《黄金都市》
《七色鉱山》の探索から三日後、遠征隊は無事に《黄金都市》へと帰り着いた。
無数の灯りと星の光に照らされた金色の街は、中心に近づくほど高い建物が連なっていて、運搬艇の上からは輝く丘のように見える。
外周を歩いて一周するのに、およそ三、四時間。運搬艇で飛んでも一時間はかかる広さの街には、万を超える人々が住んでいる。地下に広がる迷宮を含めれば、ここは《七色鉱山》より遥かに広大な「ダンジョン」だ。
僕たちを乗せた大型運搬艇が、外周部に配された港のひとつへと入っていく。何隻も停泊している運搬艇の間をゆっくり進んでいくのをぼんやり眺めていると、隣に立っていたナラカが桟橋に向けてロープを放り投げた。
待ち構えていた港の作業員がロープを繋ぎ止め、運搬艇が完全に止まったのを見計らって梯子が渡される。
遠征隊に参加した報酬を受け取ったら、遠征隊の仕事は完了だ。戦利品の検分や機体の整備のために近づいてくる人たちとすれ違いつつ、ナラカと僕は港を離れていく。
「ほら、野菜やるから肉よこしな」
受け取った袋の中には、僕が食べられない肉類も入っている。大通りの脇に移動して、不要な品物を交換していく。
「たまにはウチで飯でも食ってくか? いい酒が手に入ったんだが」
「ありがとうございます。でも、ちょっと疲れてるんで、今日はまっすぐ帰って寝ようかと」
「そうか。まあ、怪我もしてたしな」
ナラカは少し残念そうに頷くと、袋を担ぎ上げた。何かあったら呼べよと告げて、彼女は街の中心部、「上層区」へと消えていく。僕はそれを見送って、「下層区」にある自宅へと通じる横道を下り始めた。
「上層区」には、地下迷宮の攻略隊、他所の「ダンジョン」を探索する遠征隊や、侵入者から街を守る防衛隊に所属する人たちが住んでいる。
ナラカよりもずっと強い人がたくさんいて、毎日訓練用の区画に降りて鍛えているらしい。別に「上層区」に入るのに誰かの許可が必要、なんてことは無いのだけれど、そんな人たちが住んでいる場所に行くのは腰が引けてしまうのだ。
坂を下りていく途中で、ふとポケットに入れたままの片眼鏡のことを思い出した。片眼鏡の効果を確かめる方法はいくつか考えてあった。少しだけ実験してみようと、僕の足は「下層区」の広場へと向けられた。
広場の中心には、小さな時計塔が立っている。時刻は十時ちょっと前。一日は二十四時間というのは、何を基準に決めたんだろうか、と疑問がよぎる。
ポケットから片眼鏡を取り出して、左目につけてみる。ほんの少しだけ魔力を流してみると、視界の片隅に数字が現れた。
「これで、いいのかな」
時計塔を見上げると、文字盤の針が二重に見えていた。右目の視界はいつも通り。けれど、片眼鏡を通して見た時計は、五分ほど先を示している。片眼鏡に魔力を流すほど、時計の針は進んでいく。
「確定している未来、か」
視界に表示されている数字が、桁上がりして一時間を超えた。左目で見ている時計塔も、同じだけ先の時間を僕に見せている。
だったら、と時計塔から視線を外し、僕がやってきた道の方を向いてみる。途端、片眼鏡の透鏡が真っ白に曇り、何も見えなくなってしまった。
一時間後に何が起きるか、僕の行動次第で変わってしまうから、ということなんだろう。
ゆっくり息を吐いて、片眼鏡を左目から外す。込められていた魔力が散っていき、再び透明に戻ったそれをポケットに収める。
使い方は確かめられたけれど、いい使い道はとりあえず思い浮かばなかった。
名前: Naraka / 種族: Ogre / レベル: 12
体力: 180.0(180.0) / 膂力: 216.0 / 耐久: 180.0
魔力: 72.0(72.0) / 精神: 72.0 / 抵抗: 96.0
気力: 144.0(144.0) / 手先: 108.0 / 敏捷: 144.0
《先天特性:剛力》
膂力に+20%(1.2倍)の補正。
《技能:鬼人流格闘術》
戦闘系スキル。素手での戦闘に有利な補正。