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しんでれら(逆)  作者: マオ
6/10

六話目

 靴のせいで靴擦れして足が痛い私の名前はシンデレラ。


 ガラスでできた靴って……これなんの嫌がらせ? 一曲踊れたのが奇跡だわ。歩いただけでものすっごく固くて痛いのよ。それで一曲踊ったのよ私。

これ、絶対実用的な靴じゃない。観賞用でしょ。なんで私に履かせたの、あのへんなおばあさん。

やっぱり、嫌がらせ?


 ここまで凝った嫌がらせされるようなこと、したのかしら?


 とりあえず、足が痛いから、座っても良いかしら。でも、お義姉様たちと、身分のあると思う男の人がにらみ合ってて、動けないんですけど。


 あの人も足が痛いと思うんだけど。私、思い切り何度も踏んだし。手当てしないと腫れあがると思う。

 靴、ガラスだから、固いし。重いし。普通の靴で踏まれるより、痛かった、わよね?


 あ、お義母様もこちらにいらしたわ。お父さん……は、壁際で固まってる。青い顔しているけど、緊張、してるっていうより、なんだか血の気が引いている感じ。どうしたのお父さん??


「こちらにいらっしゃい、シンデレラ」

 お義母様に呼ばれて、私は真っ先に飛びついた。

「はい、お義母様!」

 足が痛いんです! とっても!!

 お義母様に近寄る私の背後を、お義姉さま方が囲んでます。どうしたのかしら。なんだか、こう、壁というか、バリケードな感じがします。


 首をかしげた私を、お義母様が呼びました。

「どうしてそのような格好で……? 貴女は華美なドレスやアクセサリが苦手でしょうに」

「あ、なんだかよく分からないんですけど。見たことないおばあさんがおうちの中に居て、どうしたのって声をかけたら、急にこんな格好に。馬車に押し込まれて、おりたいって言ったんですけど、全然聞いてもらえなくて……そのままどうしてか、お城に」

 ほんとに困ったんです。そう言うと、お義母様は私をむぎゅっと抱きしめてくれました。


「可哀想に……誘拐同前じゃあないの! ドレスもアクセサリもとってもよく似合っていて、とてもとても美しく可愛らしいけれども、恐ろしい思いをしたでしょう!」


 お義母様、理解してくれてとても嬉しいです。でも、乳圧で窒息しそうです。

 これいつか本当に殺人事件になるわ。私、乳圧で死ねちゃう。苦しいですお義母様。


(お義母様の乳圧に埋もれているシンデレラには見えていなかったけれども、お義母様はお義姉さまたちよりも数段恐ろしい視線で王子様を睨んでおります)


「やぁやぁ、恐ろしい目にあったねぇ、シンデレラ。私ともう一曲踊って恐怖を忘れないかい?」

「…………ほほほ。アルエット殿下、末娘がご無礼致しました。何せこの娘は物を知らずにおりますから、礼儀作法なども何一つ身についておりませんもの。これ以上のご無礼を許すわけにはまいりませんわ。娘は連れて帰ります。家で説教しませんと」

「説教! それはうらやま……いやいや、そのような可哀想なことはしなくても良いよ。私としても、とても楽しい時間だったからね。美しい娘にいいだけ踏まれ……踊れて、とても嬉しかったよ」


 え、殿下!? 殿下って殿下!? ちょっと待ってください、私が足を踏んだ人、本当に王子様?!

 あああああ、謝らないと、頭を床にこすり付けるようにして謝らないと!!

 下手をすると、お義母様やお義姉さま方にも迷惑がかかっちゃう!!

 あと、お父さん斬首になっちゃうかも!! いやああああ、謝らないとぉおおお!!


 でもお義母様が離してくれない。あの細い腕のどこにこんな力があるのかしら。動けないんですけど。

 あれー? 私、下町育ちで、結構たくましく育ってるから、力もあるはずなんだけどなぁ。お義母様は重たい物なんて持ったことないってくらいの貴族様のはずなんだけどなぁ??


「お、お義母様、あの、私、謝らないと」

「まぁ、何故?」

「た、たくさん足を踏んじゃったんです。きっと、腫れちゃうくらい痛いはずなんです、私、あ、謝らないと」

「まぁ……なんて優しい娘。貴女の優しさが母はとても愛しいわ」

 頭撫でてくださるのは良いのですが、えっと、謝らせてください。というか、私、幼児じゃないんですけど……お義母様良い香りなので、まぁいいか。


「ああ……聞いていたとおり、本当に優しくて良い気立ての娘だねぇ。うんうん、美人だし、物も知らないようだし、とてもとても可愛らしい。この天然具合がたまらないね」

 ……ハイ?

 なんか王子様が誤解してらっしゃいますヨ?

 もの知らずなわけないでしょ、私、下町育ちのたくましい娘ですよ?


「オホホホ。殿下、下町育ちの世間知らずで物も知らない娘ですわ。殿下の興味を引くようなことは何もございません(可愛いシンデレラにこれ以上ちょっかいかけないでくださいまし。可哀想に、困っているでしょう!?)」

 あれ、マデリーンお義姉様の声が、聞いたことないくらいに固くて冷たい。お、怒ってらっしゃる……? 私がここまで来て、王子様の足踏みまくっちゃったから!?

