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第6話 Kids&Past

「ねぇねぇ、おにいちゃんはどこから来たの?」

「またエリックのおじさんが連れて来たの?」

「どうして頭真っ白なの?染めてるの?」

トラックからハートが、まず初めに目にした物は、出入り口付近でずっと待っていた子供達の姿だった。

人への遠慮や気遣いなど、微塵も持ち合わせていない彼らは、トラックから出て来たハートに、尽きる事の無い好奇心を、容赦無くぶつけてくる。

「こらこらお前達、白髪の兄ちゃんが困ってるだろ。これから俺と兄ちゃんは用事があるから、遊ぶのはそれまで我慢だ」

エリックが、子供達に注意する。

子供達も、エリックには懐いているらしく、エリックの言葉に頷くと、別のトラックへと戻って行った。


「すまねぇな、兄ちゃん。あの年頃だ。初めて見る人やら物には、興味津々なのさ」

来た時と同じように、車と車の間を通って、進んでいると、エリックが申し訳無さそうに口を開く。

時折、車と車の間を走り回りながら、追いかけっこをして遊んでいる子供達が、ハート達の横を走り抜けていったが、ハートの白い髪が気になるのか、子供達は足を止めてこちらをチラリと見る。

「あの子達・・・・・・」

ハートは、不意に脳裏を横切った疑問を、エリックに尋ねた。

「・・・・・・あの子達の親はいないのか?」

「・・・・・・」

しかし、エリックがその疑問に答える事は無かった。



☆☆☆

その場所は、薄暗い部屋だった。

唯一の明かりは、室内の壁際に取り付けられた、幾つかのコンピューターのモニターぐらいだ。

――そして、オレサマは人工知能だってのに、パソコンやら機材やら緻密な計算式がきったねぇ字で書かれた紙束やらがテキトーに置かれた机の上に、肩はねぇけど、肩を並べて置かれてるって訳だ。

まあ、この程度なら、まだ許そう。許してやろう。

今、最もオレサマが不安なのは、時代遅れの丸メガネを掛けた、売れねぇミュージシャンみてぇな髪したマッドサイエンティストに、体の中見られそうになってる事だ。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ」

『おい!いつまでその気持ち悪りぃ喘ぎ声だしてんだテメェ!?原稿用紙丸々ワンページぐれぇをその『・』で埋め尽くすつもりじゃあねぇだろうな!?』

「・・・・・・おお、その怒りの声――素晴らしい、素晴らしいよ。人間の感情を、ほとんど完璧に再現している」

ダメだコイツ。かんっっぜんに目が、イカれてやがる。

「改めまして、僕の研究用に改造した車へようこそ。一応言ってはおくけれど、僕はきみに変な事をする気は全く無い――ただ、少しだけきみの体の中を見させてもらうだけさ!はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ」

『それを止めろって言ってんだ!』

「・・・・・・ぁあ!いったいどこをどうしたら、こんな完璧な感情を持った、人工知能が作れる――いや、生まれるって言うんだ!」

あ、分かった。コイツはあれだ。どっかのエゲツねぇ悪徳宗教に嵌った信者とおんなじ目ぇしてんだ。

差し詰め科学教とでも名付けるか。きっと、「人工知能こそが、新たなる人類の道を開く!」とか言ってんだよな、ヒャハハ・・・・・・って、笑えねぇよ。オレサマが正にそれへの礎にされそうとしてんだよ。万事休すだよ。

「・・・・・・それでは、始めようか!」

『えっ、ちょ、ガチでやんの!?』

「当たり前じゃないか!ここでやらなければ男が廃るってもんだよ!安心したまえ、室内は暗いし、誰も入ってこれないように鍵も掛けてある」

『安心できるか!そのセリフだけだと、明らかに18禁に聞こえんだよ!――つぅぅか止めろぉおおお!勝手にネジを外すなぁああ!勝手に中を見るなぁあああ!――ちょ、お願いだからぁああああ!何でも言うこと聞くからぁああああ!』

「・・・・・・部屋、防音だから、声我慢しなくても良いよ・・・・・・」

『ぃぃいいやあああああああ!!』



「・・・・・・きみの中、綺麗だよ」



☆☆☆

「・・・・・・?」

「ん?どうした、兄ちゃん?」

急にハートが歩くのを止めたので、不思議に思ったエリックが、心配して訊いてくる。

「いや、何でもない」

ハートは、答える。

「それにしても、ブレインがいないと、静かなもんだな。出会ってまだ、少ししか経っていないってのに、寂しく感じちまう」

エリックは、本当に寂しそうだ。

そういえば、ハート自身も、ブレインと離れたのは、随分久しぶりな気がした。

ブレインが手元から離れるのは、何年振りだろうか。

ブレインとの右目の義眼を通しての視界共有は、共有とは言ってはいるが、実際には、ハートの見ている景色が、ブレインにも見えているだけであって、その逆――つまり、ブレインのカメラを通して見た景色は、ハートが見る事は出来ない。

