りだけど!」

「何? 君は伯爵家から疎まれ、ついに勘当までされたのだろう? 身寄りなく一人寂しく生きていくのはつらいだろう? だから僕の愛人ぐらいにならしてやろうと言うんだ」

「いや、義絶されたのは事実だけど、今は学院の准教授っていう職があるんだから、しっかり研究者として生きていくよ」


「まさか、拒まれるとは思ってなかったな……」

 相手の表情が冷徹なものに変わる。これ、人を平気で殴ってきた人間の顔だ。

 そうか、無駄にプライドが高いから拒絶されると逆上するタイプだな。中途半端な立場の貴族によくあるやつだ。


「ならば、力ずくで言うことを聞かせてやる!」


 なんか、厄介なことになってきたぞ……。

次回、ムカつく男をぶっ飛ばします! 今日、もう一度更新します!

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