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しんでれら(逆)  作者: マオ
5/10

五話目

「ご機嫌麗しゅう、殿下」

「やぁ、マデリーン。相変わらず綺麗だね、君たち姉妹は」

「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたしますわ」

「アデリーナ。そんな他人行儀な言葉で話さなくても良いんだよ?」

「滅相もございませんわ、殿下。王太子殿下にそのような応対、とてもできませんもの」

「サディーシャ。君もいつの間にそんなに大人びた物言いをするようになったのかな。女性は大人になるのが早いねぇ」

 見目麗しい王太子殿下は、どこか寂しそうにつぶやく。

 美しい姉妹は王太子のそんな寂しそうな表情もどこ吹く風といった様子で、穏やかに微笑んでいる。


 ――が、母親である公爵夫人は理解している。娘たちのあの顔は、心からの笑顔ではない、と。

 一見和やかに見える王太子と娘たちの間に流れている雰囲気は、緊張に満ちている。


「……ところで、君たちに妹が増えたと聞いたんだけど」

「まぁ、殿下。お気になさることもないような平凡な娘ですわ。とてもじゃありませんが、殿下の御前に参ることなどさせられません」

 うふふ、と、マデリーンが艶やかに微笑む。

「公爵夫人が一目ぼれした相手の連れ子と聞いたけれど」

「ええ、下町住まいの常識知らずですわ。殿下のお話し相手も勤まらないほどに」

 ほほほ、と、アデリーナが嘲笑する。

「……かなり綺麗な娘で、気立ても良いと聞いたけれど」

「殿下、伝わるお話に多大な誤解があるようですわ。殿下のお気に召すような娘ではありませんもの」

 無邪気に、サディーシャが笑む。

 その様子に、王太子殿下――アルエットはにこやかに和やかに微笑んだ。


「そうか。君たちがそんなにかばうような良い娘なのだね? それは会うのが楽しみだ」


 聡明な姉妹は悟った。末っ子になった可愛い可愛い可愛いシンデレラに、この王太子、なにかやりやがった、と。

 雷鳴がとどろく――外は晴れているはずなのに、見ている誰もがそれを感じ取った。


 ※※※


 このまま事故を装って消されるのかしらと思う私の名前はシンデレラ。


 暴走してない? この馬車。そしてどこに向かっているの? 御者はネズミだったから話が通じないみたいで、何度か止めてとお願いしてみたけれど、無視された。


 すごく怖い。私どこに連れて行かれるの?

 窓から見ても、あんまり見たことない場所が目に映る――っていうか、これ、貴族街抜けて、王城に向かってないかしら……ってお城!? 何でっ!?


 あ、そういえば……あのおばあさん、私に舞踏会に行けないなんて、かわいそうな娘とか言って……た、気が……いやぁああああ、誤解されたのね!? 違うの違うの、私舞踏会なんて行きたくなかったの!!


 おうちでおとなしくしてたかったのに……どうしたらいいのどうしたらいいの。お城に連れて行かれてるのは分かったけど、豪華なドレスの意味も分かったけど!


 行きたくないの私。心底から。

 そうだ、馬車が止まったらそこで回れ右すればいいのよ。帰ったらよいんだわ。

 馬車とネズミさんには悪いけれど、私、帰る。


 そう思って、止まった馬車から降りたら、迎え出た衛兵みたいな人たちに、

「ようこそ! お待ちしておりましたお嬢様!」

 と、笑顔でエスコートされました。逃げることを許さない感じ。お城になんて来たことないのに、どうして私のこと知ってる感じなの……?


 ※※※


「で、んか……わたくしたちの可愛いシンデレラに何をしましたの!?」

 マデリーンが思わず声を上げる。今までの淑女然とした様子とは違い、明らかに王太子に反感を持っているようだ。

「いやぁ、君たちがとても可愛がっているって聞いてたから、興味があってね? でも今日は出席しないって聞いたから、ちょっと配下の魔法使いを派遣して」

 悪びれずに白状する王太子アルエット。

「こ、の……」

 アデリーナの握る扇がみしみしと音を立てる。その様子は母親である公爵夫人とよく似ていた。

「やぁ、アデリーナ、怒っているのかい? 君のそんな声、久しぶりに聞いたよ」

 王太子アルエットは悪気など毛頭ないような言動だ。

「………………」

 末のサディーシャは声も出さずに王太子に視線を向けている。ただし、その温度は冷え切っており、寒気を感じさせる。

「ははは、サディーシャ、君がそうやって蔑む視線を向けてくるのも久しぶりだね」

だが、王太子アルエットは動じない。


 姉妹の態度に、むしろ楽しそうにしている王太子の目が――広間の入り口に向いた。


 ※※※


 問答無用でした。ええ、本当に。貴族とか王族とかその関連の人たちって、こっちの様子とか無視するの得意なのねきっと。

 お義母様とお義姉さまは別だけど。私の話もちゃんと聞いてくださるし……あの人たちと家族になれて幸せなのね、私、と今心底から思ったわ。お城の人たち、なんだか怖いんですもの。

