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20 ナルティアを案内

 大地の精霊ナルティアがいろんなものを見て回りたいというので、学院の各地を案内することにした。

「ここが大講義室ね。一番上の席からだと下の先生のところがよく見えるでしょ?」

「あっ、本当ですね~。こうなってたんですね~」


 なんだか入学する学生をつれ回している気分だ。実際、それと似たようなことをしている。

 学院には正式な入学年齢というのがない。私は十歳から入って、正式に授業をやるのは十歳からだけど、八歳ほどから基礎的な読み書きを習う子もいるし、思春期を迎えた頃から入学する子もいる。そして七年から十年ぐらい勉強して卒業する。


 なのでナルティアみたいな子もごく普通に入学してくることはあるのだ。

 よくあるのが親が決めた縁談が嫌で逃げる手段として、学院への入学を決めてしまうこと。学院内は一種の治外法権なので、一度学生になってしまえば、部外者が学生を連れ戻したりするようなことは出来ない。


 なにせ学院長が伝説の大賢者カサデリア様だから、有力貴族もそうそうふざけた真似はできないのだ。


「じゃあ、次は食堂を見に行こうか」

「食堂ですか! おごっていただけるんですね! ありがとうございます!」

「まだ、おごるとは一言も言ってないぞ……」

 けっこう調子のいいキャラだな……。


「ちなみにお金は持ってるの?」

「いいえ」

「それなら、どのみち私が払うしかないな。食べたいものがあったら言って」

「はい、よろしくお願いします!」


 食堂に入ると、ナルティアは目を輝かせた。

「へ~、こんなに種類があるんですね~。わたし、とくに麺料理が気になります!」

「このあたりの地域は小麦がよくとれるからね。それでパスタも種類が多いんだよ」

「へ~、じゃあ、この平打ち麺の料理をこれとこれとこれと、それから、あれとあれとあれください」

「食べすぎだろ」


「普段、精霊は何も食べてないから試してみたいんですよ」

「じゃあ、注文していいよ」

 ――と、そこでいきなりナルティアの顔が心細そうなものになる。

「知らない人と話すのはちょっとまだハードルが高くて……」


「話すって、食堂のおばちゃんに注文するだけでしょ……」

 やはり、人見知り体質なのは間違いないようだ。


 しょうがないので私が食堂のおばちゃんに注文した。

「ええと、これとこれとこれと、あれとあれとあれください」

「おや、大賢者ああああ様じゃないかい」

 いつのまにか食堂のおばちゃんにまで大賢者と呼ばれるようになっていた。


「おばちゃん、私は大賢者じゃなくて、ただの名称学者ですからね……」

「でも、すごい魔法も使えるって噂なんだけど。ところで、こんなに食べるのかい?」

「この子が食べるんです。今日から一緒に寮で住むことになったんです」


 おばちゃんに見られると、すぐにナルティアは私の後ろに隠れた。

「ねえ、そんなに恥ずかしがる必要ないでしょ……」

「ごめんなさい……。まだ勇気がなくて……」


 そっか、これは人見知りを直すために教育していく必要があるな……。


 ちなみにナルティアは出てきた食事をもりもり食べていった。

 とうてい、人間一人の食事量ではなかった。厳密には人間ではなくて精霊なのだけど。

「こんな味なんですね! おいしいです! おいしいです!」


「喜んでくれたのなら、私はうれしいよ」

 食堂の料理なら安いしね。

「では、追加でそれとそれとそれもください」

「まだ食べるのか!」


 人の少ない時間に食堂を案内したつもりだったのが、食事時間が長引いたので、だんだんと生徒たちが増えてきた。


「あれ、誰かな? とんでもない量食べてるけど……」「ああああ先生の友達じゃない?」「ああああ先生の友達ならありうるよね」


 なんで私の知り合いならありうると納得するのか問い詰めたいが、かなり目立ってしまったな……。


 一方、ナルティアは食べるのに夢中で視線に気付いてなかった。


「う~ん、どれもこれもおいしいですね!」

「あの、ナルティア、それを食べ終わったらそろそろ行こうか……」

「え~? まだデザートなるものを食べてませんよ?」


 とびきりの笑顔でナルティアは言った。そのナルティアの笑顔は彼女の美しさをさらに引き立てていて、思わずどきっとするほどだった。


 大地の精霊というか美の女神って感じだな……。こんな表情毎日見せられたら、変な気を起こしそうになるぞ……。


 私でもそうなのだから、その笑顔に耐性がない生徒はもっと強力に作用した。


「あれ……あの子に恋しちゃったかも……」「一目ぼれってやつかな……」「誰か、あの人の名前とクラスを教えて!」


 これはまずい……。笑顔だけで数人を恋に落としそうになっている……。

 この子は野放しにすると、絶対に危険なことになるぞ……。


 だが、その視線にやっとナルティアも気がついたらしい。


「あっ……わたし、みんなに見られて……ますか……」

 不安そうになった表情で、生徒のほうをちらっと見た。


 その顔もまた生徒の心に突き刺さったようだった。

 さらに追加で五人は恋に落ちたな……。


「わ、わたし、恥ずかしいですっ! つらいですっ!」

 そして、ナルティアは走っていってしまった。


「えっ! 一人で出ていっちゃダメだって! まずいって!」


 私もすぐに追いたかったが……まだ、けっこうお皿が置いてあるままだった。

 教える側として片付けないとダメだよね……。


 丁寧に片付けていったら、すっかり後れを取ってしまった。


 至るところで「すごい美少女見たよ!」「名前、なんていうんだろ!?」みたいな声がする。いかん。恥ずかしがって、一つの場所にいられず。いろんなところを走り回っているらしい……。


 これ、どんどんあの子の噂が広まるぞ……。


 ナルティアはとある使われてない教室の隅で半泣きになっているのが発見された。


「だ、大丈夫……?」

「アーアーさん、怖かったですぅ……」

 そのまま、ぎゅっと抱き着かれた。


 それがまた、ほどよくやわらかくて保護欲をそそるのだ……。

 相当、きちんと教育しないとそのうち、何か大きな過ちを犯すぞ……。

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