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第3話 Trust&Bald

砂嵐に襲われた時に、偶然にも周辺の見張りで通り掛かってくれた男性――エリックに助けられたハートと人工知能ブレインは、トラックの荷台に乗せられて、エリック達が拠点としているベースキャンプへと向かっていた。

「兄ちゃん、見えてきたぞ!」

トラックを運転するエリックが、荷台に乗るハートにベースキャンプが見えてきた事を告げる。

『おお、確かにアレだな。複数の人間共の生体反応がビンビンしてやがる』

ブレインがそんな事を言ってくれるので、ハートはわざわざ振り向いて確認せずに済む。

『ヒャッハ!生きた人間に会うのは久々だな!』

確かに、言われてみればそうだ。人間に会うのはいったい何ヶ月ぶりだろうか。時が経つのは早いものだ。

まあ、何はともあれ早く着きたい。そろそろお尻が硬い荷台のせいで痛くなってきた。

ハートは、何気なく視線をそのまま空へと向けた。そこには見渡す限りの広大な青が広がっており、太陽はそろそろ空の真ん中までに差し掛かっていた。



☆☆☆

ハート達がトラックに揺られること20分は経っただろうか。速度制限など存在しない砂漠地帯を軽快に走り抜けていたトラックのスピードが緩んだのをハートは感じた。

やがてトラックは、完全にその場で止まる。

「長い事ご苦労だったな、兄ちゃん。やっと到着したぜ」

エリックにそう言われて、ハートはトラックの荷台から立ち上がった。立つ時に少しよろめいたが、問題無くハートはトラックから降りる。ベースキャンプとは言っていたが、やはりここも変わらず砂の上だ。細かい砂が、脚を深く沈み込ませる。

まず、周囲を見渡す。ベースキャンプといえど、気楽にテントをなどを張っている訳ではない。ただ、何台かの乗用車やトラック、大型バスなどが密集して停めてあるだけだ。そしてやはり、キャンプ場の入り口付近には、武装をした大人が二人、見張りをしているようだ。確かに、いくら人喰い蟻(ギガ・アント)が砂嵐や車のエンジン音が苦手だからといって、いつ砂嵐を突破するか分からないし、車のエンジンも四六時中掛けっぱなしという訳にもいかないだろう。

「改めまして、ようこそとでも言おうか」

背後で、先にトラックから降りたエリックが話し掛けてきたので、ハートは振り返る。

トラックに乗っている時は、少し振り返って話しただけで、よく顔などは確認できなかったが、予想した通りの男だ。

声の質と大きさからして、やはり、かなり鍛え上げられた身体と筋肉だ。背丈も、2メートル近くはある。

『おお、やっぱりおっさんはムキムキじゃあねぇか!これなら防弾チョッキいらねぇんじゃねぇか!ヒャハハ!』

「はっはっは、これでも元軍人だからな!」

『さながら筋肉隊長ってか?ヒャハハハハ!』

ブレインとエリックは、豪快に笑い声を上げる。周りから見れば、ブレインの本体はポケットに入れてあるため、ハートが無表情なまま、狂ったような笑い声を、筋肉質なおっさんと一緒に上げているという不気味な光景が生まれていることになる。

「では改めて、よろしくな!」

右手をこちらに差し出してくるエリック。それにハートは、被っていたフードを脱ぐと、同じく右手を差し出す。

この時、ハートのどこまでも白い髪が露わになる事で、エリックは少し呆気に取られたが、すぐにニッコリ笑うと、がっしりと握手を交わした。

「五月蝿いぞ、エリック!」

と、いきなり怒鳴り声が上がった。声がした方を見ると、そこにはサブマシンガンを手に持った、男性が毛の無い頭に血管を浮かび上がらせていた。

「誰だその子供は!?」

男はまた怒鳴る。

「おお、『アンガー』。紹介しようじゃないか、こいつらはハートとブレインと言ってな、砂嵐に巻き込まれ掛けてたから助けた(、、、)んだ」

アンガーと呼ばれた男性が、『助けた』と言う言葉に反応し、耳がピクリと動いたのがハートには分かった。アンガーは、すぐさまエリックの胸元を掴むと、また怒鳴り散らす。

「エリック、正気か!?これから先、食糧や水は更に温存しなければならないって時に、また生き残りを連れて来るなんてどうにかしてるぞ!」

「まあまあ、そう言うなって。軍人が人を助けんのを止めちまったら、ただの戦争好きの筋肉野郎になっちまうぜ」

「限度ってモンを考えろ、限度を!だいたい、お前はいつもどっかから人を連れて来たかと思ったら、保護しやがって!しかも今回は二人?二人だと!?お前は俺達をスルメにでもする気か!?」

「落ち着けってアンガー。言い方が悪かったな。確かにさっきの言い方だと、助けたのは二人みたいに聞こえるが、実際は一人だ、」

エリックは両手を顔の前に広げ、馬を扱うように、アンガーをどうどうとなだめる。

「なんだその訳の分からない台詞は!?俺は貴様とくだらん問答をしてるんじゃないぞ!」

むしろ逆に怒らせてしまったらしい。流石のエリックも、参ったような顔をしている。そろそろ助け舟を出した方が良いかもしれない。そう思ったハートは、ポケットからブレインの本体でもある携帯型端末を取り出すと、それをブレインが察したのか、ブレインは彼らの話の仲裁に入る。

『おいおいおっさん、確かにそのセリフじゃ意味不明に聞こえんのも無理ねぇぜ』

しかし、流暢に話すブレインの本体を見たアンガーは、そこでギョッとした表情を浮かべて(ついでにハートの白髪を見て、二重に驚く)物騒にもこちらにサブマシンガンの銃口を向けてくる。

