最終話 ある意味、戻ってきた
こうして、私は伯爵家の人間をぶちのめして、その家の威厳もとことん落としてやった。向こうが勝手に突っかかってきたので、あっちの自業自得だ。これで私に罪の意識を感じろというほうが無理な話である。
一方で、敵をこてんぱんにした私の評判はかなり上がった――らしい。そんなの数値で見れるものでもないし、細かくチェックもしないからだ。バカにされるよりはいいけど、変に持ち上げられてもメリットがないからなあ……。
その日の夜はカサデリア様やクレーヴェル教授、ナルティアと一緒に宴席を共にした。王族や貴族の人たちが私の活躍を讃えに来てくれた。
ただし、三割ぐらい目的が違うだろうって人もいたが。
「ところで、あのナルティアというお嬢さんに文を届けてくれませんか……」
「ナルティアさんとご一緒に屋敷にいらっしゃいませんか?」
「ぶっちゃけるとナルティアさんとの縁をつないでいただきたいのですが……」
超絶美少女のナルティア狙いか。男の人はわかりやすいな……。当のナルティアはまだ引っ込み思案でほぼ私の後ろに隠れていたので、私がナルティアの保護者ポジションになっていた。
私としてはひと仕事終えたわけだし、学院に戻ってだらだらと野菜でも栽培しようかなと思っていた。
だが、翌日になると考えもしないことが待っていた。
なぜか王様のところに呼び出されたのだ。
あれ? 帰るつもりだったんだけどな……。
「アーアーよ、昨日の魔法の腕前、見事であった! それに加え、山賊を退治したことも高く評価する!」
ひげもじゃの王様がそう言った。怒られる内容じゃなかったので、ひとまずほっとした。
「ありがとうございます」としか、こちらからは言うことがない。
「そこで褒美をつかわそうと思う。今のおぬしは本家の伯爵家とは何のかかわりもないのだな?」
「はい、行状が悪かったのか勘当されました。今の私はただの平民の学院准教授です」
ある意味、一番楽な生き方だ。これからも、このまま生きるつもりである。
「よし、おぬしに伯爵の地位と荘園をやろう!」
「え! もらいすぎです!」
ていうか、本音を言えばほしくない! 管理とか絶対に面倒くさいし!
しかも伯爵家だったら、実家と対等になるからイヤガラセされる確率高くなる! せめて子爵とかでとどめてくれ!
「おぬしの家はもともと伯爵家だ。おぬしが伯爵になっても何もおかしなことはない。しかも、今回の戦いで山賊退治も間違いなく本当のことと確信できた。その手柄には伯爵の地位がよかろう。ただし、土地に関してはそう広いところはやれぬが」
狭くていいどころか、いらないのだけど……。
何度か辞退してみたが、ほかの人にまで勧められて、それ以上断れない流れにされてしまい、私は伯爵になった。ちなみにもらった荘園の名前はアーアントという名前だった。
つまり、アーアーアーアント伯爵である。
発音しづらっ! 絶対またネタにされるだろ、この名前!
●
出発が遅れたので、もう一泊することになった。夜、私の部屋にナルティアが入ってきた。ちゃんと別々の部屋を用意されてるんだけど。
「今回は本当におめでとうございます!」
「それ、本気で言ってる? 絶対あの実家が何かしてくるよ……ウザい……」
「その時はまたわたしが力になりますからっ!」
ぎゅっと私の手をとるナルティア。
「うん、わかってる。よろしく頼むよ、ナルティア」
「だから、これからもずっと二人で永遠に生きていきましょう!」
「待て。永遠って何?」
「言葉通りの意味です」
「しばらく人間として生活してみたら帰るんじゃないの……?」
そのつもりでルームメイトをしているのだが。
「でも、数百年ぐらいは人間として楽しもうかなと。発見も多いですし」
精霊の価値観、スパン長い!
どうやら、当分の間は私はナルティアと生きていくようです。伯爵の家から捨てられ、また伯爵に戻って。
名前もああああからアーアーアーっぽい伯爵の名前になって、そっちも戻ってきた感じあるな。
昔と違って、けっこう幸せだけどね。
「でも、ナルティア、あなたと結婚したい貴族がものすごい数いるみたいだけど、結婚とかは考えないの?」
「それなら、アーアーさんと結婚しますから」
またおかしなこと言われたぞと思った次の瞬間には抱きつかれた。
「アーアーさん、今日は熱い夜を過ごしましょう!」
「あの、ナルティア、私はあくまでもノーマルだから……」
「もし、アーアーさんに変な虫がついたらわたしが全力で払いのけますから!」
これは出会いもなく、いよいよナルティアと二人で生きていくことになりそうだな……。
孤独に生きるよりはきっと楽しいよね?
<終わり>
今回で完結となります! お読みいただきありがとうございました!