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第9話 Hostage&Detonator

「・・・・・・全て、僕を嵌めるための芝居だったのですか?」

櫻井は、冷や汗をかきつつも、冷静な口調でそう訊いた。

それに、アンガーが頷く。

「いつからですか?」

「気付いた・・・・・・と言うより、あくまで予想だった。お前は、ジェームズを犯人に仕立て上げたかったようだが、鍵を持っている奴が、わざわざ盗む――なんて回りくどいやり方、するはずが無いからな。むしろ、鍵を持っているなら、堂々と武器輸送車から武器を持ち出せば良い。そっちの方が、コソコソするよりも、怪しまれなくて済む」

「なるほど、だから、武器輸送車の鍵をこの中で唯一持っていない僕が犯人だと考えた、と言う事ですか」

櫻井は、はぁと、溜息を吐く。

そして、そのままの椅子に掛けた体勢から、首だけを動かし、天井を見上げながら、ボソボソと、言語を日本国に変えると、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、呟き始めた。

「はぁ〜あ、失敗しちゃったな〜、やっぱり、もっと慎重に調べるべきだったな〜、でも組織の奴らが五月蝿かったんだよな〜、全く、これだから年寄りはせっかちで困る。あ〜どうしようかな・・・・・・。まだ早い気もするけど――ま、いっか、使っちゃお。日本は戦艦大和を最後まで出し惜しみしたから戦争に負けたって言うし――まあ、歴史には全く興味が無いんだけど。切り札を最後まで置いておくのは、日本人の悪い癖だしな」

「おい、何をブツブツ言って――」

すると、櫻井は突然、椅子から立ち上がった。

それに慌ててダリアは拳銃を強く握り直し、兵士達も一斉に銃口を向ける。

「勝手に動くなと言ったはずだ!」

アンガーが怒声を飛ばす。

「動くな?それは、僕のセリフですよ」

「――な!?」

櫻井の言葉は、元の言語に戻っていた。

一瞬、この場にいたアンガー達は、何故櫻井がそんな事を言ったのか分からなかったが、その理由は、すぐに理解できた。

「おい、待て櫻井、本気なのか!?」

「ええ、もちろん本気ですよ――だから、これ以上動かないでもらえますか?さもないと、この起爆装置(、、、、)のスイッチを押しちゃいますよ?」

不敵な笑みを浮かべる櫻井の右手には、起爆装置が握られていた。



☆☆☆

「本気なの櫻井!?爆発なんてさせたら、私達どころか、あなたまで死ぬのよ!?」

「まあまあ落ち着いてくださいダリアさん。僕がいつこの車を爆発させるなんて言いました?」

「・・・・・・どう言う意味かしら?」

ダリアは、まだ拳銃を下ろそうとはしない。

むしろ、その手はいつでも撃てる準備ができている手だ。

櫻井は、フッと一度鼻で笑うと、ダリアだけでなく、周囲にも目を向けて説明を始める。

「どうして僕がわざわざそんな危ない事をしないといけないんですか?まあ、よく考えてみて下さいよ。ここには、良い人質になる奴ら(、、、、、、、、、)がいるでしょう?」

その言葉に、ダリアは背筋が凍り付いたのを感じた。

(どうして――どうして彼は、こんなにも笑っていられるの!?どうしてそんなにも楽しそうなの!?)

「・・・・・・櫻井、貴様ぁ!」

今まで黙って会話のやり取りを聞いていたエリックが、遂に叫んだ。

「おやおやエリックさん。あなたが怒るのは珍しいですね。どうかしましたか?」

「どうかしたかだと!?ふざけるなよ、貴様、子供達を人質に取るつもりだな!?」

「おお、御名答。大正解です!脳内筋肉のエリックさんでも、考える知能は持ち合わせているんですね?本日2回目、またまた感服致しましたよ」

パチパチと拍手を鳴らすが、完全にエリックの事を馬鹿にしているのが分かる。

「まあ、手っ取り早く僕を撃ち抜くと言った選択があると言えばあるんですが、もしも万が一に僕が爆弾を起爆させたりなんてしてしまっては、大変ですからね。黙って見ているのが、あなた達にとっては正しい選択ですよ」


「さて、それではダリアさん。拳銃を捨てて、ゆっくり後ろに下がってくれますか?もしも逆らえば、分かりますね?」

「くっ・・・・・・」

ダリアは、眉を歪めながらも、言われた通りに仕方無く拳銃を足元に捨て、後方へと下がる。

「ほら、何をしているんですか?アンガーさん達もですよ。そこを退いてもらわないと、僕がここから出られないじゃないですか。無視すると、ボン!ってなっちゃいますよ?」

「糞野郎が・・・・・・」

「何とでも言って下さって結構ですよ。言葉の暴力程度では、流石に起爆させたりしませんから、安心して下さい」

兵士達が退いた扉へと、櫻井は笑顔で歩を進める。

「あ、そうだ!」

しかし、扉直前まで歩いていた櫻井は、急に脚を止め、首だけを後ろに回して振り向いた。

「爆弾の件ですが、あれは僕が爆弾から5キロ程離れれば、電波が届かないので、起爆できなくなりますから、その時に取り外して下さい。爆弾の場所は、子供達が寝泊まりしているスクールバスの裏側に取り付けてありますから」

言い終わると、櫻井はまた脚を動かし、遂に車内から出た。

「それでは皆さん――Good night.」

それだけ言い残した櫻井は、光一つ存在しない夜の怪しい闇夜へと、姿を消していった。



☆☆☆

「――ええ、はいそうです。命令通り、盗んだ武器は全てここに・・・・・・はい、分かりました。それでは」

櫻井は、スマートフォンの電源を切ると、また首だけを上に向けた。

彼の目に映るのは、先程までの薄暗い天井とは違い、今は孤独な朧月が、怪しく揺らぐいでいる。

(砂漠の夜空に朧月のセットか、似合わないな。通常、朧月は春に見られる月のはずなんだけど、それがこんな砂漠地帯で見られるなんて――)

不吉なものだ。

櫻井は、そう思った。

スマートフォンで組織の連中と連絡を取るため、右手から左手へと持ち替えていた爆弾の起爆装置は、ようやく自分の手の熱により、ほんのりと温かくなってきていた。

いくら灼熱の砂漠とはいえ、夜は相反して極寒の地へと様変わりする。いつも着ている白衣だけでは、防げたものではない。

しかし櫻井は、そんな寒さなど、一切気にしていないかのような顔をしている。

(組織と連絡は取ったけど、組織のヘリが到着するまでにはまだ時間が掛かるな)

どうしたものかと、櫻井は自分が普段、寝泊まり及び仕事をしている医療用車両へともたれ掛かった。

盗んだ武器は全て、車に積み終えていた。

念のため、車内にあった医療用キットは全部出したので、誰かが怪我を負った時などは、よっぽどの事が無い限り、大丈夫だろう。

(まあ、あいつらがどうなろうが、構わないけど・・・・・・)

櫻井はまた、不敵な笑みを浮かべた。

「予定はいくつか狂ったけど、問題無いな。頼まれた物は全て揃ったし、あとは組織の迎えが来るのを待つだけ、か」


『その『組織』について、もっとよく教えてくれねぇかなぁ?ニイちゃん』

「――っ!?」

櫻井は、突如聞こえたその電子音へ、慌てて体を向けた。

そしてそこには、案の定、一人の少年が立っていた。

音も無く。

気配も無く。

まるで、始めからそこにいたかのように。


白髪の少年――ハートは、その場に立っていた。



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