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21 精霊が百合百合しい

 数日で私の部屋にナルティアという超絶美少女が住んでいるという噂は学院中に広まった。


 大地の精霊が住み着いてるという噂よりはいいので、それ自体は全然構わないのだが――


「ああああちゃん、また例のものが二十五通ほど来てるよ」

 朝、寮母さんに大量の手紙を渡された。

「ご迷惑おかけします……。また、あの子に渡しますから……」

「そうそう、それと別件のああああちゃん宛てのものも何通か来てるから」

 私宛てのものが何かよくわからなかったが、とにかく受け取った。


 部屋に戻ると、ナルティアはまだ寝ていた。

「ほら、起きなさい、ナルティア! ほらほら!」

 ゆさゆさとナルティアを揺らす。

「う~ん、あと三時間だけ~」

 寝すぎだろ。


 大地の精霊はやたらとよく眠るものらしい。寝る子は育つというけれど、生育に強く関与している大地の精霊もしっかり眠るのだ。

 ただ、そこまで寝ちゃうと午前がぽっかりつぶれてしまう。


「はいはい、ここで暮らすからには朝方に修正してね」

「う~、もっと寝たいです~」

 当初は姉的な存在だと思おうとしていたけど、これだとむしろ妹だな。大地の精霊はかなりの甘えがりらしい。

「また、手紙二十五通来てるよ」


 その言葉で眠けが覚めたらしい。

「また、ですか……」

 やっと、ナルティアも起きてきて、テーブルにある手紙の山に頭を抱えていた。


「別件の用事かもしれないから見ないといけないですよね……」

 仕方なさげにナルティアはその手紙を一通一通開封していく。ちらっと見てみたけど「ナルティア様愛しています」とか「付き合ってください」とかそんな内容の文字がどんどん見えた。


 すべてラブレターなのだ。


 ナルティアの名前と住んでいる場所が広がってからというもの、大量のラブレターが送られてくるようになったのだ。

 そこはやむをえない。精霊のポテンシャルなのか、ナルティアを見て一目惚れする生徒は多いだろう。男子生徒だけじゃなくて、女子生徒からも三割ぐらい来てるし。


 もっとも、もらう側はかなり迷惑そうだ。

「わたし、こんなこと書かれても困っちゃいますよ……。知らない人となんてデートできるわけないですし……」


 そう、ナルティア自身はものすごく内気な子なのだ。このラブレターがかなりのストレスになっている。


「もっと平穏に人間の生活を楽しむつもりだったのに……外を出歩くたびにじろじろ見られて落ち着きません……」

「ナルティア、あまりにも一般人のスペックからはずれてるからね。これは我慢してもらうしかないかな」


 これでも知らない人を見るたびにおどおどする性格はかなり矯正できてきたのだが、外を出歩く時はだいたい私の横にぴたっとついてくる。そこがナルティアの限界であるらしい。


「そのうち、このナルティア旋風も収まるよ。だから、もうちょっとだけ頑張ろう。ねっ?」


 ぽんぽんと後ろから座っているナルティアの肩を叩く。

 最初は姉みたいな立場の人ってことですと周囲に紹介するつもりだったけど、むしろ妹と言ったほうがいいな。

「アーアーさん……」

 くるっと、ナルティアがこちらを振り向く。


「やっぱり、アーアーさんはやさしいです……。アーアーさんと交信でつながれてよかった……」


 そのまま、ぎゅっと抱きつかれた――と思ったら、床に押し倒された。


 あれ、これって……。

「ナルティア、ちょっと、スキンシップが激しすぎるんじゃないかな……? かな?」

「アーアーさん、もしよろしければなんですけど、交信以外でももっとつながりませんか?」

 この子は、な、何を言っているんだろう……。


「ナルティア、それって、へ、変な意味じゃないよね……?」

 ナルティアの顔が近い。

「私って、大地の精霊なので豊饒の女神的な要素も含んでますので、そういういとなみ的なことにも寛容ですので……。その、もし、アーアーさんがよろしければ、このままここで……もっとつながりたいなと……」

「よろしいわけないから、どいて!」


 ステータス的に強引にどけることもできるとは思うが、それはちょっとどうかと思ったので、ナルティアの意思に任せることにした。


「わかりました……」

 素直にナルティアがどいてくれたので助かった。

 こういうことは多分押し倒されてどうこうってことじゃないはずだから、これでいい。


「うん、わかってくれればいいんだよ。これからも友達同士仲良くしよう、ナルティア」

 ちゃんとナルティアは話せばわかってくれるな。

「で、できれば最終的には友達以上に……」

 少し不安を感じるな……。


 そうだ、私宛てのものも何通か来てたんだよな。

 あれはいったい何だったんだ? 封をされている手紙を開いてみた。


<ああああ先生とナルティアさんはやっぱり付き合っていらっしゃるんですか? クラスの女子の間で話題になってます。こっそり教えて下さい>


 なんだ、これ……。

 次開けてみよう……。


<先生とナルティアさんはそういう関係なんですよね? ちなみに赤ちゃんはできているんですか?>


 赤ちゃんできるわけないだろ!

 次!


<先生とナルティアさんの薄い本を文芸クラブで出したいのですが、よろしいでしょうか?>


 これで、よろしくてよと答える人いるのか!


 私は頭を抱えた。

 学院の中でもそういうふうに思われているぞ……。


 やはり、ナルティアと同棲するのはいろいろとまずいのではないだろうか……。


 その手紙をナルティアものぞいていた。


「アーアーさん、赤ちゃんってほしいですか?」

「別にけっこうですから!」

「女性同士でも子供が産まれる精霊クラスの魔法があるんですが」

「けっこうです!」


 話を必死に打ち消す。


 でも、まだ手紙はあるんだよな。一応、見ておかないと。


 ふと、気になる名前を見つけた。


 それは私の実家からの手紙だった。


 今になって、いったいどういうことだ?


 嫌な予感しかしないけれど、開けないわけにもいかなかった。

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