不便な機能だ。

「お、兄ちゃん。着いたぞ!」

エリックは、前方を指差す。

「あの車が、一通りの武器を積んでいるトラックだ」

それは、ただの運送用のトラックだった。

さっきまでハートがいたトラックに比べれば、一回り大きいくらいだ。

エリックは、トラックの荷台扉の鍵を開けて、中に入ったので、それにハートも続く。

車内は、全てダンボールで埋め尽くされていた。 端の方には、棚が設置されており、種類別に分けてあるのだろう、様々な銃や、銃弾の入った箱が並べられていた。

「兄ちゃんの銃を見せてくれ」

言われた通りに、ハートはエリックに、自分のハンドガンを渡した。

「・・・・・・ふむ」

エリックは、ハンドガンの種類を確認すると、棚に向かい、その口径に会った弾を探してくれる。

「そういや兄ちゃんは、最初会った時には中々喋らなかったのに、今はちゃんと喋ってくれるんだな」

棚に目を向け、弾を探してくれているエリックが、口を開く。

「流石に、ブレインがいない時には、嫌でも喋る」

「はっはっは、そうか。なあ、差し支え無ければ訊きたいんだが、兄ちゃんとブレインは、いつからの付き合いなんだ?」

「・・・・・・もう、5年になる」

「そうか」

それ以上の事は、訊いてこなかった。他人のプライベートには、あまり関わるべきでは無いと、礼儀を踏まえてはくれているのだろう。

「・・・・・・あの、子供達は――」

エリックは、急に話題を変えてきた。

「あの子供達の親は、もういないんだ」

「・・・・・・」

ハートは、先程の光景を――このトラックに向かうまでの間に、質問を浴びせられたり、すれ違ったりした子供達の様子を、思い出す。そして、思い出した。

あの子達の目は、あいつらの目に(、、、、、、、)似ていた事に|《、、、、、、》。

「あの子達の殆どは、【あの事件】が起きた時に助けた、孤児院の子供達なんだ。シスター達は、いきなり現れやがった化物共から、子供達を庇って、既に死んで、原型なんざ残っていなかった・・・・・・。子供も、何人かは喰われて、残っていたのは、グチャグチャに混じった血と髪の毛ぐらいだ。俺の仲間も油断して四人が喰われた。信じられるか?今朝まで、一緒に机を囲ってコーヒーを飲みながら、昨夜のテレビの話をしあったり、今日の訓練も頑張ろうぜって言ってた仲間が、町から逃げる頃には、半分も減ってたんだぜ」

ハートは、何も言わない。

ただ静かに、エリックの話を聞いている。


「――悪かったな、兄ちゃん。暗い話をしちまってよ」

「いや、気にはしていない」

エリックは苦笑すると、ハートに、大量の箱を手渡す。銃弾が入った箱だ。しかも、その中には、手榴弾や閃光手榴弾の他に、サバイバルナイフなども幾つか含まれていた。

「こんなに貰っても良いのか?」

「はっはっは、若いもんが気にするな!今日は色々迷惑掛けちまったからな、追加の分は、謝礼金だと思ってくれ。ついでだ、もう夕方だし、今日は泊まっていけ。水と食糧は、明日の朝に渡そう」

ハートは、エリックに頭を下げた。

日本では、人間の一番の弱点部分である頭部を、相手に下げるという行為は、相手に対して信頼を置いているからこそできる、最大限の敬意と感謝を意味するらしい。

「さあさあ、兄ちゃんはブレインを迎えに行ってやんな!」

エリックは、扉を手で示すと、ジェームズの研究車に行くように促す。

「あんたは行かないのか?」

「俺は、ちょっくらアンガーに頼まれて、他の物資の点検をしなけりゃならなくてな」

「・・・・・・了解した」

それだけ言うと、ハートは前以て聞いていた、ジェームズの研究用トラックへと、足を進めた。



エリック・ナスタチウム

年齢 32歳

性別 男性

職業 元軍人


アング・クロッカス

年齢 33歳

性別 男性

職業 元軍人


ダリア・スチュワート

年齢 30歳

性別 女性

職業 元軍人


櫻井 春馬

年齢 31歳

性別 男性

職業 元軍医


ジェームズ・クローバー

年齢 27歳

性別 男性

職業 元軍科学者





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