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2 同僚の幼女先生

 名称学というのは、はっきり言って世間的にうさんくさく思われている学問である。


 というのもまず、姓名判断的な要素がどうしても迷信的な雰囲気を帯びているためだ。実際、昔は無許可であなたの名前は不吉だから変えたほうがいいなどと言い出すモグリの名称学者も多かったという。


 そこで王国では八十年ほど前からレベル15未満の名称学者が改名を行うことを法的に禁じたのだ。


 逆に言えば、レベル15以上であればプロの名称学者だと言えるようになったということでもある。


 しかし、いくつもの派閥があって、それぞれ言ってることが一致してない部分も多く、舐められることは今でも多い。


 一つ目は、画数を重視する一派。

 次に、音の響きを重視する一派。

 名の移り変わりを研究する一派。

 そういうのをミックスさせて独自解釈を行っている一派。


 占い師が修行はちゃんとするものの、占い師の派閥によってやり方が全然違うようなものだ。実際、名称学者を名のっている事実上の占い師もいる。


 そのため、「こんな魔法が発達してる時代にそんなものを信じるなんてばかげてる」とか言われたりするわけだ。たくさん魔法を覚えるわけでもないので、つぶしもそんなに利かない。


 それでも「ああああ」という名前を調べるには、この学問しかなかったので私に選択肢はなかった。


 ただし、結論としては――

・ああああでは総画数が最悪。

・単調でバランスがひどい、典型的な悪い音の名前。

・歴史的にもありえない名前なので論外。

・ふざけた名前は不運を招く。

 ――といった調子でどの一派の本を参照しても最低の結果だったが……。


 まあ、それでもカサデリア学院准教授の座を与えられたのだから、よしとしよう。


 というわけで、私は准教授になってから初めて研究室に入った。学生の時も放課後などはここにいたので、新鮮さはないが。

 学院では入学から五年間、七時間制の授業を受けて、それから先は自分の専攻ごとに分かれて勉強をすることになっている。おおむね卒業まで八年から十年ほどかかる。


「クレーヴェル教授、おはようございます」

「おはよう、准教授。しかし、アーくんが准教授か。時間が経つのは早いもんじゃのう」


 机のほうから声がかかった。

 こちらからは机の上に飛び出ているおでこと前髪とツインテールぐらいしか見えない。背が低すぎるのだ。


「これも教授の賜物です。今、お茶をお入れしますね」

「そうか。わかった。今、手が離せぬところなのじゃ。重大な仕事なのでな」


 私がお茶を持っていくと、ツインテールの幼女にしか見えない教授が「ありがとう」と頭を下げた。


 この人がクレーヴェル教授。学院の名称学の教授、つまり私の上司だ。昨日までは私の指導教官でもあった。


 なお、見た目が幼女なのは、発育を知性に回せるという名前に二十歳の時に変更したから、ということになっている。


 教授は「もし、クラヴィアという名前のままであったら、このような学問的成果は上げられなかったのじゃ。これぞ、学徒の正しき道であろう。クレーヴェルにして正解じゃったぞ」と自慢する時があるが、二十歳で幼女の見た目である時点で成長止まってると思う。


 ただ、学問が立派なのは事実だ。教授は歴史書に出てくる多くの名前を調べ上げて、なぜ人がそんな名前をつけたのか、どういう名前をつけるべきなのかを研究している。名称学における歴史学分野の第一人者だ。


 世間的には名称学の中で一番まともと思われているジャンルである。実際、ほとんどやってることは歴史学と言ってもいい。


 ちなみに今の年齢は三十歳のはずだが、十歳ぐらいにしか見えず、生徒からはもっぱら幼女先生と言われている。言われると、本人は怒ったりするが。


「ちなみに重大なお仕事って何なんですか? 怖そうなお化け屋敷の名前でもつけてって言われました?」

「そんなしょうもない名前ではないわ。王都の大商人が長女を出産しての。最高の名前を決めてくれと言われたのじゃ」

「ああ、命名の仕事ですか」


 これが名称学者が社会で最も頼られる仕事である。

 名前をつける。庶民なら適当につけることも多いが、貴族や金持ちの商人となると、これもおろそかにできない。そこで歴史的にもどんな名前がよいかわかっている教授に依頼をしてくるのだ。

 名称学者のほうも名づけた相手の一生を左右する仕事なわけだから、かなり緊張する。


「候補はいくつか出した。あとは最終決定だけじゃ」


 たしかに紙には七つほどの名前が書いてある。


「よし、決めたぞ! わしは、このアミコという名にする!」


 その名前を聞いた時、私の頭にレベル16の女性商人のステータスが浮かんだ。


 なんだ、今の? そういえばカサデリア様の前に立っていた時もこんなことがあったっけ……。


 私はふと名前の候補一覧に目をやる。その名前を見るたびに、レベル14とかLv13とかいうのが頭に浮かんでくる。


 どの名前が将来いい成長をするかわかる――ということかな。


 そして候補の中にレベル20というのがあった。

 エピカという名だ。それだけが候補の中でアミコのレベルを超えていた。


「あの、クレーヴェル教授、このエピカというほうがよくないでしょうか」


 自分の能力を自分でよく説明することもできないので、いっそ、教授の知識で答え合わせができればと思った。


「たしかにエピカも候補に入れたぐらいじゃから悪い名ではないが、アミコのほうが若いうちから聡明になると――――いや、調べなおそう」

 教授が真剣な顔になった。

「アーくん、今のおぬしは学生ではなく、わしの同僚じゃ。その君がなんらかの確信に基づいてそう言ったのだとしたら確認する価値はあるじゃろう」


 おお、若い者の意見をちゃんと吟味してくれるんだ。

「幼女先生、ありがとうございます!」

「その呼び方はやめるのじゃ!」


 そして、教授は何冊か分厚い本に目を通したあとで結論を出した。

「たしかに、細かく調べていくと、大器晩成の可能性がエピカのほうが高いのう……。大物になってほしいという願いを託すなら、こちらのほうがよいかもしれぬ。よし、エピカにしよう!」

「ありがとうございます、教授」

「むしろ、こちらこそありがとうなのじゃ。名前は人の一生を左右するからのう。おいそれとはつけられん。おぬしのファインプレーじゃ」


 私の能力が人の役に立った。

 よかった。なにせ私はもう学生ではなくて、准教授なのだから。何か意味のあることをしないと、給料をもらうのも恥ずかしい。


「これからもよろしく頼むぞ、准教授」

 ぽんぽんと教授は私の頭をやさしく叩いた。

 強引に背伸びをして、手を伸ばして。


「幼女先生、無理しないでください」

「その言い方はやめるのじゃ!」

出来れば、今日あと2回ぐらい更新します!

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