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しんでれら(逆)  作者: マオ
8/10

(逆)の理由。そのいち・いじめられない

 お母様が、再婚したいと言い始めた。

 確かに、お父様が亡くなってからもう幾年。女公爵とまで呼ばれて、この国のため、民のために心を砕いているお母様が、再びご自身の幸せを願っても良いとは思います。

 娘としては複雑です。お父様のことを忘れたわけではないのでしょうが。

 でも、お母様が望むのなら、と、思いました。


 ――相手の話を聞くまでは、でしたけれども。

 相手が、下町の庶民。しかも子持ち。格好良いというわけでもない、普通のおじさん。

 何一つ、お母様の得にはならない相手です。


 反対しよう。わたくしはそう思いました。

 公爵家の長女として、お母様の娘として、家にも母自身にもよくない話ならば反対して止めないといけません。


 が。


「お嬢様。こちらをご覧ください」

 我が家に努めているメイドが、差し出した書類。

「……これは?」

「調査報告書でございます。奥様の懸想なさっている相手とその子供について」


 ええ、目を通しました。通すでしょう? いつも思うけれども、このメイド、どこに情報網を持っているのかしら。わたくしにも分からない場所からでも情報を持ってくるのだけれども、一体何者。

 仕事ができるから良いのだけれど……ちょっと怖いわ。


 お相手。結構お年を召している。お父様よりは若いわね。まぁ、両親は政略結婚で年の差があったから。

 子供は娘が一人。あら、わたくしよりも年下……末の妹よりも下なのですわね。妻が流行り病で死んでしまって、男手ひとつで育てている、と。

 まぁ、苦労なさっているのね……あら、娘もなかなかに苦労を、して……いる……ような……。


「確認したいのだけれど、これは、事実?」

「脚色は致しておりません。全て書かれているままでございます」

「……………………そう。では、このままにはしておけないですわね」


 下町は犯罪が起こりやすいとは聞いていたけれど、治安が悪いとは聞いていたけれど!!

 年ごろの娘が、いたずら目的でかどわかされようとしたり、人身売買目的で拉致されそうになってたりするのは言語道断ですわ!!


 幸い、娘は父や周囲の人たちの努力と防御でなんとか護られているよう。

 見目が麗しいとのことなので、変質者に目をつけられやすいよう。

 しかも、しっかりもののようで抜けている。親切すぎて、裏切られていることにも気づかずに、傷つけられても私が悪いのと微笑むような娘で。

 下町では天使と呼ばれているとのこと。父親のほうはお人好し、と。

 それはもう、天然で無茶をやらかすのに、一生懸命なものだからほのぼのしてしまう、と。


 自分をさらって売ろうとした相手の怪我まで心配してしまうような、娘。


 ……………………保護しなくては……ッ!!

 このような天使みたいな娘を、無法な場所に放置などしておいてはいけませんわッ!!

 この父親のほうも、放っておいたら悪辣な輩に狙われてカモにされてしまいそうですもの!


「動きます。手を貸して頂戴」

「動かれるのですか? 邪魔をする方向で?」

「違います。むしろこの結婚を押しますわ。お母様が思慕を寄せている相手、その娘はわたくしが保護したい娘。放っておけませんもの」


 そして、下町の治安状況も放ってはおけませんわ。あそこは確か、ライノベルト侯爵家の馬鹿息子がふらついているはず。あの能天気能無し一家が、治安になど気を使うわけがない。

 そして、放っておいたら、下町の娘たちがあの放蕩息子の餌食になりかねない。


 今のところは、下町の女王様とやらが目を光らせているので大事には至っていないようですけれど、放置していい問題でもない。

 そろそろあの家も没落させ……いえいえ、息子の放蕩をいさめないといけませんわね。

 下町の情報網もなかなか利用しがいがあるようですし……これを機にツテを広げるのも良いわね。

 自国のほうは妹に任せて、わたくしは他国の情報を得ることに重きを置いていましたが、まかせっきりも負担になるでしょうし、良い機会ですわ。


「…………ところで、この報告書は、故意?」

「いいえ、事実をしたためたものです」

「貴女、相変わらずね……」


 本当にこのメイド、怖いわ。わたくしの性格を熟知しているもの。

 下町の状況。情勢。娘が置かれている場所。父娘おやこのことを調べたと言いながら、その実はこの父娘を護るために報告書を上げたようなものでしょう。

 ふう、と、軽くため息をついてメイドを睨んでみた。まぁ、わたくしが睨んだところでこのメイドがひるむわけがないのですけれど。


「貴女、どちらの味方なの?」

「奥様の味方でございますとも」

「…………母はこの方と結婚したほうが幸せだと?」

「少なくとも、旦那様とのような生活にはならないかと。寂しい思いだけは、なさらないと思われます。どちらの方も、とてつもなくお優しくお人よしですので。貴族には向いておられないでしょうが」

「はっきりものを言うこと。貴族の役目も果たせない相手を選んで、母には苦労しかないでしょう」


 濁った貴族社会に、下町しか知らない相手が突然放り込まれて生きていけると?

 こんな――治安の悪い場所でも天使とか言われるようなお人よしの父と娘が。


「奥様は、それでもかまわないと仰せです。疲れたときは支えてくれるでしょうし」

「夫と妻の役割が逆ではなくて?」

 言うと、メイドはなんだか楽しそうに口元だけを笑わせた。肉食獣みたいよ、止めて頂戴。


「…………まぁ、良いわ。反対しようと思っていたけれど……」

 お母様が癒やしを求めているのなら、しょうがないわ。


 とりあえず、下町の掌握から始めましょう。アデリーナはどこまで掌握……把握しているのかしら。あの娘も貴族社会のほうの掌握……把握から始めているはずだから。

 まずは下町の治安改善。人手が必要になりますわ。雇用問題も解決できるでしょうが、まず警備の人間を鍛え上げて配置しなくては。


 何よりも、新しい家族になる二人が、この家に来られるように手配をしなくてはね?

 ごめんなさいね、お義父様、シンデレラ。あなたたちがわたくしの家族になることは、もう決定してしまったの。


 恨むのなら、こんな報告書を作り上げて、わたくしに見せたこのメイドを恨んで頂戴ね?


 大丈夫、護ってあげるわ。わたくし、身内には甘くてよ。

 欠点でもあるのですけれどね。治す気もありません。諦めて頂戴ね。

いじめられません。え、これ本当にシンデレラ? っていう理由が後二つ。

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