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1 名前変えたらレベル99になった

「な、なんということだ……」


 大賢者カサデリア様もあっけにとられていた。本当にありえないようなステータスが表示されてしまったのだ。


「魔王討伐にも参加した私でもレベル62で、ステータスもこれの三分の二ほどだ……。人間の寿命ではそのあたりまでの成長がひとまずの限界と考えられているのだが……。しかも大地の魔法なんてSSS……トリプルSなんて階級は概念上存在するとはされていたが、実在の人間が持つステータスで見たことはない!」


「あの……カサデリア様、これは何かの間違いでは……?」

 名前を変えただけで、レベル99になるだなんてことがありうるとは思えない。

「ああああ、いや、アーアーよ、お前は名称学者のはず。名称学的見地から説明はできんのか?」


 おっしゃるとおりだ。学者がいきなりただの間違いだと言い出すのはどうかと思う。


「ええと、まず、名称変更によるステータスの変動という現象は起きます。ほら、俗に名前を調べると運気がわかるとか言うじゃないですか。アレはウソではないんです。魔法使い向けの名前や戦士向けの名前というのはあります」


「うむ。しかし、それは言ってみれば誤差みたいなものなのが通例だろう?」


「そうなんですよね……。もう少し本格的に調べてみます」


 名称学というのはいろんな流派とかルールとかがあるので、総合的に見る必要がある。だからこそ、学問として成立するわけでもあるのだが。


 ずっと自分は名称学の中でも割とまともな歴史名称学というのに属していた。

 しかし、ここは画数を重視する学派の知見も見てみるか。ステータス変化とか将来に影響があるとか言い出すのはこの学派だ。これを信奉する連中はなかば占い師なんだよな……。


 私は自分の研究室に行って、関連する本を何冊か取ってきた。学院長の部屋とは同じフロアなのですぐなのだ。

 そして本を開いて、私はあることに気付いた。


「『ああああ』は総画数が十二画! これは大凶運数だ!!!!!!」


「なんだか、聞くからにひどい響きの言葉であるな」


「そうなんです! 大凶運数というのは名称学の一派では非常に忌み嫌われる数なんです。もちろん、姓との組み合わせでそれを緩和したり、いい流れに変えたりすることもできるので、十二画だと絶対ダメというわけでないんですがね」


 でなければ十二画をつけた人間が全員死んでいることになってしまう。そんなわけではないのだ。なので、画数を重視する学派は迷信に近いことをしているとして相手にしないケースも多い。


 だが……これは無視できないのでは……。


 今度は「アーアー」のほうを調べてみた。


「総画数六画は運気MAXの数! しかも、女性にはとくにいいとされている数!」


 まさか、運勢的にこんな劇的な変化が引き起こされるとは……!


 というか、本を読む必要もなかった。知力も記憶力も私はステータス上、おかしなことになってるのだ。


 過去に読んだ書物の内容が頭に浮かび上がってくる。


<とくに強い凶運の名に長く苦しみたる者がよい運勢の名に変えた場合、これまで抑圧されていた力が解放され、ステータスに大きな変化があると言われている。バネを強く押さえつけるほどに強く跳ね返っていくが如し。>


 そうだ、こんなことが書いてある本があった。


<ただし、かといって凶運につながる名前をあえて持ちうるべきではない。立ち直るのが難しい災難に遭う恐れもある。とくに子供は親を失うなどの苦しみが現れるという。>


 たしかに親を失ったよ! 義絶されたんだけど!


<記録の上ではレベル14の者が改名だけでレベル18になったこともある。ただ、たんなる画数的なものだけではここまでの変化は生じないであろう。名称に関するその他諸々のものが組み合わさった結果である。>


 結論から言うと、私は名称に関する諸々のものが奇跡的に組み合わさって、爆発的な成長を遂げたということらしい。


「原理上、絶対あり得ないとも言えないようです……。無論、だからといって誰でもあアーアーにしたらこんなチートになれるというわけではないですがね」


「そうだな、人には人それぞれの最も適した名前があるというし」


 そこでまた不思議なことが起こった。


 カサデリア様の前に「ヘンリエッタ」という名前が浮かび上がったのだ。


 そして、そのヘンリエッタに関するステータスが表示された。

 そのレベルは73だった。

 大賢者カサデリア様よりさらに強い。


 まさか、これは……カサデリア様がそのヘンリエッタという名前に改名したらもっと強くなるという啓示では……?

 いや、さすがに早計だ。もうちょっと確認しよう。


「あの、カサデリア様、つかぬことをお聞きしますが、ヘンリエッタという名前に何か記憶などございませんか……?」


「ああ、実は私はヘンリエッタという名前になっていたかもしれぬのだ。親はその名前を付けることにしていたらしい。だが、同じ村で三日前に産まれた娘がヘンリエッタという名前にしたという話を親は聞いて、カサデリアにしたらしい」


 もし、ヘンリエッタにしていたらもっと強くなっていたのか。あるいは、今、改名しても、そういう効果が?


「あの、カサデリアからヘンリエッタにいたしませんか? もしかすると、さらにお強くなられるかもしれません」

「おいおい、この歳で改名したら混乱を招くだけだ。名前などめったなことで変えるものでもないだろう」

「ですね……。今のままでもカサデリア様は充実されてらっしゃいますしね」


 おそらく、これは名称判断という能力が異様に発達した結果なんだろう。私の職業は名称学者だからな。


「なにはともあれ、ああああ改めアーアー、君を名称学の准教授にしようと思うが、どうかな? 実のところ、そのステータスなら冒険者としても一生食っていけるだろうが……」


 結論なんて最初から決まっていた。


「カサデリア様、この学院でご恩返しをさせてください」


 迷うことなく私はそう言った。

 ああああというひどい名前だったのは否定できない。でもカサデリア様も学友のみんなも私を一人の人間として見てくれた。

 私をくだらないもの、いらないものと見るなんてことはしなかった。


 こうやって立派な名称学者になれたのも、みんながいてくれたから。


 私が産まれたのは伯爵家だったかもしれないけど、まともな人間として育ててくれたのは学院のみんなだ。


「また、この学院に、私みたいにひどい境遇の子供がやってくるかもしれません。そんな子を幸せにする仕事ができたら最高です!」


「わかった。ではよろしくお願いするよ、アーアー准教授」


 カサデリア様も微笑んでくれた。


「ただし、あまりそのステータスのことは言わないほうがいいだろう。きっと厄介ごとが舞いこんでくるだろうからな」


「はい、このことは黙ったままでいます!」


 こうして私は人生の新たな一歩を踏み出すことになった。

次回も近いうちに更新します!

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