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24 貴族の大失態

「それでは、試合開始!」


 審判が叫んだ。


 まずは向こうの出方を伺うか。


「焼き殺してやる!」

 いきなり物騒なことを言ってきたぞ。殺す気かよ!


 すぐさま、モルドーは魔法陣を杖で描きだす。ということは炎を出してくるのか。

 さて、こっちはどうしようかな。もっと大きな炎で逆襲してもいいんだけど。


<ここは、やはり土属性の魔法が一番いいですよ。なんといっても、アーアーさんは土属性に強いんですから>


 ナルティア、応援ありがとう。


<あまりゆっくりしていると炎が来ますから、早く魔法陣を!>


 それもそうだな。私は地面にさらさらと手で魔法陣を描いていく。


「お前はバカか! 杖を使わずに魔法陣を描く者など聞いたこともないわ! やはりお前の活躍はウソだったらしいな!」


 いや、これでも発動するんだよ。発動すれば一緒なんだし、いいじゃん。けど、そろそろ杖は買っておいたほうがいいかな。大賢者ってステータス欄にあるぐらいだし。


 モルドーが大きな火球をこちらに放ってきた。


 では、こちらも防御するとするか。


 私の真ん前から土の壁が盛り上がって――炎を止めた。

<あの火球ぐらいなら、この程度の厚さでどうにかなりますね>


 ここはナルティアにお任せということでいこう。


「なっ! 手で描いたような魔法陣でこちらの火の球が防がれるだと!?」

 いや、何で描いても一緒だろ、そこは。杖のほうがきれいに引けるから確実に発動するとは思うけど、こっちは大地の精霊がついているので、これぐらいなら余裕だ。


 これだけで見物している貴族たちからは、「見事な魔法だ!」「英雄というのは本当だったようですな」といった声が聞こえてくる。ある意味、楽と言えば楽だ。


「あの、わかってもらえましたか? 私は魔法が使えるんです。それもなかなか強力なんです。このまま続けると、恥をかくかもしれませんけど……」


「ふん! ちょっと魔法が使えることと、英雄と呼ばれるほどの力を持っていることはまったく別だ! この程度ではまだ最強とは認められんな!」

 それ自体は正論なので、とくに否定する気も起こらないが。


「今度は風で吹き飛ばしてやる!」


 風か。さて、どうやって守るかな。


<ここはゴーレムを使いましょうか>

 また、ナルティアが魔法陣を提案してくる。

 基本的にそれに素直に従っていれば負けることも万に一つもないだろう。


 ちなみにナルティア自身は客席で祈るように目を閉じている。あれで、こちらと交信しているのだろう。観客の中には試合をほとんど放り出して、ナルティアに目を向けている者までいた。そこは試合を見てほしい……。


 ところでゴーレムでどうやって防ぐんだろう。まあ、いいや。

 私の眼前にゴーレムが現れる。


「おお! ゴーレムか!」「熟練した魔法使いでもあれだけのものが作れるかどうか……」


 ゴーレムは召喚というか製作がかなり難しいらしいので、驚かれるのも無理はないかもしれない。

 これがチートの本領だ。


「どうせ、どうにか形を保っているだけだろう! 竜巻で吹き飛ばしてやる!」

 モルドーの竜巻はたしかになかなかの威力だった。まともに喰らったら、どこまで飛ばされるか……。


 ――と、ゴーレムが私を覆うようにうずくまった。

 即席のゴーレムハウスだ。


 そこに風がぶつかっても、ゴーレムはびくともしない。


「こしゃくな……。こんなものまで使えるというのか……」

 

 そろそろこちらがガチだということをわかってもらえたんじゃないだろうか。


「しかし、守ってばかりではそちらも勝てんぞ! どうするつもりだ!?」


 これ、本気で言ってるあたり救いがないよなあ……。


<ゴーレムを使いましょう。攻撃魔法でやっつけるよりは印象的かと>

 じゃあ、それで。ルナリアの提案ではずれはないだろうから。


「ゴーレム、行きなさい。敵をこらしめて!」


 ゴーレムの目が光ると、想像以上に素早く手を動かしてモルドーの体をつかんだ。

「うわっ! た、助けてくれ! つ、つぶされる!」


 そのままゴーレムに持ち上げられて、パニック状態となるモルドー。


「モルドーさん、すいません、そのゴーレム、悪い心を持つものは自動的に握りつぶすようにできてるんです」


 さらっと適当なことを言ってみる。もちろん、でまかせだ。


「ひっ! ひえぇ…………助けて……」

 この「助けて」はギブアップに入るのだろうか。見ると、審判がどういう判断を下すか悩んでいる。負けを認めると、自分の主君の恥になるからな。


 しかし、黙っているのがよくなかった。


 ぽたぽたぽた……。


 ゴーレムの手の間から、何か液体が垂れてきた。


 あっ、おしっこちびってるな……。


「おい、あれは……」「どうやら、失神しているのではないか……」「よほど怖かったのだろう……」「しかし汚らしいな……」


 審判がやむなく、こちらの勝ちを宣言した。ここまで恥をさらした以上、戦闘にイチャモンをつけても、もはや遅いだろう。


 私は地面の近くでゴーレムの手を開いた。

 漏らしたモルドーがばたっと倒れた。


「うわ、あいつ、漏らしてるぞ……」「最悪だ……」「貴族の恥さらしめ」


 モルドーの名誉は一生消えないぐらいガタ落ちになった。これで政治的に実権を握れることは永久にないだろう。

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