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しんでれら(逆)  作者: マオ
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一話目

 私の名前はシンデレラ。


 突然ですが、近いうちに私は殺されるでしょう――父と一緒に。

私の家は庶民も庶民。財産なんて微塵もない庶民なのに、公爵夫人からのお呼び出しを受けたのです。


 一体どんな不評を買ったのか、全然身に覚えもないけれど、貴族の人たちって庶民とは考え方も違うでしょうし。旦那様を早くに亡くされ、未亡人となった身で娘三人を育てている女傑らしいし。


 だからきっと私とお父さんは殺されるんだわ。

だって財産なんて何もないから、あと狙われるのは命くらいのものでしょ。


 多分殺されるんだなーって思ってぶるぶる震えている最中なの。

いやもう、怖い。怖いとしか思えない。絶対殺されるって。だってうちのお父さんも私も、ごく普通の民家に住んでる普通の親子よ!?


 お母さんは私が物心つくまえに死んじゃったから、寂しい思いもしたことはしたけど、反抗期だってあんまりなかった、仲良し親子、普通の父子家庭よ!?


 公爵夫人に呼び出される理由なんて本当にこれっぽっちも思い浮かばないわ!

 接点なんかないのよ。少しもかすらないくらいに生活だって違うし。

 なんでお呼び出しを受けたのかしら。全く身に覚えがないから余計に怖い、怖いわ。


 送り込まれたメイドさんによって迎えの馬車に押し込まれて、今現在、恐怖に震えているところ。


 ああ、あと何日生きていられるのかしら、私……。

 門から家までまた距離あるのね、このおうち。さすが公爵邸。

 と、逃避してみても、公爵邸は近づいてくるだけ。さよなら、私の人生……隣にいるお父さん、いままで育ててくれてありがとうございました……。


 遠い目をしながら、馬車を降りて、大きくて豪華なドアが開くのを見ていた。

お金かかってるんだろうなぁ。私、そういうことも疎いから良く分からないけれど。


 お父さんががっちこちに緊張している。でしょうね。私も蒼白になっていると思うわ。


 ドアが開いて――ゴージャスな美人が立っているのが見えた。

ああ……あの方が公爵夫人……三人も娘がいるって聞いたけど、そんな風には全然見えない。綺麗な人だわー。優しそうにも見えるけど、怒ったら怖いのねきっと……私たち、一体何をしたのかしらー……というか、なんで玄関ホールにいらっしゃるのですか、公爵夫人。


 偉い人って、きれいで大きな椅子に座って、自分からは動かないんじゃないのかしら。


 そんな風に思っていたら、公爵夫人は楚々とこちらに歩み寄り、私のお父さんの手を取った。


「急なお呼び出し、ご迷惑だったことでしょう。はしたない女と思わないでくださいましね」


 ……良い香り。うわー、うわー、近くで見ても綺麗な人!

 でもなんでお父さんの手を握ってるの? なんかすごく恥ずかしそうにもじもじしてるのは、なんで?


 私の疑問は、次の瞬間に爆発した。


「どうか、わたくしと結婚してくださいまし」


 ……………………はい?


 ※※※


 ええ、そのまま本人と娘を置き去りにして、結婚話はとんとん拍子にすすみましたとも。

 権力持ってる公爵夫人ですからね。プロポーズしたら早かったわよ。周囲を丸め込み、有無を言わさないあのスピード! 断ることを許さないあの雰囲気!!

 怖い。貴族怖い。


 やっぱり私とお父さん殺されるんじゃないかしら。財産ない以上、この結婚話の陰には公爵夫人と娘たちが実は猟奇殺人が大好きで、一般庶民なんて虫けらとしか思ってないから、実は地下室とか血まみれで、死体が山積みになってるとかそういうことなんじゃないかしら。


 短い人生でした。せめてこう……恋くらいしたかったわねぇ……。

 なんかこう、市場に売られる子牛のような気分になるわ。


 うふふ……留学していた義姉さんになる人たちとも今日初めて会うのよ。ものすごく不安だわ。

 何されるのかしら。どうされるのかしら。イジめられたら泣くわよ。号泣する勢いでやるわよ。


 怖い。不安だわ。


 メイドさんに連れられて、案内された一室。ノックをして「どうぞ、入ってらして」と涼やかな声に、メイドさんがドアを開けてくれる。

「どうぞ、お嬢様」とか言わないでお願い。私庶民。庶民! お嬢様とか言われたらなんかかゆくなってくるから!


 とかなんとかちょっと抵抗してみたけど、無駄でした。ええ、メイドさんは容赦なく私を室内に押し出してくれましたとも。


 ちょっとよろけて入った場所は広くって、ああ、このお屋敷って狭い場所無いんだなぁって実感したわ。悪かったわね庶民ですとも!


 室内のテーブルを囲む椅子に座っていたのは、もうなんていうか、絵にかいたようなお嬢様たちでした。ちょっと、猛烈な美人さんばっかりじゃないの、お母様に似たのね。うらやましいわー。


 逃避している私のところに、視線が集中……どころか、美人さんたち三人が駆け寄ってきました。


 え、ナンデ?


「まぁまぁまぁ、あなたがシンデレラね!?」

「いやああああ、お人形さんみたい! なんて可愛いの!」

「こんな可愛くて綺麗な子がわたくしたちの妹になるのね!? なんて嬉しいことかしら!」


 ハイ?


「あら、ごめんなさい、挨拶もしないで。はじめまして、シンデレラ。わたくし、あなたのお姉さんになる長女のマデリーンよ」

「はじめまして、シンデレラ。そんなに緊張しなくてよくてよ? あたくし、次女のアデリーナと申します。あなたと姉妹になれるなんて、とてもとっても嬉しいわ!」

「はじめましてシンデレラ! わたし、三女のサディーシャよ! 今まで末っ子だったから、妹ができるなんて、嬉しいわ!」


 エーット。


「まぁ、なんて綺麗な金髪。うらやましいわ、わたくしたち、赤毛か黒髪ばかりでしょう? お父様が赤毛、お母様が黒髪だから、金髪ってあこがれるのよ」

「ねぇシンデレラ、あなたに合うドレスをたくさん作りましょうね! あたくし、デザインをたくさん考えるから!」

「姉さまたちずるい! わたしもシンデレラと仲良くしたい! 仲良くしてね? シンデレラ!」


 なんか……良い人たちっぽいんですけど……あれぇ?

 ………………苛められるとか考えてた私が馬鹿みたいじゃ、ない?

「は、はじめまして……あの、お、おねえ、さま?」


 言ってみたら、一瞬こちらを見て固まった彼女たちは、次の瞬間、それはもう嬉しそうに微笑んでくれたのでした。


 美形の嬉しそうな微笑って、殺傷能力高いってことを初めて知ったわ。

 一瞬確実に心臓止まったもの。


 私、やっぱり殺されるかもしれないわ。というか、勝手に死ぬかもしれないわ。いつまで持つかしらね、私の心臓。


 もぎゅっと抱きしめられちゃったときなんか失神しそうになったわ……この姉妹、やっぱり私のこと殺そうと思っているんじゃないかしら。動悸で死ぬと思ったわ。


 美形って遠くで眺めているのが一番いいってことなのね……私、ひとつ悟りました。ええ、悟りました。

自分も美人だという自覚は全くない、シンデレラでございます。

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