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しんでれら(逆)  作者: マオ
4/10

四話目

 涙目でお義母様に訴えかけて舞踏会への出席をあきらめさせた私の名前はシンデレラ。


 だってお城でダンスとかもう無理。絶対無理。偉い人たちとかたくさんいらっしゃる中で転ぶのなんて恥ずかしすぎて死んでしまうと思うので、無理です。


 何日かお義母様と「行きたくないですお義母様」「ですが家族全員での出席が義務なのです」「右も左もわからない庶民の娘が出るなんて恐れ多いのですお義母様」「何を言うの。わたくしの可愛いシンデレラ。貴女も今はわたくしの娘なのですよ」「まぁお義母様、私だって本当の家族と思っておりますわ。嬉しいです。でも、お城は行きたくありません」とかなんとか舌戦を繰り広げていたのだけれども、昨日、唐突にお義母様が折れてくださいました。


 何か心境の変化がおありなのかしら?

 お義母様はすごく真剣な顔でおっしゃいました。


「……シンデレラ。とてもとても申し訳ないのだけれども、今回はお留守番してもらえるかしら? わたくしとしても可愛い貴女をお城に連れて行って自慢……いえ、お披露目したいのだけれど、少し事情が違ってきてしまったの」

「まぁ、お義母様、私、お留守番させていただきたいと申し上げておりましたわ。お義母様が気になさることなどありません。おうちでおとなしく皆様のお帰りをお待ちしておりますわ」


 お城に行かなくていい! 私はそれだけで十分です!! ええもう、本当に。

 さーて、なにしよっかなー、お部屋のお掃除して、それからお料理でもしようかしら? 久しぶりにお菓子作りなんてしてみようかな。

 お砂糖が庶民には効果で手が出せないから、なかなか作ることができなかったんだけど、実はお菓子作り好き。甘いもの食べると幸せな気持ちになるもの。


 ちょっと、ちょっとだけメイドさんにお願いして、料理しようかな。お屋敷の調理場にも何度かお邪魔しているけど、実際使わせてもらったことなんてないから、すごく楽しみ!


 ※※※


「お母さま、シンデレラを連れて行かないことにしましたの?」

「ええ……今回は……今回だけはッ!! あの娘を連れて行くことはあきらめないと……ッ」

「英断ですわお母さま! 連れて行くことなどできませんもの……なんせ今回は……王子殿下の花嫁探しも兼ねているとなっては……あの優しく美しく可愛らしいシンデレラを連れて行くことなんて……!」

「ええ。そうですわ。シンデレラを王子殿下の前になど出せません。もし、万が一、王子殿下がシンデレラを見初めでもしたら……!」

 美しい母娘たちは軽く身を震わせた。


 ※※※


 舞踏会当日。綺麗に着飾ったお義母様とお義姉さまがたと、頑張ったけど高価な服に着られているお父さんはお城に向かいました。お義母様もお義姉さまたちもすっごく綺麗! いってらっしゃーい。お父さん、いろんな意味で頑張ってね! どう見ても普通のおじさんだから、おとなしく部屋の隅っこにいるといいわよーって言ったら、お前は気楽だねぇ、と、苦笑いしてた。ごめん、お父さん。ほんとに頑張ってきてね。


 私はお留守番。なのでお見送りした後、真っ先に普段着に着替えたわ。そのまま調理場に直行!


「……お嬢様、本気でしたのね?」

「え、もちろんよ? 料理したいなんてそんなウソわざわざつかないわ」

 メイドさんが額を押さえてるけど、どうしたの、頭痛いの?


「……内緒ですよ? 奥様や上のお嬢様がたが知ったら、大騒ぎになりますからね?」

「分かってるわ。大丈夫、内緒にするから。でも、お義姉さまたちはお料理しないの? 料理するってそんなに大騒ぎすることかしら??」

「……お嬢様が手料理を作ったと知れたら『絶対に食べたかった!!』と、奥様方が泣いて悔しがりますから。なので内緒でお願いします」


 え、そっち?

 ……大げさねぇ。私の料理なんてたいしたものじゃないわよ。適当に、その場にある材料で、その日のおなかを満たすものを作るだけだもの。


「あるものでぱぱっと作っちゃうだけよ? とてもお義母様たちのお口に合う物なんて作れないわ」

「素晴らしいじゃないですか。主婦の鏡ですね」

「えー、結婚してないわよ私。主婦っていうのかしら?」


 お父さんと二人暮らしが長かったから、家事分担してただけなんだけど。

 笑いながら、メイドさんと一緒に料理した。卵でオムレツ、野菜と香辛料で炒め物、あとはスープを作って、パンをもらって、使用人のみんなとご飯。


「お嬢様の手作り……ッ!」

「なんとお優しい……ッ! あ、美味しい」

「みんなで食べると楽しいわよね! 家族と食べるのも大好きだけど、頑張って働いている皆と食べるのも楽しいわ!」

「…………お嬢様……!」


 どんどん食べてね! いっぱい作ったから!

 お父さんたちはお城で高価なもの食べてるだろうから、こっちはこっちでにぎやかに楽しく食べようね!

 …………あそこの男の人たち、なんでうつむいてるのかしら。

 あら? 泣いてる? もしかしてスープ塩辛かった!? しょっぱかったの言えずに我慢して食べてるの!? 言ってよ! 味付けしなおすから!

