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16 黄色い野菜

「ああああ先生、おはようございます!」「ああああ先生、今日もきれいですね!」


 朝からこんなあいさつを立て続けにされた。

 理由は明白だ。私が山賊相手に無双したという噂が学内にも広まっているのだ。


 もちろん、私は「あくまでもカサデリア様のお供でついていっただけで」と言っているのだが、逆に言えば、お供をしたのは事実なわけで、ものすごいザコをお供にするわけはないから、かなり強いのだろうと目されてしまっている。


 強いというだけの噂ならすぐに消えるだろうと思っていたのだが、ハーティオール在住の女の子を助けた結果、町の英雄という扱いになってしまい、なかなか根強くて困っているのだ。


 あのあと、カサデリア様には災難だったなと慰められたが、本当にこれからどうしたものか……。


 そんな表情がクラブ活動にまで継続していたらしい。


「ああああ先生、つらいことあるの?」

 エリーちゃんにもそう言われてしまった。

「あ~、たいしたことないよ……。なんていうのかな、人の期待が重いっていうのかな……」

「ファイト。エリー、応援することしかできないけど、応援ならできる」


 エリーちゃん、かなり自分の気持ちを素直に表現できるようになってきてるな。かといって、元の心のこまやかさは残ってるし、理想的な変化だと思う。

 名称学者として、いい仕事ができたな。こうやって、人が進みたい方向に一歩進めるように背中を押してやるのが名前を変える意義の一つだからだ。


 人間みたいに言葉を解するような動物を除けば、生き物は名前をつけるなんてことはしない。野良犬が仲間をケイトとかレベッカとか呼ぶことはないのだ。それだけ、名前をつけるという行為は人間による社会的な営みということだ。


 いや、もしかしたら犬の社会でも名前をつけてるのかもしれないけど、犬語はわからないので不明。さすがに、ワンワンとかでは音の種類が少なすぎるから名前はつけれんだろうが。


「さてと、では今日のクラブをやりますか」

「黄金ウリ――別名カボチャを収穫する」


 そう、大地の精霊のおかげで超促成栽培を行っていた、赤ポテト以外のほかの野菜も収穫の時期を迎えたのだ。


 カボチャか。なんか、呑気な名前だな。ちなみに表面を見てみるに黒っぽい緑色で、名前みたいな黄金っぽさはない。


「ちなみに、ああああ先生だとこれぐらいすぐに収穫できるの? 素早さもすごいって話が出回ってるけど」

「うっ……。そう来たか……。わかったよ、じゃあ、この畑の半分を収穫するから見てて。でも、全部私にやらせるのはダメだよ。エリーちゃんも収穫作業はしてね」


 人に頼んで全部やってもらうということを覚えさせるのは教育としてまずいからな。


「わかった。エリー、ちゃんと半分はこの手でとるから。収穫に苦労した分だけ野菜は甘くなる――これ、エリーの好きな言葉」

「よろしい。じゃあ、先生の実力を見せてあげよう」


 私はすっと両手を地面につけて、肩膝を浮かせる。

 徒競走の世界ではこういうのをクラウチング・スタートと言うのだっけ? そっち方面は詳しくないので知らない。


「では、行くよ!」


 ――ブオッッ!

 飛び出すと同時に私はまず一個目を収穫。すぐさま、放り投げて背中のカゴに入れる。続いて、二個目、これもカゴに入れる。以下同じ。


 だいたい二分弱で植えてる黄金ウリの半分を収穫し終わった。カゴには緑色の割と重い野菜がたっぷり入っている。


「はい、こんなものかな」

「ああああ先生、すごい。全然名前負けしてないポテンシャル……」

「そうだね、たしかに目立つ名前だよね……」

 ポテンシャルはアーアーに改名したから手に入ったんだけどね。


 そういえば、人生で名前を相手に覚えられなかった経験ってないので、そこはああああで得をしたのかもしれない。


「じゃあ、後はエリーが収穫していく!」

「うん、その勤労精神は大事だよ」


 私はしばらくエリーちゃんの活動を見守ることにした。

 思った以上に手際がよい。さすが部長なだけはあるな。しかし、途中でぴたっとエリーちゃんの手が止まった。


「先生、お化けみたいなのがある」

「お化け? 農場に?」

 不思議なことを言われたなと思って、見にいってみて、答えに気づいた。


 牧場にいる子牛ほどの大きさの巨大カボチャがそこにあったのだ。

 これはエリーちゃんには無理だろう。確実にエリーちゃんより重いし。


 そっか。大地の精霊が力を使いすぎて、育ちすぎたんだな……。


「これはパスにしよっか。初めて、この野菜を見る人がいたら、何かまったくわからないだろうな……。モンスターの卵とでも認識するんじゃ……」

「ちょっと動き出しそう」

 けっこう怖いこと言うな、エリーちゃん。


「ほら、カボチャの原産地の異国だと、中身をくりぬいてから、目と口の部分を切り抜いて顔にしたりするらしいし」

「あ~。らしいね。そういう祭りがあるらしいね。ハロウィーンだっけ」

 総画数は十三画か。となると、幸運に寄与するとされている数だから、祭りの名称にはぴったりだな。


 そのあとも、とくにトラブルもなく、収穫作業は終わった。


「けど、見た目に黄金ウリらしさはないね」

「これは真っ二つにした時にその本領を発揮するらしい。なので、こういうのを料理クラブから借りてきた」

 大きな肉切り包丁をエリーちゃんが手に持っていた。


「うわ……屋外でそういうの持たれると、ちょっと物騒だね……」

「これで、真っ二つにしてやる」

 そして、エリーちゃんは「えいっ」とカボチャに歯を入れる。


 だが、カボチャは硬くて少し上に刺さっただけだった。

「頑丈……。エリーの力では倒せない……」


 ここは私が手を貸すべきだな。

「じゃあ、私がやってみようか」

 私が刃物を持って、「えいやっ」と振り下ろすと、あっさりと半分になった。


 さすがレベル99。こういう時はすごく便利だな。


 そして、中身も確認できた。


 もう、見事な真っ黄色だった。

今度はカボチャを作りました。謎の農業展開になってますが、次回もよろしくお願いします!

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