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14 アジトへ到着

 一方でカサデリア様はスタイリッシュに風魔法で敵を吹き飛ばすことを選んだ。

 といっても、風で飛ばすだけではまだ悪事を成す可能性があるので、壁にぶつけて死なない程度に大ケガを負わせていた。


「お前達はあとで近隣に詰めている兵士にでも引き渡す。そこで法の裁きを受けるがよい」


 カサデリア様は顔色一つ変えずにそう言った。やはり偉大な女賢者だ。その態度が無茶苦茶かっこいい。男達ももはや刃向かっても何もできないと諦めたらしく、ぐったりしている。


「カサデリア様、お疲れ様です」

「アーアー、お前のほうが先に終わったみたいだな。こちらの風を起こす魔法陣ができる頃には敵の悲鳴が三人分あがっていた」


「ああ、物理で殴ったり蹴ったりするほうがすぐにできますからね」

「実はちょっと後ろを見て、お前がどういう動きをするのか確認していたのだが、まさに目にも留まらぬ速さだった」

「ああ、そう見えてましたか。私としては逆にほかの人が遅く見えたんですね」

「その素早さになったことはないから、なんとも言えないが、そうなってもおかしくはないな」


 淡々とカサデリア様は言った。私の秘密を守ってくれるパートナーがいるのは心強いな。


「では、次はほどほどに魔法も使うか。お前の力はあまりにも強すぎるから、どれぐらいの力を持つものなのか、お前自身が確認したほうがいい」

「はい。私もそう思っています」


「では、先を急ごう。まだ敵はたくさん残っているからな。合計三十人以上はいるらしい」


 そして私達は山の奥深くにあるアジトに向かっていった。


 小屋のようなものがいくつか並んでいるのが見えた。こんなところに住む物好きなんていないだろうから、あれが山賊の根拠地で間違いないだろう。


「かなり気配が多いな。どうやら囲まれているらしい」

 とんでもないことだけど、カサデリア様はやっぱり落ち着いた調子で言う。囲まれても怖くないからだ。


「そうなんですか? 私はあまりわかってないんですけど……」

「それは戦場そのものに慣れてないから、どういうものが気配か理解できてないだけだ。戦場を繰り返せばお前の実力なら、すぐにわかるようになる」

「そんなの繰り返したくないですけどね……」


 そんなことをしゃべっていたら、本当に前からも後ろからも敵が飛び出てきた。


「女二人だけか!」「油断すんじゃねえぞ! ここまで来たってことは何人かやられてる!」「冒険者だろうぜ! ぶっ殺せ!」


 いくつもの声が飛んでくる。数はかなりのものだな。


「ふむ。たしかにさっきの連中よりは骨のある奴が多いようだな。まあ、それぐらいのほうが戦いがいがある」


 そんなの、見ただけでわかるのか。こういう戦場の勘まではレベルが急上昇しただけではわからないらしい。そりゃ、レベルが上がったからって突然お菓子作りの才能に目覚めたりはしないものな。


「よし、今度は後ろを私がやる。お前は正面の連中をやれ」

「わかりました、カサデリア様」


 今度は魔法を使うつもりだったが、どういうのがいいか。

 炎を出すのは山火事の危険が高いのでやめておくとして……ああ、そういうこと考えてるうちに近づいてきたぞ!


 よし、氷でも使うか。

 私はすぐに地面にしゃがみこむと、手で魔法陣をひきはじめた。

 ぶっちゃけ、賢者らしいのだし、杖ぐらい買っておくべきだったかな。でも、表面上は名称学者でしかないからなあ……。


 線を描き終わると、地面から氷の柱が突き出て、周囲の男の足にぐさぐさ刺さった。


「いてえええ!!!」「こいつ、上級の魔法使いだぞ!」「遠距離から狙え!」


「あっ、けっこうハードだな、これ……」

 多分死なないだろう、多分……。


 今度は遠くから弓矢を構えられている。こんなんに近づきたくはないってことか。

 まずい、まずい。早く何か魔法陣を描かないと……。

 その途中に矢が飛んできたが、これもやっぱり無茶苦茶遅かった。

 面倒くさいので事前に「ていっ!」と叩き落してから、魔法陣に戻る。


 風の魔法だ。突風を打ちつける。


 ブワアアアッッッ!


 遠方の弓隊達はその風で樹木などに叩きつけられた。

 反撃も来ないから一掃できたらしい。


 この氷と風だけで十数人は倒せたはずだ。相当数は削った。

 けど、敵の大将は誰でどこにいるんだろう?


 頭目を倒さないと解決しないと思うんだけど――と思っていると正面からひときわ大きな男が出てきた。


 しかも十歳ほどの女の子を人質にして。


「俺がここの頭目だ。おい、動くとこの娘の命はねえぜ!」

「た、助けて……」


 その子の顔はどこかで見覚えがあった。そういえば、学院があるハーティオールの料理店の子だ!


「あっ、ああああああちゃんだ!」

 ちょっと、「あ」が多いから、あの子に間違いない!


「さあ、余計なことをすると、この娘が死ぬことになるぞ」


 その子の顔にナイフの刃が当たる。

 女の子も「こ、怖いよ……」とか細い声を出している。


「やめて! その子を離して!」


「だったら、お前が抵抗しないことを約束しろよ」


 くそっ……。人さらいもしてたってのは本当だったのか……。


「後ろの女も一緒だ! 動くんじゃねえぞ!」


 カサデリア様も魔法の手を止めざるをえない。


「あなた、卑劣にもほどがあるよ!」

「山賊が正義を語ってどうするんだよ。おい、残ってるお前達、ちゃんとそいつらを縛れ」


 まずいな。このままだと、動けなくされる……。


 もうちょっと、ナイフと女の子の距離が開いていれば一気に走って、ナイフを奪うようなこともできるかもしれないが、さすがに肌に密着している状態では間に合わない。


<こんな時こそ、わたしの力を使うべきですね>


 この声は、大地の精霊!


<そうです。どんなピンチもこの大地の精霊に任せればすべて上手くいきます。それは、もう疑いようのない事実です。絶対そうなのです>


 調子よすぎて逆に疑わしいのだが、この場合、大地の精霊に力を借りたほうがよさそうだ。


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