 あわてて行こうとしたら、メイドさんに止められた。


「……お嬢様、大丈夫です。美味しいですから。とても美味しいですから」

「そ、そう? じゃああそこでどうして泣いてるのかしら……」

「感激しているのです」

「……オムレツと野菜炒めとただのスープよ? え、普段どんなもの食べてるの!? もしかしてたまに読み物とかである、貴族からの使用人苛めとかで野菜のきれっぱしとかなの!?」

「違います。お嬢様、読む本は選びましょうね。お嬢様が料理をふるまってくれたことが嬉しくて泣いているのですよ」

「? 材料はここにあった物しか使ってないわよ??」

「………………いえ、良いのです。お嬢様、そのままでいてください。わたくしたちの癒しのためにも」

「?? う、うん」


 癒やしってどういう意味なのかしら……??

 なんだかよく分からないけど、その後でみんなに美味しかったって言ってもらえたから、嬉しかった。


 ちょっと欲張ってケーキも焼いちゃった……お父さんたちが戻ってきたら、食べてもらおう。

 と、いそいそとお片付けしてたら、使用人のみんなに「片付けくらいはわたしらがやります!」って調理場を追い出された。えー。片付け好きなのにー。口を尖らせたら、メイドさんに注意された。


「お嬢様、キスしますよ」

「は!?」

「いえ、ふてくされても可愛い顔してらっしゃるので。つい」

「…………部屋に戻ってマース!」

「そうしてくださいませ」

脱兎の勢いで逃げる私の背中に、メイドさんのちょっと楽しそうな笑い声が聞こえました。あの人私をからかって遊んでる。絶対。


 ケーキを持って部屋に戻ろうとしたら、見たことない人が話しかけてきた。真っ黒いローブを身にまとった、おばあさん。

 ……うちにこんな人いたかしら……? 大体の人は紹介してもらって、顔と名前はとりあえず一致してるはず、なんだけど、この人見たことない……。


「この晴れやかな日に、留守番をさせられるとは何て哀れな娘」

「どなた?」

 なんのことかしら。というか、どちら様? 不法侵入したひとなら、メイドさん呼ぶわよ。あのメイドさん、警護役も兼ねてるから、かなり強いって聞いたから。

 ちょっと警戒して身を引く私に、おばあさんはまだ話しかけてくる。


「この国の王子の花嫁が選ばれる日だと言うのに、若く美しい娘が、使用人と共に粗末な食事とは……哀れ極まりない」

 おばあさん、私の話聞いてます?


 今日って、王子様の結婚相手探す日だったんだー。へー。

……ってことは、あの、舞踏会、は……もしかし、て、もしかしなくても、花嫁、探し……?


 舞踏会行かなくて良かったーーーー!!

 心底から思った私に、おばあさんはうんうんと頷いて。


「そうじゃろうそうじゃろう。お前さんも舞踏会に参加したかったじゃろう? 置いて行かれて寂しく悔しく悲しい思いをしておったのじゃろうな。意地悪な継母と義姉たちに置いて行かれて……かわいそうに」


 いえ、全然。むしろ置いて行って下さいとお願いしてて良かったと思っています。あと、意地悪な継母と義姉って誰のこと?


「お前のような清らかで美しい娘こそ、舞踏会に行くべきだと言うのに……」


 いえ、全然。お留守番できて心の底から晴れやかに料理してました。


「わしにすべて任せなさい」


 え、何を。やだちょっと、このおばあさんなんだか怖い。やっぱりメイドさん呼ぼうかしら。

 迷った私に、おばあさんは杖を向けた。殴られる!? とギュッと目をつぶった。


 ら。

 なんだか不思議な言葉が聞こえて、ばふっと音がして。


 目を開けたら、着ていた服が豪華なドレスに変わってた。


「!? なんでッ!?」


 普段着がっ、私の普段着がっ!? 動きやすくて気に入ってたのにっ!!


「あとは……乗り物と、御者かの」

おばあさんは動揺する私を綺麗に無視して、どこからかかぼちゃとネズミを放り出した。


 ばふっと音がして。

 かぼちゃが馬車に、ネズミが御者になった。


 ええええええええ!? ナニコレ!? 何コレぇえええええ!? 家の中で馬車ってどういうこと!?

 廊下が広いから壊れてないけど、馬車の横側が廊下につっかえてるじゃない!


「これでよかろう。ただし、魔法は12時に解ける。それまでには戻ってくるのじゃぞ」

「ま、待って! 待って! 私こんなの望んでない――」

「頑張るのじゃぞー」


 ばふっっと音がして、次の瞬間、私は馬車の中に居た。馬車も屋敷の外に出たようで、あわてて窓から外を見たら、すごい勢いで走ってるのが分かった。景色はおうちの廊下じゃない。

私どこに連れて行かれてるの。これ誘拐って言わない? 逃げようかと思ったけど、速度はかなり出ているし、飛び降りたら怪我するわよね……どうしよう。どうしたらいいのこれ!?


 混乱して困る私を置いてけぼりに、状況は進んでいくばかり。


 誰か助けて……お父さん、お義母様、お義姉さまがた……。

天然なシンデレラ、拉致られる。

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