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17 カボチャ料理を作る

「これはとても美しい。食べるのがもったいないぐらい」

 エリーちゃんも目を輝かせている。たしかに作ること自体が楽しい野菜かもしれない。


「味もなかなかよさそうだね」

「ああああ先生もご存じだと思うけど、このカボチャなる野菜も栄養価がとても高い。赤ポテトともども普及させたい食材の一つ」

「じゃあ、これも調理してみようか」


 私とエリーちゃんはとあるクラブがある校舎の側に目をやった。

 もちろん、料理クラブです。


「はーい、料理クラブの部長、【お菓子の彗星】ことフランでーす!」

 今日も二つ名が違うけど、フランさんは元気だった。

 ちなみに、前回協力してもらった赤ポテトは学院だけでなく、ハーティオールの町にも広がり、現在、さらに周辺の村にまで人気を増しつつあるようだ。栄養が高いのも大事だけど、まずはおいしくないと作る気もしないからね。


「あの、部長、また違う野菜を実験農場クラブで作った。これを使った食材を考えてほしい」

「へ~、一つ持ってみると、これ、ずしりと重いですね」

「うん。ちなみに割ってみると中は黄色」

 断面図が見える状態の半分になったカボチャを見せるエリーちゃん。

「この色から黄金ウリと呼ばれている。別名カボチャというのが言いやすいので、実験農場クラブとしてはカボチャのほうを推している」


「なるほど。では、早速調理してみるでーす! 皆さんもいろいろチャレンジするですよー!」

 部員たちも「うおー!」「やるわよ-!」と気炎を上げている。


 そして、様々なカボチャ料理が試行錯誤のすえ、供された。


 まず貴重な男子部員さんの料理。煮物。

 これが割とオーソドックスな食べ方であるらしい。


「うん。不味くはないけど、皮はけっこう硬い……」

 エリーちゃんの反応は微妙だ。

「私は嫌いじゃないけど、これ、好き嫌いは分かれそうだね」

 実際ほかの部員の反応も賛否両論だった。甘くはあるのだが、赤ポテトと比べると地味な甘さなのだ。


 続いて背の高い女子部員さんの料理。薄く切ってフライにしたもの。

「こっちのほうがエリーは食べやすい」

「そうだね。お菓子ってほどじゃないけど、充分いける味だね」

 このほうが子供は好きなのではないだろうか。フライがダメという人は部員の中にもいなかった。


 さらに副部長さんの料理。なんと、種を炒ったもの。

「あれ、意外といけるかも……」

「これ、大人には人気出るかも」

 ただ、料理というよりは珍味という感じがあるな。


 そして、そういった料理が登場したあとに真打が現れた。


「フフフ、このフラン、カボチャなる野菜の特製、完璧に理解したのでーす!」

 エプロン姿でフランさんは堂々と腕組みをしてたたずんでいた。


「この野菜、一言で言えばお菓子としてのポテンシャルを強く持っているのでーす! 今から、お見せいたしましょう!」


 そして、相変わらずとてつもない速度で調理にかかった。


「さあ、まず一点目はこれでーす!」


 提供されたのは円形のパイ生地のもの。

 これだけだとお菓子なのかおかずなのか判断がつかないが、フランさんが作るものはたいていお菓子だよな。そんなことを考えながら口に入れる。


「あっ、このやさしい甘さはカボチャだ!」


「そうでーす! 生地の上によく裏ごししたカボチャに砂糖を混ぜたものを載せているでーす!」


 赤ポテトの甘さが元気な姉みたいな甘さだとすると、これは穏やかなお母さんのような甘さ。そうか、こんなふうに甘さを押していけば、癖のようなものもほとんどない。


「それだけではありませんよー! 次はカボチャのムースなのでーす!」


 今度は色も黄色できれいなムースだ。


 これも口に運んでみると、なめらかでとろけるような食感に、飽きの来ないふわっとした甘さが来る。


 とんでもないものに遭遇したぞ! 今までに食べた甘い食べ物のうちでも三本の指に入る! 変わった料理を使った創作料理って次元じゃない!


「これ、高級レストランでないと食べられない味だよ! フランさん、すごいよ!」


 私以外にも試食した人たちの間で絶賛が巻き起こっていた。エリーちゃんなんて二個目に突入しているほどだった。


「このカボチャは野菜にしてはかなり強力な甘味を持っているのでーす。ならば、それをお菓子に活用するのは当然のことなのですよ。ただし、そう特別なことはしていませんよ。おいしさを引き出すちょっとしたお手伝いをしたまでです」


 一仕事終えたフランさんは、仕事前より少し大人びて見える。もっと具体的に言うと、それまでは年齢的にも妹に見えていたフランさんが姉に見えてくるのだ。


「変な話、フランでなくても、それなりの料理人なら、これぐらいのものは作れるはずです。なぜなら、食材にそれだけの可能性があるからでーす。食材の可能性に気付けるかどうか、これが料理人の腕を決める一つの基準なのですよ」


 なんか、深い話になってきたな。


「赤ポテトとカボチャ、本当に大きな宝物を二つもいただいてしまいました。これは、実験農場クラブに足を向けて寝ることはできませんね」


 フランさんはエリーちゃんのところまで歩み寄ると、ぎゅっとその手をとった


「エリーさん、これからもフランのパートナーでいてくださいね」

「わ、わかった……。エリー、新鮮で元気な野菜を届けていくことを違う……」


 前からちょっと感じていた二人の部長間の友情がさらに深まった瞬間だった。


 ただ、ちょっと深まりすぎたかもしれない。


「エリーさん! よろしく!」

 フランさんが髪を振り乱しながら、情熱的にエリーちゃんを抱き締めていた。


「く、苦しい……。でも、部長、いいにおい……」

「フランに溺れてくださってもよろしいんですよ?」


 あれ……。もはや、パートナーでいてくれって違う意味なのか……?

 けど、女子同士で抱き合う分には風紀的に止めるほどではないし、いいか。いいよな、多分……。

 エリーちゃん、もしまずいことになりそうだったら、相談に来てください。現時点では止めづらいです。


 こうして実験農場クラブは偉大な野菜を二種類も世に送れて、めでたしめでたしとなる予定だった。

 実はカボチャに絡んで、とある事件が起きたのだった……。

新作、「邪神認定されたので、獣人王国の守護神に転職しました」小説家になろうさんにて投稿しました! http://ncode.syosetu.com/n3365dl/ 流浪の女神が流浪のケモ耳少女に拾われて、信仰されることで神の力を取り戻してケモ耳世界を発展させます! 是非ともよろしくお願いします!

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