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15 強いのがばれちゃった

 私は大地の精霊に話しかける。


 それでいったいどうすればいいわけ?


<まず、ゆっくりと後ろに下がるのです。その時、靴で地面に線を引いてください。一歩ずつ、少しずつ下がって二本の線ができるようにしてください。それなら、怖くなって後ろへ下がっているような印象を相手に与えられます>


 なるほど。悪くはないな。

 私は言われたとおりに実行する。


 まず右足をするように下げて、そのあとに左足も同じように下げる。


「ちょっと下がったって無駄だぜ。がっちり縛ったあと、ひでえ目に遭わせてやる」


 そんなことされてたまるか。また右足、続いて左足。


 そうしているうちにも、残党がこっちに来てるんだけど……。


<大丈夫です。これだけ線を引けば、中心部にちょっとした図を描くだけです>


 たしかに線と線の間に図形が浮かび上がる。


 私はすぐに足を動かして線を引き始める。


 この素早さなら人質が傷つけられる前に間に合う!


「な、なんだ! お前、人質、殺すぞ!」


 できた! さあ、発動しろ!


 山賊の頭目の背後に巨大な手が現れた。


 これは、ゴーレムの手……?


 そして、すぐに頭目の体をがしっと握りつぶした。


「ぐうぇええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」


 あ、ちなみにトマトみたいにグロくなったわけではないです。でも、かなりの数の骨は折れただろうな……。


 からんからん、とナイフも床に落下する。女の子も無事に解放された。


「お、お頭がつぶされた!」「なんだ、あの手は!」


 よし、では残りを叩くか。

 首の骨が折れても許してね。あんたたちはやりすぎた。罰を受けてくれ。


 近くの山賊をグーパンチでノックアウトしていく。


「ぐうぇっ!」「あうっ……」


 さっきよりは腕に力をこめていた。あんたたちは絶対許さない!


「カサデリア様! 今のうちです! そっちのザコも魔法でやっつけちゃってください!」


「わかった! こっちは私一人で大丈夫だ!」


 あとは一方的な戦いだった。三分後には敵は全滅していた。


「あ、ありがとう、あああああああちゃん!」

 女の子は泣きながら私に抱き着いてきた。

「怖かったね。もう大丈夫だよ。あと、私の名前、ああああからアーアーに変わったの」

「ああああああちゃんはあああああああちゃんだもん!」


 なんか毎回、「あ」の数変動してないか?

 こんな名前にした親も絶対に許さない所存です。


 さて、私たちは山賊を逆に逃げられないように縛りあげてやった。縄があって、ちょうどよかった。この数は連行できないから、軍隊にでも任せようか。


 ちなみに、その女の子のほかにもさらわれた子供が男女含めて六人もいた。みんな、出身はバラバラで、露見を遅くするためか、いろんなところからちょっとずつさらっていたらしい。


「おそらく闇ルートで奴隷商人にでも売りさばく予定だったのだろう。ひどい話だ」

「そうですね。少しでも子供を助けられたのがせめてもの救いでしょうか」

 私もああああって名前でひどい目にあったけど、誘拐されるようなことにはならなかった。まだマシだったのかもな。


 私たちはその子供たちをいったん、ふもとの村まで全員送り、順次、親元に返していく手配をした。

 これで、私とカサデリア様のクエストは無事に終わった。


 学院に戻ればカサデリア様の武勇だけが語られて、私はその助手としてひっそりと後背に隠れる。これで私は目立たないまま名称学者を続けられる――そういう手筈だ。


 これでめでたしめでたしと思って、その後の休日、ハーティオールの町に買い物に出かけた。

 実は山賊団を退治したことでかなりの額の臨時収入が発生したので、好きなものを思い切り買えるようになったのだ。


 だが、その日はいつもと比べて違和感があった。

 なんか、やたらとじろじろと視線を感じるのだ。


 まさか、山賊団の残党にでも狙われているのか?


 少しばかり用心しながら、買い物を続けた。

 すると、年配のご婦人がこちらに近づいてきた。


「あの、ちょっとお聞きしてよいですかね?」

「はい。なんでしょうか。道にでも迷われましたか?」


「あなたがああああという戦士さんですかね」

「はっ? はあ?」

 なんで、戦士扱いをされてるんだ。


「いえ、それは先生の間違いじゃないでしょうか。私、今年から学院の准教授ですので」


「でも、山賊たちを片っ端から殴っては倒し、殴っては倒しとやっつけたんでしょう?」


 そっか、私も参加したことぐらいは知っている人がいるのか。


「あはは、私はあくまで学院長であらせられるカサデリア様のお供をしていただけで、そんな活躍はできていませんよ」


「そんな謙遜なさらず。孫から話は伺っていますよ。よくお店に来ていたああああさんがものすごい力で山賊を倒していったと」


「えっ、もしかして、あの女の子のおばあちゃんですか!?」


 こくりとご年配の婦人はうなずいた。


「もう、帰るなり、あなたの武勇を孫娘がいろんなところで語っていましてね。もう、ハーティオール中で広まっていると思いますよ」


 しまった! 地元民が捕まっているという発想が抜けていた!


 後ろから「おお、あれがああああさんか!」「武人のああああ様ね」といった声も聞こえてくる。


 すでにかなり広まっている……。


 しかも、アーアーじゃなくてああああのほうで広まっている……。


「き、きっと……孫娘さんの記憶違いじゃないですかね……。カサデリア様の活躍を私の活躍だと思ったとか……」

「そんなことないよ」

 そこに、私が助けたあの子が現れた。


「ああああちゃん、後ろのほうはカサデリア様に任せますとか言ってたもん。それで素手で前の敵をやっつけてたもん。しかも、大きな土の手が出てくる魔法も使ってたよ!」

「あのね、その話はあまり広げないでほしいんだけど……」


 時すでに遅し。「ほう、攻撃魔法も使えるのか」「あの子、なんでもできるのね」「だからカサデリア様も連れていったんだな」なんて声も聞こえてきた。


 その日、私は図らずも町の英雄になってしまったのだった……。

 しかも、ああああの名前のほうで広まってるじゃん!

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