 

 豪華な廊下を抜けて、広間みたいな場所に連れて行かれて、押し込まれたとき、視線が集中して、硬直した。なになになに!? 私、ヘン!? いえ、指摘されなくてもヘンだって分かってる! 帰らせてくださいお願いします。場違いだって私自身が一番分かってるから、どうか指摘しないでくださいお願いします。


 あ、お父さんやお義母様やお義姉さまがいるはず! 助けてお父さん……は多分ガッチガチに緊張してて、ここじゃ役に立たないだろうから、こういう場所に慣れているお義母様!!


 視線を巡らせると、お父さんと一緒にいるお義母様が目に入った。あと、お義姉さまたちもいらっしゃる!

 わぁあああ、お義姉さま、助けてぇえええ!!

 ボロが出る前に私を追い返してください!!


 と、視線で助けを求める私に、お義姉さまがたはすぐさま駆け寄ろうとして――、一人の男性がそれを阻んだ。お義姉さまたちよりも素早く私に駆け寄ってきたの。ドレスのお義姉さまより速いのはまぁしょうがないとは思うけど、どちらさま?


 なんだかすごく美形で、キラキラしてて、高貴な血筋の方って印象で……え、と、どなた?

 王子様とか公爵子息って言葉を人間にするとこの人になるような感じ。分かりやすく言えばお坊ちゃま。絶対どこか良い家柄の人。私には近寄りがたいです。むしろ離れてください。お義姉さまたちと一緒にいたいの。


 来たくないところに強制的に来ちゃったのなら安心する人のところに居たい。

 そう思う私に、男性は優雅に手を差し伸べた。


「美しいご令嬢。どうか私と一曲踊っていただけませんか?」


 …………ハ?


 何を言われたのか分からなかった私の背で、音楽が鳴る。え、ちょっと、ダンス!?

 こないだレッスンを始めたばかりの、ダンス!?

 無理! 絶対に無理です!! 転ぶ!! 練習でも何度も相手役の先生の足を踏んだし転んだのよ!? この立場のありそうな男の人の足踏んだら、どんなことになるか……!


 冷や汗が流れる私の手を、男性は優雅に引き寄せ、私は抱き寄せられた。ひえええええええ!?

 この人も問答無用だったぁああああ!?


 どうしようもなくなって、せめて足を踏まないようにと気を使ってダンスを始める。絶対踏んじゃだめ、踏んじゃだめ……駄目よ私。ガンバレ私!


「名を聞いても? お嬢さん」

「はへ!? え、あ、う、し、シンデレラと申します」

「美しい名だね。やっぱり君があの姉妹の義理の妹になったっていうシンデレラか」

「は?」


 お義姉さまたちのお知り合いなのかしら、と、思った瞬間、足を踏んでしまいました。

「っ」

「あ! す、すみませ――」

 謝って離れようとしたのに、離してくれない。

「いや、良いんだ……ふう、新鮮だね」

「は?」

 また踏んじゃったんですけど! でもこの人離してくれない! なんで!? 嬉しそうな顔してダンスを続行するんですけど。


「あ、あの、離してくれませんか。わたし、ダンスがとても下手で……また、足を踏んでしまうかも」

「いいんだ。むしろもっと踏んでくれないかな」


 ………………ハ?


 優雅な音楽が流れる中、私は高貴であろう男性の足を何度も何度も踏んづけて、結局一曲踊り切りました。この人、足腫れちゃうんじゃないかしら……絶対歩けなくなりそうな勢いで足踏んづけちゃったんだけど私。


「ふう、最高の時間だった……!」

 そしてなんでこんなに嬉しそうなのこのひと……?


 私の疑問は、一曲踊るまで礼儀正しく待っていてくれたらしいお義姉さまたちに阻まれた。


「シンデレラ! 大丈夫!? 気分が悪くなったでしょう、可哀想に……!」

「ああ、シンデレラ! 変なところを触られたりしていない!?」

「シンデレラ! まず何よりも消毒しましょう!!」


 あの、お義姉さまがた、どうなさったの?

 それより、私に足を踏まれ続けていたあの男性の手当てのほうが先では……?

王子もやっぱり、変。ええ、(逆)ですから。

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