「おい、なんだそれは!日本でいう腹話術か!?」

まあ、普通ならそう反応するだろう。エリックの時は、驚きつつもすぐに打ち解けていたが、全ての人がそういう反応をする訳がない。

『おっさんも落ち着けよ。アンガーっつったか?名前の通り、怒りまくってんな。おっさんの親御さんはなかなかのネーミングセンスっぷりだ。産んでもらった事に感謝しろよ』

ま、オレサマは開発連中どもには微塵も感謝なんざしてねぇんだけどな!ヒャハハ、と何が可笑しいのか、ブレインはゲラゲラ笑う。

『言うのがひとゼリフ遅れたが、これは腹話術でもなけりゃパペットマペットでもねぇ。正真正銘オレサマが自分の意思で喋ってる――言わずと知れた人工知能、ブレイン様だ!跪きやがれ、神々の失敗作共が!』

「黙れ、人類科学の失敗作が。仲裁を入れる方が、火に油を注いでどうする」

『誰が失敗作だコラ!今までこのオレサマがどんだけテメェを助けてやったか忘れたのか!?だいたいテメェはいつもいつも――』

ブレインがぎゃあきゃあ喚くのを、ハートはいつも通りに無視する。次いで、ハートは、目の前でブレインが喚き散らすのをポカンと口を開けたまま聞いていたアンガーに話し掛ける。

「そういう事だ。理解してくれたか?」

「・・・・・・」

アンガーは何も言わずに、戸惑いながらも頷いた。すぐ隣にいるエリックは、さっきのハートとブレインのやり取りに、腹を抱えて笑っている。



☆☆☆

「すまないな。こんな事になってしまって」

ベースキャンプ内を歩く中、エリックは隣に並んで歩くハートに謝罪をしてくる。

「いや、ブレインがいる時点でこうなる事は予想できた」

「おい、グズグズしてないでとっとと歩け」

次に、ハートの前方を歩くアンガーが、苛付いた様子で命令してくる。

先程、ハートとブレインについてある程度の理解をしてくれたアンガーではあったが、それでもエリックのように、完全に信用してくれた訳ではなく、結局、このベースキャンプの統率をそれぞれ任されているベースキャンプ設立者達(エリック、アンガーを含む)によって、話し合いを行う事で、改めてハートとブレインを信用しても良いかどうかを決める事にしたらしい。

『なんだか、面倒クセェ事になっちまったな・・・・・・』

「その面倒事を実際に片付けるのは俺なんだけどな・・・・・・」

ブレインが悪態を吐き、更にそれに対してハートは溜息を吐く。

彼らは、ただ水と食糧を分けてもらうため、砂漠の中を丸一日歩いて来たというのに、どうやらまだ、目的の達成は遠いらしい。

ハート達はその後、ブレイン以外は基本的に何も話さずに、密集した車の間を通り抜ける。途中、キャンプ場の警備をしている大人や、車の間を走り抜けて遊ぶ十代前後の子供達にこちらをジロジロ見られたりもしたが、ハートは無視し、エリックはニコニコしながら手を子供達に向けて振るだけで、特に問題にするような事は何も無かった。

やがて、先行して歩いていたアンガーは、一台のトラックの前で止まった。

大きさは中型で、荷台部分はエリックが運転していたものとは違い、箱型だ。

その中にアンガーは入るように、ハートに促す。続いてエリック、アンガーがトラックの荷台内へと入る。

『ほぉ、これはこれは』

ブレインは、そのトラック内部に関心したような反応を示す。

確かに、これは凄い。

トラックその物は、外部から見れば、ただの運搬用トラックにしか見えないが、このトラックの荷台内には、様々なコンピューター機器が設置されていた。それぞれの機械は、暗がりの荷台内で、怪しげな光をぼんやり放っており、どれもが正常に稼動している事が分かる。

そして――いや、真っ先にハートの目が向いたのはそこだった。先にブレインが大量の機械に反応したために、ハートも釣られて機械に反応したが、すぐにハートは、トラック内部の中央に目を戻した。そこには、円卓が置かれており、円卓の周りを囲って二人、男女が座っていた。

男性の方は、アジア系の人種のようで、黒いフレームが特徴の眼鏡を掛けている。迷彩服を着ていて、軍人のようだが、手足はエリック達のように鍛えてあるようには見えず、顔付きもヒョロっこい。

女性の方はといえば、これまた男性の方とは逆で、一見ウエストなどは細く見えるものの、その両腕にはしっかり鍛え上げられていて、がっしりとしている。

「待たせたな」

口を開いたのはアンガーだ。

「話は、さっき無線で伝えた通りだ。この少年の尋問を行・・・・・・『ジェームズ』はどうした?」

「さっき無線で連絡があって、遅れるそうよ」

女性がアンガーの疑問に答えると、アンガーは、溜息を吐く。そして、しばらく考えるように腕を組むと、「仕方ない」と言葉を漏らした。

「一人足りないが、尋問を行う。ハートとか言ったな、その椅子に座れ」

言われた通りにハートは、円卓と共に置かれた椅子に腰を下ろした。その後、アンガーとエリックも、椅子に座る。これにより、ハートは、円卓で完璧でら無いにしろ、ほぼ四人と向き合うような形となった。

「今から、俺達の質問に答えてもらう。半端な嘘や誤魔化しが通じると思うなよ」

『はっ、上等だぜ。なんでも来やがれ、茹で卵野郎!』

ブレインの発した言葉に、エリックが吹き出したのを見て、この時に沸いた怒りとエリックの表情を、アンガーは忘れなかったという。


現地球――とある事件をきっかけに、僅か半年足らずで生物の大半が死に絶え、気温の急激上昇、海などの環境汚染により、死の星となってしまった。


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