11 売ってみたらバカ売れした
ブヒる (動詞)部費を入手すること
日間5位ありがとうございます!
「それじゃ、余っている赤ポテトはぜひとも使ってもらって、普及してもらいたい。けっこうお腹にたまるので、エリーとああああ先生だけでは食べきれない」
「ありがたく頂戴するですよ。そして、赤ポテトの名前が学院だけでなく、国中に広がるようにしてみせるのです」
こうして赤ポテトを布教する際に、力強い味方ができた。料理クラブが赤ポテトを料理をどんどん開発していけば、自然と赤ポテトの名前も広がるだろう。
しかし、そんな彼女達より少しだけお姉さんの私は、もうちょっと生々しい作戦を思いついた。
「あの、二人ともいい話の最中、悪いんだけど、私にいい案があるの」
「准教授のああああ先輩、いえ、ああああ先生、どうかしましたですか?」
「フランさん、ちなみにアーアーに改名してるんですけど」
「低学年の生徒はともかく、私達上級生にとったら、ああああ先輩は学院の伝説でしたから!」
勝手にレジェンドにされていた。
まあ、実は現在のステータス、レジェンドみたいになってるんですけどね……。
「ちなみに、フランさん、どういう伝説だったの?」
「夜、誰もいないはずの学院の廊下を歩いていると、遠くから、ああああという名前の生徒がやってくる、というものです」
「なんで、ホラーになってるの!」
「ほかにも、ああああというのは、実は本当の名前を唱えると秘められた力が解放されてしまい周囲を危険に巻き込むからだとか、いろいろ取りざたされていたでーす」
それは、そこはかとなく惜しいぞ。
「まあ、学内ではいいけど、ああああ先生って呼び方は学院の外ではしないでね。何者なんだってことになるから」
「前向きに対応しますです」
あんまり信用ならない回答だった。
「それで、ああああ先生、いい案って何?」
エリーちゃんの言葉で脱線していたことに気付いた。
「ねえ、フランさん、このスウィート赤ポテト、大量に作れる?」
「このフラン、伊達に【お菓子宰相】の二つ名を持っていませんですよ」
その設定、初めて聞いた。そういうのは自己紹介の時に一緒に言ってほしい。
「じゃあ、売ろう。そしたら、部費も稼げるし、生徒にも一気に広まる可能性があるし、一石二鳥でしょ」
「部費を稼ぐってアリなのですか?」
もっともな質問が来た。
「大丈夫だよ。私、校則やクラブ活動規則も目を通してるけど、ここにはこう書いてあるだけだから。『学外で金銭を対価とした活動を無許可で行ってはならない』」
これって、つまるところ、無許可でアルバイトするなという規則だ。
なお、私が先生だからこんなの暗記しているのではなく、記憶力(S)のため、すぐに出てくるのだ。クラブ活動の顧問に抜擢された時に、規則ぐらいは目を通したし。
「なので、学内で金銭を対価とした活動をしても構わないってこと。しかもクラブ活動時間中に生まれたものをクラブ活動時間中に売るなら、勉学をおろそかにしたということにもならないよね」
「部費を稼ぐですか。つまり、ブヒるわけですね」
この子、なんか嫌な略し方するな。
「わかりました! このフランにお任せです! 【スウィーツ・プリンセス】の名に恥じない活動をします!」
二つ名、変わったぞ!
エリーちゃんも当然同意してくれて、スウィート赤ポテトショップ作戦が始動したのだった。
●
翌日。
私達は放課後の学内のメインストリートに机を並べて仮設店舗を開いた。
『スウィート赤ポテト 銅貨2枚』と書かれた看板が店の前に置かれている。
店番は私とエリーちゃんだ。
フランさんはスウィート赤ポテトを作らないといけないので、ここには常駐しない。
「す、す、すうぃーとあか、ぽてと…………おいし……」
エリーちゃん、さすがに店番はまだハードルが高いだろうか。
得体が知れないので、まだ誰も買いに来ないし。
宣伝ぐらいなら私がやってもいいのだが、ここはエリーちゃんにやらせたい。
実は裏テーマとしてエリーちゃんの対外能力をさらに開発するというのも含まれていた。
実験農場クラブだと、だいたい土と向き合ってばかりになる。接客となると、人と向き合うしかない。
これはカサデリア様から聞いたのだが、学院で学問を教えることはできるのだが、社会に出て商売をしたり、人と交渉したりする能力なんかは全然身につかないというのだ。
学院は学問を教える場なので当たり前なのだが、すべての生徒が研究者や先生になるわけではないし、どちらかといえば、なんらかの商売に従事するケースのほうが多いので、これはけっこう根の深い問題なのだ。
もし、売るチャンスがあるとしたら、運動クラブが一斉に帰ってくる時だ。そこで数をさばきたい。運動クラブはお腹もすくだろうし、かなり人気になるはずだと思う。
やがて運動クラブがけっこうやってくる時間帯が近づいてきた。
エリーちゃんはおもむろに商品を小さく切り分けはじめた。
「ああああ先生、ここは試食作戦を実行するべき!」
ついにエリーちゃんが動いた。
「エリーは大きな声を出すのはそんなに得意ではない。けれど、そこは作戦で補うことができる! 試食で戦う!」
そしてクラブ活動を終えた生徒がそのメインストリートを通る時に――
「スウィート赤ポテト試食やってる! ぜひ食べていってー!」
エリーちゃんがこれまでで最大の声で叫んだ。
なんだ、大きな声だって出せるじゃないか。
エリーちゃん、あなたは立派に成長してるよ!
「ほう、何だ、お菓子?」「試食か。じゃあ、一つもらおうかな」
生徒が集まりだした。
私も生徒たちにどんどん試食用の小さいスウィート赤ポテトブロックを配っていく。
このミッションの目的はお金を稼ぐことではなく、赤ポテトを広めることだから、多少の赤字が出ようとかまわない。というか、材料費は実質、タダなのだし、厭うようなリスク自体がない。
ぶっちゃけ、エリーちゃんが試食作戦を提唱した時点で私たちは勝っていた。
「おいしい!」の声がすぐに轟いた。
そこから先は早かった。
「俺に一個ください!」「私も一つ買います!」「はい、銅貨二枚!」
値段も手ごろということもあって、スウィート赤ポテトは飛ぶように売れていった。
しかも口コミで広がっているらしく、わざわざ寮などから買いに来る人もやってきた。
あまりにも売れていくので、私が料理クラブに早く持ってきてと催促に行ったぐらいだ。フランさんも売れ行きを話すと驚いていた。
「それほどとは思っていませんでした……」
「すごいブレイクしてるよ! じゃんじゃん持ってきて!」
こうして初日だけでスウィート赤ポテトは二百五十個を売り上げたのだった。