「オホホホ、全くその通りですわ。ものを知らないので、殿下の御前に参ることすらさせられませんもの(これ以上可愛い妹をこの変態王子の前に置いておきたくないですわ! 変な風に染まっちゃったらどうしてくれますの!?)」

 アデリーナお義姉様まで!? すごく冷やっこい声なんですけど、よよよ、よっぽどお怒りなんだわ。

「オホホホ、殿下ったら、このような小娘に気をお使いになることなんてありませんわ。放っておけばよろしくてよ(というかもう声をかけないで視線を向けないで! わたしたちの可愛いシンデレラが汚れちゃう!)」

 いつも明るくて優しいサディーシャお義姉様も!?


 お義姉さまがたのこんな声、聞いたことない……本当にお怒りなんだわ……ああ、もう、帰りたい……でも帰ったららすごく怒られそう。勘当されちゃったりするかも。

 せ、せめてお父さんと離縁は勘弁してあげてください。やっとこの生活に慣れつつあったんだから、私は勘当されてもお父さんは……!


 お義母様の腕の中から、なんとかお父さんのほうを見たら、壁際で頭を抱えてしゃがみ込んでた。

 ……貧血起こしたのかしら!? 大丈夫お父さん!? それとも頭痛!? 風邪!?


「ホホホホホ。殿下、申し訳ございませんが、娘は連れて帰ります。いろいろと、シツケておくことがございますもの。特に、変態への対応の仕方などを」

「ははは、やぁ、それは大事だね! 対応を学んで、より酷く罵って……いやいや、厳しくしてもらえるといろいろ滾る……ああ、これから先が楽しみだ! シンデレラ!」

 いきなり呼ばれてびっくりしたわ。お義母様が離してくれないので、顔を向けることもできないのだけれど、なんとか謝らないと!

「ああああああの、ご無礼を致しました、どうぞご容赦くださいませ!!」

「無礼なことなど何もないよシンデレラ! とても充実した時間だった……君に逢えたことが人生最大の幸福だ!」


 ええええええ!? なんで!?

 結論早くない!? さっき会って一曲踊っただけでしょ!?

 しかも足踏みまくって無礼だらけだったわよ私!? なんで人生最大の幸福レベル!?


 そしてそれを聞いたお義姉様がたが豹変しました。ものすっごく険しい声で言い放ってます。


「帰りましょうお母さま! お義父様!」

「そうですわ、帰りましょうお母さま! お義父様!」

「ええ、もう本当に帰りましょうお母さま! お義父様!」

「そうね、帰りましょう。退出させていただきますわ殿下。あなた、あなた! 大丈夫ですか? ご気分が悪いのでしょう? シンデレラと娘たちと一緒に馬車のほうへ行っていて下さいまし。わたくしは陛下と妃殿下にご挨拶してから退出しますわ」

「あ、ああ……そうします……よろしくお願いします。し、シンデレラ、シンデレラ、大丈夫か?」

 どうしたの、お父さん。私は大丈夫よ、ちょっと足が痛いくらいで。




 お義姉様がたとお父さんに周りを囲まれて、私は馬車乗り場へ連れていかれました。

 ……皆、怒ってる……?


 と思ったんだけれども、馬車に乗ってからお義姉さま方はいつもの優しいお義姉様方に戻ってました。

 またもやもぎゅっと抱きしめられて、乳圧殺人事件危機何度目か。


 あ、靴は馬車の外に投げ捨てられました。靴擦れで足が痛いって呟いたら、馬車に乗るなりお義姉さま方に脱がされて、柔らかい布で足をくるんで貰ったの。うん、大分ラクになりました。

 代わりに、乳圧で呼吸が苦しいけど。


「ああああもう、よりにもよってどうしてこんなに着飾られて……とんでもなく可愛いじゃないの!!」

「本当にもう!! 綺麗だし可愛いし、こんな可愛いシンデレラをアイツに見せたくなかったのに!!」

「あの変態……!! シンデレラに目をつけたら許さないから!!」


 一つ理解したわ。……私に怒ってるんじゃなくて、王子様に怒ってらっしゃるんですね、お義姉さま方。

 お義姉さま方がこんなに怒るって……王子様、どんな人なの。一曲踊っただけじゃよく分からなかったけど、馬車に乗って家族しかいない状況で落ち着いたら、結構どころか、かなりおかしな言動だったような。


 足踏まれて喜んでたわよね?

 お義姉様方の冷たい対応喜んでたわよね??


「…………あの、お義姉さま方、王子殿下って、変な人じゃないですか? なんだか、いろいろ、変なことで喜んでいたような、気が、するんですけど……」

「「「……!」」」


 なんだかお義姉さま方が固まってしまわれた。

 お父さんが深く深くため息をついて、悲壮な表情でうなずいてるから、私の考えは間違ってないなと思ったけど。


「いやぁあああああ、シンデレラが染まる、染まってしまうわぁあああ!!」

「駄目よ、嫌よシンデレラ!! あんな男に影響されてはいけないわ!!」

「もうあの変態のことは考えちゃ駄目!! いい? 記憶から抹消してちょうだい!!」


 お義姉様方の言葉に、ああ、やっぱりあの王子様変な人だったんだな、と、理解しました。


 あの、あと、お義姉さま方も私のこと誤解してるわ。

 下町育ちなの、私。変な人とか慣れてるから。純粋培養じゃないから。

 変な酔っ払いとかもたくさん見てるし、大丈夫大丈夫。


 王子様みたいっていう先入観で、とってもエライ高貴な人だと思ってたから、足踏んじゃったの悪いことしたなぁって思ってたけど、変態だったのなら良いや。


 ああ、でも、居るんだ……王子様でも、変態って……。


遠い目になるシンデレラ(笑)

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