第8話 Keys&Reasoning
エリック達の名前には、花の名前が付けられていますが、花言葉と犯人は関係ありません。
「我々の中に、裏切り者がいる」と、そう言い放ったアンガーの言葉に、この場にいる全員の元軍所属メンバーの顔に、緊張が走った。
「それは・・・・・・それはどういう事なんですか?」
口を開いたのは、元軍医、櫻井だ。
その目には、信じられないと言った困惑の光が宿っている。
「そうだな、まずは俺とエリックがどうしてその真相に辿り着いたのかを話す必要があるな」
そう言うと、アンガーは話し始める。
「実は、お前達にこれまで黙っていた事だが、町を出てから――つまり、例の災害が起きてから少し経ってからの事だったんだが、俺とエリックは、武器輸送車に積んでいた幾つかの武器や弾薬などが減っている事に気付いた」
「始めの方は勘違いだと思っていたんだが、日が経つにつれ、明らかに武器の減りが早かった。だがら俺達は、疑いたくないと思いながらも、念のため、幾つかの武器が入った箱に、赤い印を付けておいたんだ――気付かれないよう、箱の裏側にな」
「そして今日の昼間、エリックに調べさせたところ、赤い印を付けておいた箱の数が、足りなかったという訳だ」
話し終えたエリックに、質問があるという風に、櫻井が手を挙げた。
「昼間と言いますと、エリックさんは、ハートさんに武器を支給するため、一緒に武器輸送車に向かったんですよね。その時に間違えて、ハートさんに渡してしまったという可能性は無いんですか?」
「それは無い」
エリックは、桜井の問いに首を振った。
「あの時、俺が兄ちゃんに渡した武器があった場所は、全部印を付けていない武器の置かれた棚からだ。一応、渡す前に確認もしたし、間違い無い」
「そう・・・・・・ですか」
櫻井は、まだ信じられないと言いたげな表情を残していたが、それ以上は何も言わなかった。
「アンガー、そろそろだ」
「ああ」
エリックがアンガーに何か言うと、二人は席から立ち上がる。
「こんな時だが、兄ちゃんがそろそろ行っちまう時間なんだ。寂しいが、仕方無い。ちょっくらお別れしてくるよ」
「僕も行くよ。ブレインくんには、お礼を言わないとね!」
ジェームズも慌てて立ち上がると、二人と共に、室内から出て行く。
結果、残ったのは、櫻井、ダリアの二人だ。
「一つ、確認しても良い?」
ダリアが、三人が出て行くのを確認してから、口を開いた。
「どうして、私達の中に犯人がいるという事になったの?私も、疑いたくは無いのだけれど、避難民の中にも、犯人がいるという可能性は、零では無いと思うんだけど?」
「うーん、それはこうじゃないかな。ほら、僕達は、このトラック用の合鍵ならちゃんと持っているけれど、武器輸送車の鍵は、アンガーさんとエリックさん、あとは、ジェームズさんしか持っていないからじゃないですか?」
「・・・・・・そう」
「もっとも、それだと犯人は、あの三人の内の誰かって事になってしまうんですけどね」
櫻井は、苦笑を浮かべる。
そして――。
「動かないでくれるかしら?」
ダリアは、いつの間にか席から立ち上がっており、その手には、拳銃が握られていた。
その銃口は、櫻井へと向けられている。
☆☆☆
「何のマネですか!?」
銃口を向けられた櫻井は、冷や汗をかきながら、驚きの表情を浮かべている。
「よくもまあ、ころころと表情が変わるのね」
「お、落ち着いてください、ダリアさん!ここは冷静に――」
「冷静よ、私は。だからこそ、あなたの言葉を聞き逃さなかった。あなたが、武器輸送車から武器や弾薬を盗んでいた犯人だと分かった」
「何を根拠にですか?」
櫻井は、変わらず驚きの表情だ。
「あなた、言ったわよね?鍵を持っているのは、アンガーとエリック、それと、ジェームズだって」
「そ、それがどうしたって言うんですか?」
「あなた、どうしてジェームズが、武器輸送車の鍵を持ってるって知ってたの?」
ダリアは、冷たく、そう言い放った。
櫻井は、ここで初めて、自分が本当の冷や汗をかいている事に気付いた。
「そ、それは・・・・・・」
「もしかしてだけど、その鍵って、これの事?」
チャラリと、ダリアは、銃を持っていない方の左手で、自分のポケットから、一つの鍵を取り出すと、櫻井の顔の前に垂らした。よく見れば、その鍵には昔、流行っていたヒーローのストラップが取り付けられていた。
「その鍵は・・・・・・!」
「あら?その顔は知っているって顔ね。変ねぇ、確かこの鍵をあなたに見せたのは、これが初めてのはずなんだけど?」
ギロリと、ダリアの目は怪しく光ると、更に、こう言った。
「ねぇ、アンガーとエリックの二人が鍵を持っているのは、私も知っている事だから良いとして、どうして3本目をジェームズが持っているって分かってたの?」
「それは、僕がこの前、ジェームズさんがそれと同じ鍵を持っているのを見て――そう、そうだ!きっと、ジェームズさんが、武器輸送車に何か用があった時に、誰かから借りていたんだ!だから――」
「また、引っ掛かったわね」
ダリアは、櫻井の言葉に溜息を吐いた。
「は?何を言って――」
「3本は嘘よ。本当の鍵は、ジェームズのも含めて、4本あるの――でなきゃ、私もこの鍵を持ってる説明が付かないじゃない」
「――な!?」
「ここでボロが出るなんて、残念だったわね。大方、前にアンガーかエリックのどちらかと武器輸送車に入った時に、鍵にこのストラップが付いているのを確認したんでしょうね。そしてあなたは、ジェームズの鍵にも、同じストラップを付けているのを見て、ジェームズも鍵を持っているって思ったのかしら?」
「でも、もっと観察するべきだったわね。いえ、もちろんあなたの事だから、ちゃんと調べたんでしょうけれど、生憎、私は武器輸送車に入る事はまず無いから、私は鍵を持っていないと思ったんでしょうね」
全てを話し終えたダリアは、また、櫻井を睨み付け「何か間違っているところがあるかしら?」と、櫻井に問う。
「・・・・・・そうですね。まずは、あなたの推理劇に感服しましたよ。ダリアさん――ですけど、どうするつもりですか?今、ここにいるのは、僕とダリアさんだけです。アンガーさん達にこの事を話したところで、彼らはそう簡単には信じてくれませんよ。仲間をとても大切にしますからね」
「――それは、自分を犯人だと認めたという事で良いんだな?」
「――!?」
突然聞こえたその声と同時に、勢い良く扉が開いた。
「やはり、お前だったんだな――櫻井!」
そこにいたのは、他の武装した兵士達を連れた、アンガーとエリック、二人の姿だった。
推理物は、あまり得意ではないため、よく分からない点もあるかと思います。できれば、ここはこうした方が良いなど、アドバイスをしてくれれば嬉しいです。