22 決闘状が来た
手紙の内容はやっぱりろくでもないものだった。
私の兄――といってもたくさんいるのだが、そのうち上から二番目の兄がお前の実力を試してやるとか書いてある。
どうやら、私が英雄みたいな扱いになっていることが気に食わないらしい。
私が出世しすぎると、私を切ったラトヴィア伯爵家にとっての失策ということになるからな。才能のある娘を一方的に放逐したということになってしまう。
カサデリア様も私を成績優秀だったとかばってくれるだろうから、授業態度が悪いから勘当したことにもできないだろう。
だから、魔法でそれなりに優秀な二番目の兄を派遣して、私がたいしたことないということを証明してやりたいのだろう。魔法勝負をしろとはっきりと書いてある。
「あの、アーアーさん、顔が怖いですよ?」
「ごめん。ナルティアのせいじゃないから安心して」
これはカサデリア様に報告しないわけにもいかないか。
カサデリア様はその手紙をまばたきもせずに最後まで読んでから、ため息をついた。
「お前の親族は、どうしようもない連中だな」
「カサデリア様、私は義絶されているので、親族ではありませんよ。ご訂正をお願いします。しかも義絶してきたのはあっちです」
「だったな。なのに、向こうから勝負を挑んでくるとはな。彼らは何がしたいんだ」
「私が山賊を倒した英雄ということで、名前が広まってしまいましたからね。となると、ラトヴィア伯の娘だという話も広がります。英雄を義絶していた人間と思われると、評判が悪くなると考えたのでしょう」
あるいは単純に私がいい気になってると思って、つぶしたいとでも考えたのかもしれない。本当にそんな発想で動くような人たちなのだ。
「しかし、そこでどうしてお前と魔法で対戦を挑もうという考えになるのかが解せんな……文面上はぜひ魔法勝負をいたしましょうと慇懃に書いてあるが、事実女王の決闘申し込みだ」
「きっと、私なんてたいしたことないと思ってるんですよ。私をボコボコにすればこっちの評判も落ちるって魂胆なんでしょうね。次男のライオルという人はもう四十歳近いんで、親ぐらい歳は離れてますけど、魔法使いとしてはそこそこ名が通っていますから」
「ああ、魔導士として王宮に仕え、爵位も持っている人間だな。私も何度から会ったことがあるな」
カサデリア様は大賢者だから王宮にもたびたび招待される。そこで会うことだってあるだろう。
「それでお前はどうするつもりだ?」
「どうするのがいいかなと思って、手紙をお見せしました」
笑みがカサデリア様の顔に浮かんだ。
「叩き潰してやれ。容赦なく」
「いいんですか? あの家が学院にイヤガラセをしてくる可能性もありますが」
「アーアー、私はお前の母親なんじゃなかったのか?」
そう言われて、いろいろと思い出した。
私、カサデリア様のことをママと呼んでいいと許可をもらっていたのだ……。当然、二人きりの時に限るが……。
「娘の名誉を踏みにじろうとする奴に制裁を与える、それだけのことだ。ボコボコにしてやれ。私はお前を守ってやる」
「わかりました! 思い切りやります!」
私は対戦を受ける旨の手紙を書いた。すると、王城の庭で対戦しようという返事がやってきた。
なるほどね、衆人環視の中で赤っ恥をかかせてやろうってつもりか。
悪いけれど、私、無茶苦茶強いんだよね。
力が評判になりすぎるのもよくないけど、しょうがないか。
ナルティアも「わたしもできうる限りの協力をします!」と言ってくれていた。もし、何かピンチになったらよろしく頼もう。基本的には問題なく私だけで叩き潰せるはずだ。
そして――対戦当日。
私は前日から学院を出て、王都にやってきた。王都までは馬を使えば楽勝、徒歩でも十数時間歩けばたどりつける距離だ。
着いたらいろんな貴族の方に面会を求められた。立派な賢者ということで話は広まっているらしい。
「アーアーさんは珍しい野菜を広める活動もなさっているとか。実に精力的に働かれていますな」
「いえいえ、私は義絶されたような立場ですので」
わざと伯爵家とはかかわりがないということを強調してやった。
「あなたのような優秀な方がどうして縁を切られたのか、まったく訳がわかりませんね……」
答えは簡単でそこまで優秀になるとまでは思っていなかったのだ。私も思っていなかったのだから、一族がわかるわけがない。
「どうなんでしょうね。私としては、一族のしがらみから離れて研究などに没頭できるのでむしろありがたいぐらいですが」
はっきり言って、本音も本音だ。性根が腐ってる人たちのところに戻っても、どうせ楽しくない思いをするのはわかりきっている。子供を捨てるようなことをする連中は、ほかの人にだってひどいことをする。そんなのを横で見てたら精神衛生上、絶対によくない。
ちなみに学院の友達ということでナルティアと、それとカサデリア様、クレーヴェル教授にも来てもらっている。あんまりアウェーだったら嫌なので仲間を呼んだのだ。
ちなみに貴族の大半はナルティアに鼻の下を伸ばしていた。どこの貴族の娘かと周囲に聞いてまわる人や、政略結婚を早まったとガチで後悔している人までいた。
ナルティアは居心地悪そうだけど、私を応援するために我慢してくれているらしい。
この調子だと、本当に王国一の美少女という評価が確立される日も遠くないだろうな。おそらく、各地の貴族が絶賛するだろうから……。
「あの……アーアー様はあのような美しい女性と暮らしていらっしゃるのですか?」
どこかの貴族のお嬢様に尋ねられた。
「はい。寮のルームメイトということになりますかね」
「失礼ですが、もしかしてお二人は恋人だとか……?」
「違います!」
そういう妄想をふくらませるの、女子の間で流行ってるのか!?
「では、もしよろしければ、そういう設定の小説を書いてもよろしいでしょうか……?」
「やめてください!」